満足度★★★★
新作も期待される坂手洋二だが、過去作品にもじっくり取り組んで欲しいと思っていた。『カムアウト』に続く再演物は、坂手氏の好きなアイテム(分野?)くじらを題材にした戯曲の一つ。場転は殆どなく、使われなくなった作業場(鯨の解体所?)の中に、多彩な光景が位相となって出現する。
主人公の青年とその婚約者、彼の亡くなったはずの6人の兄たち(鯨捕りの一家であった)、母の死後引き取られた養母、婚約者の叔父、謎の女(婚約者と存在が重なり、兄弟の母でもあるかのよう)とその姉らが、幽霊かと思えば生きてる人、かと思えば間違いなく死者である者が出現、また幻視か錯覚か解釈不能の者、だがそれら全て夢と知って納得、と思いきや最もナイーブな部分は現実で・・といった具合に関係性の転換も実はめまぐるしく起こっていて最後まで観客を翻弄する。
そして舞台上には常に、風というのか、音、空気の肌触りが通奏低音のように流れている。それまでたった一人不在であった者が、最後に異形の者として現われた時、能の構図をみて合点させられる。人間の「死に繋がる」心の風景が、結語として置かれざるを得なかった(戯曲執筆当時の)作者の時代観察を想像させられるが、今に連続する風景である。
満足度★★★★
虚実綯交ぜの終盤は「戦慄」としか表現のしようがない。得体の知れないなにかに圧迫されていく感覚。恐怖、不安、困惑、不快…言葉にならない戦慄が走る。稀有な演劇体験。終演時、笑うでも泣くでもなく、唯々震えが来た。これも演劇だ。
燐光群の座組みのレベルの高さには、いつも驚かされるが今回も素晴らしかった。そして、前々から薄々自覚していたが、宗像祥子は確実に好きなタイプの俳優だ。今迄燐光群は、ダルカラ勢を観に行っている手前、自分の中で封印していたかな(笑)