満足度★★★★
大輪の花のような
深紅の薔薇か、花粉まみれの百合か、とにかく大輪の花の匂いに噎せかえるような、濃密な時間だった。台詞の点が、集まって線となり、密度を増して、織り上がった面が迫ってくるような、勢いのある演出。
上演すると、なんだかうごめく生きものみたいになるよね。三島由紀夫って。ライフワークのように三島作品を演じる"役者"さんは幾人かいらっしゃるけれど、作品全体を正しい充実感で満たせる"演出家"さんというのは、極めて少ないのではないだろうか。
役者さんの中では特に久世星佳さんが、それこそ宝塚音楽学校のころから今に至るまで、ストイックに声と身体とドラマティックでゆたかな語彙を鍛えてこられたことが伺いしれる、すばらしい演技でした。
近親相姦・兄妹編
なにしろ三島由紀夫の戯曲「熱帯樹」が初めてだったので、内容的には最後まで飽きることがなかった。偶然だろうけどこの戯曲、5月5日から9日まで、劇団Ort-d.dも池袋のアトリエ・センティオで上演する予定。
出演者は5人(石母田史朗、久世星佳、中村美貴、松浦佐知子、吉見一豊)。役者が台本を手にしてのリーディング公演。これは私だけの感じ方かもしれないが、リーディングの場合は何よりもまず、発声の明晰さを優先してほしいと思う。感情を込めてしゃべることで台詞が聞きづらくなるくらいなら、むしろ棒読みでしゃべったほうがマシ。もちろん聞きとりやすくてなおかつ感情がこもっていればいうことはないのだが。
その意味では、父親役の吉見一豊がよかった。
若手演出家3人によるドラマ・リーディング。その第1弾である今回はdull-colored popの谷賢一が演出を担当。それほど特徴の感じられる演出ではなかった。むしろオーソドックスというか。
間に10分ほどの休憩が入る。正味2時間半の長い作品。
満足度★★★★
本物志向!
将来有望な若手演出家の競演ということで、リーディングとはいえ、それぞれどんな策略を巡らせてくるのかと思ったが、谷賢一はあくまで正攻法で三島由紀夫に対峙した。
三島の戯曲の持つ言葉のリズムをとても大切にした演出。2時間半という長丁場だったが、素敵な音楽を聴いているような気分だった。