満足度★★★
熱演ではあるが訴えかけが弱い気が
3日午後、六本木俳優座劇場上演された劇団銅鑼『池袋モンパルナス』の公演を観てきた。これは、題材に興味を持ったからである。
というもの、現在自分は千葉県袖ケ浦市に住んでいるが、以前は東京都北区に住んでおり、自宅周辺あった作家たちの集まる地域「田端文士村」と画家たちがあつまる地域「池袋モンパルナス」に興味を持っていたのだ。小熊秀雄が命名した池袋モンパルナスに関しては、CATVが俳優・寺田農(彼の父・洋画家の寺田政明はモンパルナスの代表的な存在だった)をMCとして特集番組を組んだこともある。
そこを舞台にした小説を書いたのが宇佐美承で、劇団銅鑼はそれを基に小関直人が戯曲化して1997年に初演。今回は脚本を改定し、演出に野﨑美子を迎えての再演ということだった。
舞台は、モンパルナスの画家たちが求めるシュルレアリズムの運動が弾圧されていく太平洋戦争時代の画家たちの行動や思想的葛藤を2時間余にまとめ上げたもの。
ただ、扱った内容が広く浅くという印象で、結局全体で何を言いたかったのか焦点がボケてしまったような舞台だった。これは、登場人物個々が熱演すればするほど焦点が曖昧になってしまうという問題を内在したままの演出に起因しているのだろう。いや、演出だけでなく、脚本的にももっと的を絞るべきではなかったろうか。
場面展開や女優陣(特に、土井真波)の熱演には感心させられたが、男優陣の熱演は、熱の入れ方がちょっと違うのではないかと思わせられる場面が度々あったのが残念。
音楽的には生演奏の部分や土井の歌などが舞台を和ませたり緊張感を盛り上げたり。
昨年別の劇団でうあはり画家を取り上げた作品を観た時に感じたのだが、画家の生涯や活動を舞台で取り上げる時の方法論を、もっとしっかり確立しなくてはならないだろうと思うのであった。
満足度★★★★
今だからこそ見たい
「描きたいものが描けない」。その叫びがどこまで客席に伝わるかがこの舞台の鍵だろう。戦時色が濃くなり、従軍画家の話や、兵隊を暗いタッチで描くものは駄目だとかのエピソードは出てくる。若き芸術家たちの苦悩も描かれてはいるものの、何だが意外にそのあたりがさらっとしているところが気になった。池袋モンパルナスが芸術家たちで活気にあふれていた時代ともっと対比させて、次々に届く赤紙で芸術家たちが絵筆を銃剣に持ち替えていく、そうした時代の苦悩をもう少し強烈に出してあると、もっと胸に響く舞台になったと思う。
とは言え、今の時代に見るべき戯曲である。1997年に初演された台本が20年近くを経て今、上演されるのはとても意義深い。「描きたいものを描きたいんだ」とお国言葉で叫ぶ若者たちの姿は、とても印象的だった。
キキ役の土井真波、紅一点の画家役の向暁子。この二人の演技はとてもよかった。楽曲で声がかすれる場面があったのは、連日の舞台の疲れなのだろうか。千秋楽まで頑張ってほしい。
満足度★★★
夢は受け継がれて・・・・。
第二次世界大戦直前の池袋に集う若い芸術家たち、中でも若い前衛画家にスポットを当てたこの物語、演じる若い役者さんたちの夢と役の彼らの夢が交差するような気がしました。夢半ばで、その夢を取り上げられた芸術家たちを力の限り、瑞々しく見せてくれました。
あの時代の無情さ、残酷さに胸がくるしくなりました。
陸軍幹部の三田さんがうまい!彼の顔つき、目つきにこの状況下の世間を見た気がしました。非常に怖かったです。
惜しむらくは、やはりベテラン役者さんのよく通る台詞に対して、若い役者さんたちの台詞があまり通らなくて、聞き取りにくい部分があったことです。
これからの課題でしょうか。
満足度★★★★
良い舞台でしたよ
昭和初期、「池袋モンパルナス」と呼ばれた池袋界隈の芸術家が集まるアトリエ村の話。画家・靉光を中心に展開される。彼については以前、劇団文化座「眼のある風景」の舞台があった。その作品の方が靉光の苦悩を深く表していたように思えた。それは展覧会で絵画を破損させる事件が印象的だったからなのかも知れない。
今回は舞台を全般的に考えてみた。演出の技なのか、作品の訴え方が台詞を中心にしたストレートの舞台と言うより、音楽、身体表現など多様な表現活動で構成されていた。とても魅力的であった。単なるバランスの問題かも知れないが、その分、言葉の力がやや弱かったようにも感じた。
昭和臭
演出は野崎美子さん。女性の演出家の方が大胆なアプローチや女優への露出要求ができるのかもしれない。新国立劇場演劇研究所4期生の土井真波さんが、文字通り体当たりの演技。背中の艶っぽさに釘付け。歌とダンスにも果敢に挑戦。充実しているのだろうなぁ。◆土井真波さんは研究所時代から体をはって演技されていた。今回、いいポジションでイキイキして見えた。歌もダンスも、まだまだ磨かれるだろう。彼女の成長に期待。◆あの頃の大戦へと向かう日本は、大きな権力に呑み込まれていた。そこで抑圧されていた芸術家や文筆家の苦悩、その辺が見えてくるともっと良かった。いろんな場面で、登場人物の台詞も感情も、やや淡白に感じたのが惜しい。本の段階でもう少し抉り出せたらもっと迫ってくる気がする。ただ、登場人物は皆、人がよくて、観ていてほっこりする。昭和の匂いが漂っていた。