1
エレクトリックおばあちゃん
渡辺源四郎商店
大笑いさせながらずしんと重いテーマを残す、畑澤作品は「これだけは言わねばならぬ」という気概に満ちている。その台詞の巧さ、構成の巧みさは井上ひさし氏の後継と呼ぶに相応しいと思う。ファンタジーと現実が一本に重なるときの衝撃たるや、終演後すぐには立ち上がれないほどだった。またこの舞台で、三上春佳という役者の底力を見た思いがする。
2
幸福な職場(再々演)
劇団 東京フェスティバル
今思い出しても胸が熱くなるような舞台だった。「再々演」の意義を大いに感じる。凝った設定やエキセントリックなキャラもない、ストレートで真摯な作品がこれほどまでに人を揺さぶるということが心から嬉しい。観る人を幸せにする作品だった。
3
楽屋
劇団チョコレートケーキ
劇団の定番となった「歴史的事実の裏にある人間ドラマ」とは一味違う、名作戯曲を演出したがこれが素晴らしかった。劇中劇の「三人姉妹」を独立して観たくなるほどの完成度は、気風の良さと繊細さを併せ持つ松本紀保さんのキャラがはまったことも一因かと思う。チョコレートケーキが繰り出す作品はすべてレベルが高いが、これは異なるテイストが新鮮だった。
4
うちの犬はサイコロを振るのをやめた
ポップンマッシュルームチキン野郎
シリアスな、あまりにシリアスな問題をここまで笑わせて観せる手腕に脱帽。被り物を前面に出しながら、その出来の良さにかぶっていることを忘れてしまう。横尾下下氏の戦慄の演技が今も脳裏に焼き付いている。この正義感と毒ッ気のバランスを引っ提げて、吹原幸太さんがどこまで行くのか、次にどんな作品を書くのか、どうしても目が離せない。
5
毒婦二景「定や、定」「昭和十一年五月十八日の犯罪」
鵺的(ぬえてき)
「昭和十年五月十八日の犯罪」を観た。阿部定のキャラをぬり変えるような作品。熱狂する大衆世論を背負いつつ犯罪者に迫る刑事と、覚悟を決めて取調室で正座する阿部定の息詰まるやり取りが面白かった。男たちの理解を軽々と超える、ハマカワフミエさんの圧倒的な存在感が素晴らしい。
6
星の結び目
青☆組
冒頭10分間で一族の栄枯盛衰を見せてしまう渋谷はるかさんが素晴らしい。吉田小夏さんが描く「滅びゆくものへの悲痛なまでの愛惜の情」を体現するのにこれほどふさわしい役者さんはいないのではないか。作者と役者の相性の良さで作品全体の格が一段と上がった感じ。
7
シットアウト
tubbing
座組みの面白さに惹かれて観に行ったが、舞台のつくり、台詞、キャラ設定、役者の個性とすべてがそろって大変面白かった。あの小玉久仁子さんに優男二人(大沼優記と末原拓馬)が絡むのが新鮮で、また小玉さんの演じた女性が実にいいキャラだった。思い切りの良さとキャスティングの妙、大沼氏のセンスの良さに期待が高まる。
8
『さらば! 原子力ロボむつ ~愛・戦士編~』
渡辺源四郎商店
私には二度目の「ロボむつ」だが、今回は高校生とのコラボレーション。これがまた素晴らしかった。アンサンブルという枠をはるかに超える高校生たちの演技にボロ泣きした。 やっぱりこれを入れないわけにはいかない。大笑いしているうちに事の重大さにうろたえ、最後は暗澹として深く考えさせる。作り手の問題意識と演劇の果たす役割を強烈に感じる。
9
パダラマ・ジュグラマ終演いたしました!総動員3672人。ありがとうございました!
おぼんろ
ファンタジーという何でもありの世界ではキャラの必然性がポイントになるが、末原氏の書く登場人物は全員、どこかに共感したくなる。人の心の普遍性をきちんと描いているからだと思う。公演ごとに観客動員数も上がり、劇団として上り坂の勢いにあるおぼんろ、この先の勝負を何としても見届けたい。
10
眠る羊
十七戦地
国会証人喚問をエンタメ化する、という発想が斬新。国防一族が想定問答集をもとにリハーサルをするという設定が巧みで、政治の問題が大変わかりやすく、また一般人とかけ離れた人々の価値観が皮肉なユーモアを生み出して秀逸。柳井氏の旺盛な好奇心から発生する次の作品テーマに興味が尽きない。