実演鑑賞
満足度★★★★
三鷹市芸文星のホールと言うと今は名物「城山羊の会」の小屋のイメージが強くあり、リアルな飾り込み美術と奥行き、これを可能にする空間(上も高くて広いので声が吸われる面はあるが)として上質の劇場ではないかと近頃思い始めている。
その城山羊と見紛う美術が、出現していた。屋外。低く落ちた水路の上を渡した短い橋と、ガードレール、電柱を支えるワイヤーの黄色いカバー、車の進入を阻むポール、自販機。橋の向こうは森があり谷底へ下る道が続いている風である。リアルなセットの中でナンセンス、過剰、意識の落差、発想の突飛さ、人間の寄る辺無さ、無法な空気の中に芽生える道義心といった諸々が生起する。アンパサンド最大の特徴である「阿鼻叫喚」へ誘う予期しない設定は、今回もあるが、現象と「絶叫」のリフレイン的なホラーな展開は退潮して、不条理系の会話劇の面が広がっている。城山羊の会を思い出したのはそのために違いないが、城山羊の意地悪な笑いにまでは至らず、絶叫は抑えられており、微妙な高さをふらふらと飛行し、軟着陸した印象。
安藤奎のホラーな世界観が健在であったので、次に何を仕込んで来るのか楽しみにまた観に出かけてしまうんだろうな、と思う。
実演鑑賞
満足度★★★★
劇団初見。
気負ったところが全然ない。自然体の不条理劇。
笑おうと身構えている人たちから見たら退屈そのものであるかもしれない。
しかしどうだろう、細部は圧倒的に豊かだ。しかも、狙いは別にある(たぶん)。
スノッブに寄らず、普通世界の日常をベースに構築。レトロな舞台美術が最高。
ミニマムで、箱庭の庭園のような世界。
色々、力が入りすぎていた部分を削ぎおとしたのだろう。
ガツンと美味い関東風醤油味は食べ飽きたので、今回は繊細な出汁で楽しむ京料理。
ドラマとははっきり決別した上でのこの路線、作り方を間違うと下手したら何も残らなくなる。
そんなエッジを攻めた佳作。エッジの向こう側に落ちずに、しっかりと出汁の味が効いている。
実演鑑賞
満足度★★★★
面白くて驚いた。松本人志とかのセンス系の笑い。昔、中崎タツヤの短編でサラリーマンのおっさんが帰宅途中、UFOの墜落に遭遇してしまうネタがあった。脱出してきた宇宙人が必死に助けを求める。おっさんは「いや、自分そういうんじゃないんで。」と手で制して去っていく。こういう笑いが大好きで発想の切り口に感心する。今作も着眼点と向かう場所が秀逸。これは売れる。
舞台は急な坂の降り口、自販機が置いてある。話しながら歩いている会社帰りのOL二人。永遠の主人公、西出結さんと、誰にも内面は掴ませない永井若葉さん。そこにダッシュで降りて来たランナー、奥田洋平氏が邪魔だとばかりぶつかって来て逆ギレ。気の違ったような猛烈なキレ方。この冒頭部分だけでメチャクチャ面白い空気が充満。奥田洋平氏はリアル、町中に普通にいる男だ。キレ方や言葉の語尾が最高。
重岡漠(ひろし)氏は生真面目にズレている男を。
岩本えりさんは大久保佳代子系の無駄なエロティシズムを漂わせる。
作・演出の安藤奎さんも重要な役で出演。
ランニングに嵌った連中にとってこの坂は魅力的。だが通行人からすれば迷惑。
段々皆何を考えているのか判らなくなる。もしかしたら自分の方がおかしいのか?
超満員の客席だが客層に広がりがある。シュールなコントを求める若い連中だけでなく、いろんな視点から支持されている。西出結さんのキャラが中心に在る限り安泰。彼女の立つ視点は時代を越えたもの。数千年前も数千年後も揺るがない。
是非観に行って頂きたい。