あの瞳に透かされる 公演情報 あの瞳に透かされる」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 4.2
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  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    初日、喋り倒す人物の役がその加重な役割に翻弄されていた印象が強く残ってしまったが、作品の力強さには最後に頭を垂れた。
    老齢の役(演じるその人も中々の、と見受けた)の藤夏子、メリハリの利いた立ち方に好感、既視感もあったが、後で調べると今は八十路で映像の方に随分露出していたらしいからTVか銀幕の向こうに見ていた可能性は高い。この人がオーラスに往時を思い出して動揺する場面がある。恐らく本当に動揺してしまい何か(台詞?)を見失った風であったが、その臨場感に飲み込まれた。
    テーマは「慰安婦」。歴史修正がまかり通る巷の言説と、その背後にある思想の貧困、精神性の貧困(自立の対極)、即ち現代の病を照らし出す芝居でもあった。

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    鑑賞日2024/09/05 (木) 19:00

    座席1階

    「あの瞳に」というタイトルの意味を、劇場を後にして反すうすることになる。くるみざわしんらしい、見事な脚本だった。テーマは従軍慰安婦と写真展。右派の反対運動を恐れて行政や大企業が口をつぐんでしまうという事態が相次ぐ中で、意欲的な舞台だ。

    世界に冠たる大手カメラメーカーが従軍慰安婦の写真展を開こうとしたが、SNSなどで脅迫めいた投稿が相次ぎ写真展の担当者男性は中止を決定する。表現の自由を制限したとしてこの男性は訴えられ敗訴するが、男性は株主総会の炎上や会社の上層部を守ったとして形ばかりの取締役に引き立てられ、南国の島に「左遷」させられる。
    男性と妻が島で暮らしているのは、会社が所有しているリゾート物件。だが、実はこの建物にまつわる、避けては通れない歴史があった。それは舞台の進行で明らかになる。閑職に追いやられた男性はフリーマーケットで天使の人形を買い集める。この天使の人形の瞳が何を語るのか。舞台はこの島での従軍慰安婦の歴史や、歴史を記録する写真というメディアの価値など、さまざまなことを客席にぶつけていく。

    Pカンパニーの「罪と罰」シリーズには定評がある。それに加え、今回はくるみざわしんの戯曲とのことで期待して出かけた。期待を裏切らない出来栄えだったが、途中に休憩をはさんだのはもったいなかった。せっかく盛り上がった緊張感が途切れてしまった。でも、それだけで☆を減らすのはどうかなと思って五つにした。登場する俳優たちも、それぞれ独特の個性や役割を与えられた配役を、きっちりこなしていた。

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    第36回池袋演劇祭参加作品。重厚骨太といった作風で観応え十分。
    説明では、「従軍慰安婦」写真展を通して表現の自由と責任を問うとある。しかし、もっと核心に迫るー従軍慰安婦は国家の強制なのか、諸々の条件も含め国のための自発的な行為だったのか を問うている。勿論 問われているのは観客1人ひとりにである。

    舞台としての面白さはあるが、説明不足なのか自分の理解不足または台詞の聞き逃しがあったのかもしれないが、分かり難いところがいくつかある。そもそも説明にある過去を蒸し返す無遠慮な男の正体が謎めいている。
    物語は大手カメラ会社に勤務する男は、6年前 元「従軍慰安婦」の写真展の企画責任者だった。しかし、インターネット上に従軍慰安婦はデマだと書き込まれ、会社への抗議行動を恐れ写真展を中止した。男は写真家の表現の自由を侵害したとして裁判を起こされ敗訴した。しかし会社を守ったと評価され、取締役に昇進し会社所有の施設に住んで悠々自適の暮らしをしている。そこへ無遠慮な団体職員(配役)がやってきて…。
    登場人物は5人、役者はその立場を鮮明にし 緊迫した会話を繰り広げる。その情景を支えている舞台技術が実に効果的だ。重低音の音楽が流れ、モノクロ的な単色照明が緊張感を漂わせる。

    この施設(自宅)に出入りしている建築業の女性の存在が妙。会社の人間でもなければ「従軍慰安婦」問題にも直接関わらない。かって医者であったが患者と向き合うことが出来なくなり、今は建築業を行っている。患者という「者」を看ることが出来ず、今では「モノ」を見ている。そこに本来直視しなければいけない問題、核心から目をそむけているといった典型的な人物を配したように思える。

    劇中、チラシPhotoにある陶器の天使 と タイトルに係る台詞が繰り返し出てくる。今あるのは過去の残骸の上に成り立っている社会なのか?本作は実際にあった事件(2012年)を元に劇作家くるみざわ しん氏が劇作したもの。その根底にあるのは戦争の悲惨=反戦を語り継ぐことだろう。その断片を表現の自由に絡めて描いている。
    (上演時間2時間20分 途中休憩10分含む) 

    ネタバレBOX

    舞台美術は、中央壁にスクリーン、半円を描くように階段があり上手に出入口2つ。1つは二階へ、もう1つが地下へ通じている。中央から下手側にテーブルとイス。その奥に衝立風の玄関がある。会社 施設(現在は坂中家)の居間。上演前から波の音が聞こえ、海の近くにある建物のよう。

    物語は、夜中に大きな音がして、それが何か調べるところから始まる。夫 坂中正孝(内田龍麿サン)と妻 曜子(木村万里サン)とで聞こえた場所が違う。原因を建築業の小竹さなえ(木村愛子サン)に依頼する。そこへ施設管理人 池田千江(藤 夏子サン)が男 高田靖(磯貝誠サン)を伴ってやってくる。高田は6年前に正孝が企画した「従軍慰安婦」の写真展を中止したことを非難し追及してくる。カメラマンの表現の自由を侵害した裁判では決着(敗訴)しているにも関わらず…。

    高田は会社の指示で動き回っているようだが、団体職員が なぜ会社幹部(社長)に知り合いがいるのか、何が目的なのか判然としない。「従軍慰安婦」は国家の強制ではなく、亡国を憂いた当時の女性たちが自発的に行った行為、それを写真展を通して公にするようだが…。大手カメラ会社や高田にどんなメリットがあるのか?会社として株主総会を乗り切り、判決から3年も経っている。

    この会社施設はかって従軍慰安婦が居た場所、そして戦時(空襲)中 陶器の天使を街の彼方此方に埋めた。なぜそうしたのか千江にしても分からない。ただ風潮だったという曖昧な説明。にも関わらず、後ろを振り向いた天使像に絡めた台詞が繰り返し語られる。過去の残骸の上に成り立っている現在(社会)、それを教訓化するには、もう少し丁寧な説明(理由の回収)が必要ではないか。いくつかの疑問が残るが、現実にあった事を題材に社会的関心度が高いテーマに挑んでいる。Pカンパニーらしい公演<シリーズ罪と罰CASE12>だ。

    舞台技術…先にも記したが 音楽は低重音で響かせ、照明はモノクロ的で色のない(死の)世界を連想させる。物語の雰囲気に合わせており実に効果的で印象に残る。
    次回公演も楽しみにしております。
  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    実在した表現の自由の事件を素材にした現代劇である。
    戦時の従軍慰安婦の写真展を、世間に批判を畏れて大会社が中止した。会社は責任を担当取締役(内田龍磨)一人にかぶせて左遷、地方に住まわせて、ほとぼりが冷めるのを待つ。そのいきさつを嗅ぎつけた運動家グループが、むしろ謝って公開した方が大会社に取っては利益になると、二枚舌平気の弁護士(磯谷誠)を派遣してくる。会社も二重構造なら社会の倫理もダブルスタンダードなのだ。
    現在の週刊誌的話題ではよくある構造で、どちら側にも現代ならではの問題構造に対して実にナサケナイとしか言いようのない正義がくっついている。
    しかし、今は身近なゴミ問題から世界的なロシアの侵攻問題まで、どこにもありがちの、昔風の正邪では裁ききれない問題を舞台で観客に見せるのは難しい。問題はそれぞれ弱みも持っている。多くのことに表裏の諸条件が複雑に絡み合っている現代をどう生きるかと言うテーマはかなり面白く演劇的でもある。しかし、この舞台では残念ながら設定にぼろが出すぎた。最後に、突然、主人公が田舎のフリマで天使の人形を集める、と言うことへテーマの解決を持っていっても無理がありすぎる。主筋の写真展の中身の従軍慰安婦問題や、会社内の内部抗争、まで、さまざまな立場の人間に役割を拡げすぎて整理されていない。この作者は関西の医師出身の劇作家で、過去にも東京で見たことがあるが、このようなとっ散らかり方はしていなかった。劇団として、はじめての作家との取組み方にも混乱の原因があったように思える上演だった。客席は満席だった。


    ネタバレBOX

    現実性の強い素材で、ここで現代の本質を掴もうとすると難しい、現実素材なのに嘘っぽい。先例では、中津留のトラッシュマスターが随分長い間苦労した。今は、こういう素材だと中津留が一枚も二枚も上手である。経験がものを言う。古川健も歴史を扱って上手い。勝負のハンイをそれぞれがよく知っているからだ。さらに言えば、俳優たちが従来の良い役、悪い役でやろうとしすぎている。そこはpカンパニーのような古い劇団の解釈癖だろう。演出者の責任でもある。民藝もどきで古い古い。

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