満足度★★
意欲は買うが・・・
筒井康隆の小説を演劇的に視覚化するのはなかなか難しいと思う。
個人的に大好きな作家で、昭和に書かれたものは愛読していたが、本作は読んでいない。
筒井作品は白石加代子の「百物語」シリーズなどで観たことがあるが、彼女のような力量ある名優の手によって演じられると、小説とはまた違うおかしみや怖さが出て泣き笑いしてしまうのだが、今回の上演作はそれに比べると満足度は低かった。
この劇団、川口、清末両氏ともに、かなりの文学青年で、本公演もその嗜好が強く表れているが、原作の再現にこだわった割に「読み芝居」的にも成功しているとは思えなかった。
夢の世界の反復が筒井氏の文章なら読み飽きないと思うが、演劇となるとそうはいかない。
学生の実験劇ならこれでも「まぁ、そうか」と思うし、小劇場の芝居を見慣れている人なら違和感はないかもしれないが、一般客対象に見せるなら、もっと思い切った脚色による工夫がないと、冗長な印象で魅力に欠けると思う。
若手といっても前身の時代から数えれば、彼らはもう何年もキャリアを築いているのだから。
この手法で見せるなら、せめて1時間40分くらいに凝縮できたのではないかと思った。
ピーチャム・カンパニーの芝居はこのところずっと2時間30分近くの長尺で、それが定番化しているように思うが、「長ければ大作として感動できるか」というと、必ずしもそうとはいえないし、決して成功しているとも私には思えないのだが。
コアな上級演劇ファンさえ観てくれればいいという劇団ならあえて私のような素人客は何も注文はしないがこの劇団にかかわっているメンバーをかなり昔から観てきた者としては残念な思いがある。
チャレンジした意欲と俳優の努力と熱演に敬意を表しての☆2つである。
満足度★★★★
役者の圧倒的な熱量
筒井康隆の原作をピーチャム流にアレンジして独自の世界を創り出している。
堂下勝気と小野千鶴が圧倒的にいい。特に今回は小野千鶴の目にしびれた。平川直大もいい味を出している。役者が力量があるので見応えがある。
東大出身の若手劇団なのに熟練劇団のような渋ささえ感じさせる不思議な劇団だ。金崎敬江の踊りも素敵だった。
満足度★★★★
凄まじく刺激的
「場面反復」の超実験的小説、筒井康隆の『ダンシング・ヴァニティ』をピーチャム風にアレンジするといったいどんな情景になるのだろうか、とワクワクしながら劇場入りした。ここの舞台はとにかく狭い。だからこの壮大なる回想劇のセットも見ものだった。結果、ちょっとしたワンダーランド的な夢物語になったのではなかろうか。
以下はネタばれBOXにて。。
満足度★★★
切なくユーモラスなコーダを伴う変奏曲
いくつかの短いエピソードが2度、3度と反復され、その度に少しずつ変容していく実験的な要素のある小説を、スラップスティックな演出で舞台化していました。原作を読んでいないため、舞台化に際してどう脚色されたのか分かりませんが、演劇ならではの表現を用いた作品になっていたと思います。
年老いた美術評論家が走馬灯のように過去を回想する物語で、話が繰り返される度に妙な話になっていく様子が楽しく、終盤はいよいよ話が断片的になって入り混じり狂騒的になりながらも最後には切なさを感じさせる不思議な雰囲気がありました。
今までのピーチャムの作品と比べて演出の土臭さが抜けていてフレッシュな感じを受けました。色とりどりのボールで埋め尽された大きなビニールのプールと、上手にぶら下がる場面や曲名を表示する電光表示板の舞台美術など、クールでポップな雰囲気でした。物音を口でそっけなく表現したり、似非外国人風の台詞回しの中、特定の単語のみに特異なアクセントと身ぶりを付けたりと、演技の演出に関しても実験的なモードを取り入れていて新鮮でした。金崎敬江さん演じる(台詞はなく、マイムやダンスのみ)ホワイトオウルが物語構造の外から全体を俯瞰するような立場を表現していて、作品に奥行きを与えていたと思います。
冒頭から少し経ったところでの役者の登場シーンにインパクトがありました。終盤の色々な場面がシャッフルされていくところでは電光表示板をうまく使って畳み掛け、混沌とした感じが良く出ていました。プールを棺桶に見立て、散華するようにボールを投げ入れる主人公の葬式のシーンが美しかったです。その後、主人公が起き上がりまたエンドレスな繰り返しが続くのかと思わせたところで終わるのがユーモラスで良かったです。
おそらく原作にはないと思われる、ゴムひもやハリセンや芸能人の顔写真を切り抜いたお面を用いた小ネタは面白くなく、また話の流れを崩していて効果的ではなかったと思います。電光表示板にテキストが表示されるタイミングが全然合っていないところが多々ありました。ぴったり決まれば格好良くなりそうなので勿体なく思いました。
役者に関しては男性陣、特に2人1役で主役を演じた2人が台詞を追い掛けるのでいっぱいいっぱいな感じで、噛んだり落ちたり滑舌が悪かったりが続き、声も枯れ気味だったので、安心して観られる状態ではなかったのが残念です。歌や身体表現も稚拙な感じがあり、もう少し高いクオリティを見せて欲しかったです。
やろうとしていることはチャレンジングで面白そうなのに、全体的に技術が追いついていなくて、もどかしい印象を受けました。よりブラッシュアップすると、とても面白い作品になりそうな気配が感じられました。
満足度★★★★
やらかしてしまった人生の痴部を否応なしに思い出し、むせび泣く
所詮人間の人生なんてフクロウがコーヒーを入れて飲むまでの束の間の出来事なのね。私も最近、やらかしてしまった人生の痴部を否応なしに思い出し、むせび泣くことが多いです。
原作がこんなにぶっ飛んでる作品なのか、近日中に読んで確かめようと思います。
満足度★★★
貴重な体験(笑)
芝居自体は、繰り返す場面が多くしつこいが、なかなか面白い!
でも芝居が終わった後、「出演者、観劇者の皆さん、お疲れ様でした。一本締めをしたいと思います、お手を拝借」って言いたくなるほど、芝居が長いです、休憩なしの150分(笑)。
仕事帰りの平日、貴重な体験でした(笑)。
これは、評価が分かれると思うし難しいなあ。
誰のための公演なのか?って思う瞬間はあったのは確か。
出演者?観客?のどちらって思うかにより評価が変わると思う。
あとはネタバレで。
満足度★★★
恐怖のコピペ演劇!
としか言いようがない。完全に筒井康隆の世界ですね。切羽詰ったような、奇妙に余裕のあるような、真面目でいてふざけたような、軽くて重いぎりぎりの文章が繰り返されるのが筒井文学ですが、それを忠実に再現している2時間半の演劇です。観ていてしんどいですが、筒井ファンにはたまらないかも。筒井文学自体がかなり実験的なものですが、この劇もかなり野心的。観客を楽しませることなど全く考えておらず、ひたすら筒井ワールドをコピーしているのには、いっそ潔さを感じました。人の記憶のやっかいさ、変える事の出来ない現実。どんなに自分にうそをついても、記憶を捻じ曲げようとしても、記憶と心に刻まれたトラウマは形を変え姿を変えて何度も何度も浮上する。ひたすらこの繰り返される記憶との戦いを演じた舞台でした。美術はかなりシンボリックで、おもしろかったかな。