鳥賊ホテル 公演情報 鳥賊ホテル」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 3.5
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  • 満足度★★★

    「母」ではなく、「父」を語る芝居
    結果論かもしれませんが、今回3度目の観劇となるこの作品に、私はそういう印象を待ちました。

    実際は、ありえない設定の芝居なのに、私がこの作品に惹かれる理由はそこにあったのだと、今日改めて感じました。

    自分の嫌いなタイプの筋立てなのにも関わらず、私がこの作品を愛してやまないのは、私も子供のように純粋無垢な父をずっと愛していたからではないかと思いました。

    ですから、この作品を、母を描いた作品と捉えると、評価が下がる理由もよく理解できます。

    ただ、今回痛切に感じたのは、この芝居、四男の演技如何に掛かっているという点。
    私は、自分の初見だった2回目の上演時の花組芝居の役者さんが演じた四男の演技スタイルが一番好きだったので、その視点で判断すると、今回の芝居のおススメ度は、☆3になりました。

    ネタバレBOX

    2回目、3回目、今回と、今まで3回この芝居を観ています。
    その自分の感覚として、フライヤーに、この登場人物の関係性をばらさない方がいいのではと思っていました。

    でも、作者の岡本さんは、それで構わないという意見でした。

    今回、先にも述べたように、これは4人の息子の父への思いを描いた作品ではないかと感じられました。
    作者が意図したのかどうかは不明です。
    でも、そう解釈すれば、4人の共通の母、小泉とわの実像が浮かび上がって来ないことが逆に納得できるのです。むしろ、母とわは、一緒にずっと暮らしている四男以外の兄弟にとっては、実体のない存在なので、だから、母の実像が浮き彫りにならないことが、逆に正当な気がするのです。

    息子って、ある年齢になるまでは、父親に対して嫌悪感を持ちやすく、反発したりしますが、大人になって来ると、同性である父を理解できるようになるように思います。

    長男が木馬に固執したのは、それが、自分の父との唯一の繋がりだったから。次男が、妻の父親に殴られて、父性愛に感情を揺さぶられたというエピソード。三男が、自分の父を騙した四男の父を憎む気持ち。
    四男以外の兄弟は、父に対しての強い思いがあるということが、この脚本には実に秀逸に表現されているように、思うのです。

    そういう視点で、この舞台を見ると、やはり、よく練られた脚本だなあと改めて感心します。

    ですが、今回違和感を感じたのは、海の書割り。きゃるさんも書いていらっしゃいますが、あまりにも陳腐で、まるで、旅芝居の趣でした。
    あれは、海は出さずに、観客に想像させるべきシロモノだという気がします。

  • 満足度★★★★

    出来すぎた「作り話」
    それぞれの事情により、お互いに会うこともなく別々に生きてきた異父兄弟たちの「邂逅」により、母の数奇な人生が浮き彫りにされていく・・・。
    俳優たちが巧く、優れた演出によりそれなりに楽しめる公演だった。4度目の上演ということはそれだけ観客に支持されてきた秀作といえよう。
    ただ、私は最後まで作品の「作為性」が鼻につき、途中から興ざめしてしまった。お芝居は所詮虚構と言ってしまえばそれまでだが、虚構だということを忘れて観ていられるから芝居は楽しいのであって、本作は兄弟の母親である「小泉とわ」という女性の男性遍歴があまりにも都合よく出来た作り話に感じ、最後には「そのウソホント?」と言いたくなる。まぁ、事実は小説より奇なり・・・とも言うが。
    それぞれのエピソードに笑いやホロリとさせるものがあるのだが、筋立てが作為的で「仕掛けを作る」作者の意図がちらつくのがどうにも私の好みではない。「大人の御伽噺」と割り切れなかった。
    「小泉とわ」という女が自分の中で生きて血肉のある人物として息づいてくれず、兄弟の会話のキャッチボールはとても面白いのだが、作者の頭の中で作った女にしか感じられなかった。
    同様に私生児を生み、戦後、数奇な人生をたどる女を他人によって語らせる「悪女について」という有吉佐和子の傑作小説が舞台化もされたが、あの虚構の強度とどうしても比べてしまう自分がいた。
    また、再演物の宿命だが、先回りして笑う客が何人かいたのも興をそいだ。
    ただ、あくまで私の好みと満足度の問題で、このお芝居を好きだと言う人の気持ちはよくわかるのでお薦めマークをつけました。

    ※☆3.5というのが正直な感想ですが、2晩考え抜いた末、これを☆3にしたら、他の芝居との評価バランスがとれなくなると考え直し、☆4に改めさせていただきます。

    ネタバレBOX

    兄弟の性格づけや人物像はそれぞれよく書けていて面白いし、俳優の演技にも説得力があった。会話劇を退屈させない西山水木の演出が優れていると思う。
    長男の大谷亮介が祖母に育てられたいかにも育ちのよい助教授を演じていて、私としては初めて観る役どころだが感心した。父親が強盗だったために何かと兄弟からネタ扱いされる次男の井上隆志が抜群に面白かった。三男の小林正寛も好きな俳優だが、ただ一人母親と暮らした記憶を持たず、父親思いの青年警察官を熱演。「小泉とわ」が登場しないので、彼女の生い立ちは四男の土屋裕一によって語られる。4人の中では一番屈託のない性格で土屋の演技も自然でよい。四男はホストなので女性の話を聞きだすのがうまいという設定。このあたりにも都合のよさを感じてしまう。
    兄弟がすべて5つ違いで、ちょうど今年、それぞれの父親がとわに出会った年齢となっていて、母が入院しているなど、作りすぎである。
    長男の「木馬」への思い入れや「烏賊ホテル」の由来などが語られる終幕も、筋立てが作為的なので、とってつけたように思え、感動が薄まってしまった感があった。
    個人的には不動産屋として案内した風呂場から聞こえる次男の歌が「星のフラメンコ」だったり、「ホストって言ったら中条きよしみたいなのでしょう?」という台詞に、作者の岡本さんとは年齢が近い同窓生ということもあり、懐かしさと親しみを感じた。
    舞台美術もセンスがよいと思ったが、窓を開けたときの「海の背景」の絵の質感があまりにもお粗末で残念。

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