ダンシング・ヴァニティ 公演情報 ダンシング・ヴァニティ」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 3.4
1-8件 / 8件中
  • 満足度★★

    意欲は買うが・・・
    筒井康隆の小説を演劇的に視覚化するのはなかなか難しいと思う。
    個人的に大好きな作家で、昭和に書かれたものは愛読していたが、本作は読んでいない。
    筒井作品は白石加代子の「百物語」シリーズなどで観たことがあるが、彼女のような力量ある名優の手によって演じられると、小説とはまた違うおかしみや怖さが出て泣き笑いしてしまうのだが、今回の上演作はそれに比べると満足度は低かった。

    この劇団、川口、清末両氏ともに、かなりの文学青年で、本公演もその嗜好が強く表れているが、原作の再現にこだわった割に「読み芝居」的にも成功しているとは思えなかった。
    夢の世界の反復が筒井氏の文章なら読み飽きないと思うが、演劇となるとそうはいかない。
    学生の実験劇ならこれでも「まぁ、そうか」と思うし、小劇場の芝居を見慣れている人なら違和感はないかもしれないが、一般客対象に見せるなら、もっと思い切った脚色による工夫がないと、冗長な印象で魅力に欠けると思う。
    若手といっても前身の時代から数えれば、彼らはもう何年もキャリアを築いているのだから。

    この手法で見せるなら、せめて1時間40分くらいに凝縮できたのではないかと思った。
    ピーチャム・カンパニーの芝居はこのところずっと2時間30分近くの長尺で、それが定番化しているように思うが、「長ければ大作として感動できるか」というと、必ずしもそうとはいえないし、決して成功しているとも私には思えないのだが。

    コアな上級演劇ファンさえ観てくれればいいという劇団ならあえて私のような素人客は何も注文はしないがこの劇団にかかわっているメンバーをかなり昔から観てきた者としては残念な思いがある。

    チャレンジした意欲と俳優の努力と熱演に敬意を表しての☆2つである。

    ネタバレBOX

    電光掲示板を使用したり、パントマイム的な白フクロウ(金崎敬江)の存在が目を引き、音楽と共になかなかお洒落な感じだった。
    ただ、金崎のダンスと芝居がマッチせず、アンバランスで浮いた印象になる場面もあった。

    ビニールプールにたくさんのカラーボールを入れた舞台美術はなかなかのアイディアだと思う。
    カラーボールの海から飛び出した面々のオープニングのダンスは世田谷シルクを思わせポップな感じだったが、話が進むにつれ不協和音をずっと聞かされているような辛さが続いた。

    脚色というと、タレントの写真を切り抜いて作ったチープなお面による「SPEC」の無意味なパロディーやベタな張り扇やゴムパッチンなどお寒いギャグで、センスの悪さに閉口した。

    せっかく古市海見子や小野千鶴のような個性的な女優を排しているのに、男女役を入れ替えて演じてもあまり効果を感じないところもあった。

    日ケ久保香の秘書はなかなか魅力的で、前作の「黄金の雨」の役よりずっと良かった。

    音域の幅が大きすぎて八重柏泰士の負担になったのか、声帯を傷めてしまったと聞き、俳優の力配分を考えなかった演出の責任も大きいと思った。

    荷が重いのか、千秋楽近くでもセリフをつっかえたり、滑舌がうまくいかない俳優もいて、いったい誰のための芝居なのかわからなくなってくる。

    パンフの記載で、今回、清末氏が脚本からはずれ、「脚本協力」となっていた。
    構成・演出は川口氏が担当されたようで、当初のプランとは変えたらしい。
    ピーチャム・カンパニーになってから、全体的に川口氏の影響力や色彩が濃くなっているように感じる。
    サーカス劇場の時のように、もっと清末氏が真に書きたいものを伸び伸び書かせてみたらどうだろう。きっちり役割分担し、演出で川口氏の味を出していったらよいと思うのだが。

  • 満足度★★★★

    役者の圧倒的な熱量
    筒井康隆の原作をピーチャム流にアレンジして独自の世界を創り出している。

    堂下勝気と小野千鶴が圧倒的にいい。特に今回は小野千鶴の目にしびれた。平川直大もいい味を出している。役者が力量があるので見応えがある。

    東大出身の若手劇団なのに熟練劇団のような渋ささえ感じさせる不思議な劇団だ。金崎敬江の踊りも素敵だった。

  • 満足度★★★★

    凄まじく刺激的
    「場面反復」の超実験的小説、筒井康隆の『ダンシング・ヴァニティ』をピーチャム風にアレンジするといったいどんな情景になるのだろうか、とワクワクしながら劇場入りした。ここの舞台はとにかく狭い。だからこの壮大なる回想劇のセットも見ものだった。結果、ちょっとしたワンダーランド的な夢物語になったのではなかろうか。

    以下はネタばれBOXにて。。

    ネタバレBOX

    主人公の美術評論家は定説に異を唱える浮世絵論を発表してベストセラーとなり、娘とめいはコンビを組んでクラブの人気歌手となる。妻は神経症のため頭を左右に振る。この一家の物語だが、時間はまっすぐ流れず、ひとつの場面が何度も反復され、そのたびに少しずつストーリーがズレながら進んでゆく。主人公は時空を超えて江戸時代や戦時中と往還する。早世した息子や亡父、コロス(劇の合唱隊)や歌舞伎の登場人物も「現実」に乱入する。なんとも奇妙でパラレルワールドな展開だ。コロスはギリシャ劇でよく登場するので御馴染みな場面だ。

    この小説の繰り返しは語り手(おれ)の臨終の床で回想される記憶ということであり、その瀕死時の走馬燈が廻るような記憶の繰り返しそのものが言語化されているということになる。

    これらは本当にあったことなのか、現実に記憶をつけ加えたものなのか、妄想なのか、夢の中の出来事だったのか、または反復そのものが実際にあったことなのかも解らない。人間の記憶の断片は部分的に強調されたり、省略されたり、回想するうちに歪曲されていくものだけれど、失敗も含めて通過してきたことで現在の自分がある。終盤にどの道を通っても完成された死はない、と主人公は知るのだ。

    ここで白い顔のフクロウの存在だが、常に「おれ」を冷静に見ているこの者は何かの象徴なのだろうけれど、もう一人の「おれ」なのかもしれない。

    これだけの膨大でスピーディーなセリフを覚えたキャストらにまったくもって感服する。一番面白かったのは「ねずみ捕り」の場面だ。八重柏が演じる鼠はなんだかチーズを片手にカジカジ喰らってるような小悪党っぽい鼠でとにかく楽しい。強いて言うならセリフを吐くのが必死な役者が居て表情に悲壮感が漂っていた。それと手作りのお面やゴムパンチのシーンは学芸会風でなんとも頂けなかった。
    2時間20分の長丁場の中、何度も繰り返される同じシーンを飽きずに観られると楽しめる舞台だ。

  • 満足度★★★

    切なくユーモラスなコーダを伴う変奏曲
    いくつかの短いエピソードが2度、3度と反復され、その度に少しずつ変容していく実験的な要素のある小説を、スラップスティックな演出で舞台化していました。原作を読んでいないため、舞台化に際してどう脚色されたのか分かりませんが、演劇ならではの表現を用いた作品になっていたと思います。

    年老いた美術評論家が走馬灯のように過去を回想する物語で、話が繰り返される度に妙な話になっていく様子が楽しく、終盤はいよいよ話が断片的になって入り混じり狂騒的になりながらも最後には切なさを感じさせる不思議な雰囲気がありました。

    今までのピーチャムの作品と比べて演出の土臭さが抜けていてフレッシュな感じを受けました。色とりどりのボールで埋め尽された大きなビニールのプールと、上手にぶら下がる場面や曲名を表示する電光表示板の舞台美術など、クールでポップな雰囲気でした。物音を口でそっけなく表現したり、似非外国人風の台詞回しの中、特定の単語のみに特異なアクセントと身ぶりを付けたりと、演技の演出に関しても実験的なモードを取り入れていて新鮮でした。金崎敬江さん演じる(台詞はなく、マイムやダンスのみ)ホワイトオウルが物語構造の外から全体を俯瞰するような立場を表現していて、作品に奥行きを与えていたと思います。

    冒頭から少し経ったところでの役者の登場シーンにインパクトがありました。終盤の色々な場面がシャッフルされていくところでは電光表示板をうまく使って畳み掛け、混沌とした感じが良く出ていました。プールを棺桶に見立て、散華するようにボールを投げ入れる主人公の葬式のシーンが美しかったです。その後、主人公が起き上がりまたエンドレスな繰り返しが続くのかと思わせたところで終わるのがユーモラスで良かったです。

    おそらく原作にはないと思われる、ゴムひもやハリセンや芸能人の顔写真を切り抜いたお面を用いた小ネタは面白くなく、また話の流れを崩していて効果的ではなかったと思います。電光表示板にテキストが表示されるタイミングが全然合っていないところが多々ありました。ぴったり決まれば格好良くなりそうなので勿体なく思いました。

    役者に関しては男性陣、特に2人1役で主役を演じた2人が台詞を追い掛けるのでいっぱいいっぱいな感じで、噛んだり落ちたり滑舌が悪かったりが続き、声も枯れ気味だったので、安心して観られる状態ではなかったのが残念です。歌や身体表現も稚拙な感じがあり、もう少し高いクオリティを見せて欲しかったです。

    やろうとしていることはチャレンジングで面白そうなのに、全体的に技術が追いついていなくて、もどかしい印象を受けました。よりブラッシュアップすると、とても面白い作品になりそうな気配が感じられました。

  • 満足度★★★★

    やらかしてしまった人生の痴部を否応なしに思い出し、むせび泣く
    所詮人間の人生なんてフクロウがコーヒーを入れて飲むまでの束の間の出来事なのね。私も最近、やらかしてしまった人生の痴部を否応なしに思い出し、むせび泣くことが多いです。

    原作がこんなにぶっ飛んでる作品なのか、近日中に読んで確かめようと思います。

  • 満足度★★★

    貴重な体験(笑)
    芝居自体は、繰り返す場面が多くしつこいが、なかなか面白い!
    でも芝居が終わった後、「出演者、観劇者の皆さん、お疲れ様でした。一本締めをしたいと思います、お手を拝借」って言いたくなるほど、芝居が長いです、休憩なしの150分(笑)。
    仕事帰りの平日、貴重な体験でした(笑)。
    これは、評価が分かれると思うし難しいなあ。
    誰のための公演なのか?って思う瞬間はあったのは確か。
    出演者?観客?のどちらって思うかにより評価が変わると思う。
    あとはネタバレで。

    ネタバレBOX

    この芝居、入場開始が公演時間の20分前。
    なんでこんな中途半端なのかな?って思っていたのですが、役者さんたちが、舞台中央のあの中に隠れてます。
    本当にびっくり!!公演10分前入場でも良いくらい(笑)
    芝居は、同じようなシーンを繰り返し繰り返し行います。
    これがこの芝居の売り。
    なので、ある意味役者と観劇者の我慢比べ的なところもあります。
    私は楽しめましたが、普通の人にはちょっと辛いかも。。
    途中で歌やダンスなどがあり、気分転換として楽しめます。

    一般受けの芝居にするなら、90分くらいにまとめた方がよいでしょう。




  • 満足度★★★★

    面白いけど疲れるー!
    「ある男の人生の記憶を、繰り返し、反復し、陽気に躍り続け演じる」のも大変ですが、それを見守る方も大変です。

    ネタバレBOX

    最初に役者さんたちが飛び出してきましたが、あれってずーっとあそこに隠れていたんですよね!

    底が奈落に繋がっているのかなとも思いましたが、どうもそんなこともなさそうで、開演までの15分程お疲れっす!!それで開場が遅れたのね!そしてフクロウがうろうろすることで注意を反らすようにして。

    さてお芝居の方はというと、同じようなシーンを、例えば家の前の喧嘩はやくざだったり相撲取りだったり少しずつ違うのですが、それを3回ぐらい繰り返すものですから、面白いっていえば面白いのですが、観ている方はあああと2回やるんだなと思ってしまったらもう大変、苦行でしかありません。

    私はレミゼを何回も観るというようなタイプではなく、1回観たらそれでいいという方なので特にいらいら感が募りました。

    演者たちはそれを知ってか知らないでか、もうどんどんどんどん調子に乗ってやるものですから、最前列の傍若無人な学級崩壊おばさんなんか、シャメで何度も写真は撮るし、コンビニ袋をがさがさ言わせて飲み物は飲むし、開演前にトイレに行ったのに途中でまたトイレには行くし(病気だったらごめんなさい)、役者がビニールボールをプールに入れるのを勝手に一人で手伝ったりはするしで、このおばさんいったい何なんだと、さらにいらいらしました。

    そんな全体を含めてピーチャム・カンパニーらしく、くそーッ、楽しんだことになるのかな。
  • 満足度★★★

    恐怖のコピペ演劇!
    としか言いようがない。完全に筒井康隆の世界ですね。切羽詰ったような、奇妙に余裕のあるような、真面目でいてふざけたような、軽くて重いぎりぎりの文章が繰り返されるのが筒井文学ですが、それを忠実に再現している2時間半の演劇です。観ていてしんどいですが、筒井ファンにはたまらないかも。筒井文学自体がかなり実験的なものですが、この劇もかなり野心的。観客を楽しませることなど全く考えておらず、ひたすら筒井ワールドをコピーしているのには、いっそ潔さを感じました。人の記憶のやっかいさ、変える事の出来ない現実。どんなに自分にうそをついても、記憶を捻じ曲げようとしても、記憶と心に刻まれたトラウマは形を変え姿を変えて何度も何度も浮上する。ひたすらこの繰り返される記憶との戦いを演じた舞台でした。美術はかなりシンボリックで、おもしろかったかな。

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