満足度★★★★
中止の連絡が来ないかと気を揉んだが、上演を敢行する模様。まだ明るい内に家を出、がらんと客のまばらな電車を乗りついで中野駅に降り立つと、雨に光る夜の町。ザ・ポケット界隈では二つの劇場の灯りが消え、残る二つだけ慎ましく入口を照らしていた。
入口では非接触体温計で検温し受付を済ませ、開演10分前まで待機した後、階段を上って入場。一つおきに指定された席に案内され、上演中は空調が稼働している事と、次亜塩素酸何とかを混入した蒸気を噴霧している旨の説明があった。
今回の燐光群はタイ演劇人との合作で、「靖国」を題材としたニコン・セタンのテキストを作者と坂手洋二が演出。主要人物2名を含むタイの若手俳優が溌剌として日本語流暢、二言語&国籍をシェアする一方の日本人勢(燐光群+客演)とのアンサンブル良し。硬いテーマを扱っていながら、愛らしさのある舞台である。国際共同製作としては高水準の仕事と思う。
印象的な部分を一つ挙げると・・
タイのある地方、祖父のお墓を訪ねたタイ青年ワンチャイの前に、友人を探して彷徨う軍服姿の亡霊が現れる。青年はどうやら霊が見えるらしく、墓参りをしても姿を見せない祖父を探して呼ばったり、一人の女性(彼の元カノ)の亡霊を退けたりしている。唯史(ただし)と名乗るその若い兵士の亡霊は、固い約束を交わした彼の戦友・伸介を探しているという。約束とは他ならぬ「死んだら靖国で会おう」。ワンチャイ青年はあるカップルを道連れに、伸介がいるかも知れない泰緬鉄道の元工事現場まで汽車旅をする事になる。
さて色々あってついに友人の亡霊と出会った唯史は、友人の伸介が靖国に祀られたがっていない事を知り、二人の間に一悶着起きる。やがて殴り合いに発展して双方潰れた後、唯史は自分が命を失った戦争の記憶を甦らせながら、自分を奮い起たせるように天皇陛下万歳を叫ぶのである。
この唯史をタイ俳優が演じ、対する友人伸介を荻野貴継が演じたが、これ程真情溢れる「陛下万歳」を私は聞いた覚えがない。
伸介と別れた唯史は、列車が急停止した線路上の場所まで戻り、「友人と会えた」事を報告して皆に別れを告げる。そして現代では、カップルが去り、ワンチャイは彼に絶えず付いて来る元カノと、ここで別れる事になる。彼女を巡っての話も面白いが省略。
「靖国」問題という危ういテーマが、他国(タイは戦争当時中立だった事もあり侵略に拠る被害は殆どなかった)の俎上に乗る事でイノセントな眼差しを得ている事がテキスト上も、上演の上でも大きい。今カノとの関係が大事な時を迎えているらしい(度々携帯で連絡している)タイ青年が、元カノの亡霊の存在を引きずりながらも、熱意に負けて見も知らぬ日本人兵士と同道するという設定が、うまく成立している。タイでのそれなりにシビアな日常が信じられるのである。
その事により問題が相対化され、耳慣れた言葉が新鮮に響いて来る。国際的な仕事の見本と言える。
満足度★★★★
タイとの共同制作というと「赤鬼」が浮かぶ。国際共同制作という点では、野田の場合は、自分の作品を、世界各地で上演してみる、燐光群の場合は、地域先行で東南アジアの各地と、混合型というか、できるところから共同で作ってみる。今回は本もタイで俳優も来ている。共同制作だからただ役割分担しただけでなく、現場の交流も重ねてのことである。
タイは日本に親しい国の一つであるが、もちろん国情は大いに違う。お互いの理解も距離があるのはこの二つの「共同制作」を見てもよくわかる。
今回の本は、日本の靖国問題がタイではどのように見られているか、というケーススタディになっていて、勉強にはなるが、演劇的に見て面白いかというとかなり苦しい。観客の中に政治的な意識の側面が抜きがたくあって、それがコロナ騒ぎの中で靖国問題を取り上げた芝居を見るという営為とバッティングする。芝居が靖国から広がっていかないのだ。
現実のタイとの関係で言えば、外国人労働者の問題がある。身近な小さな会社でもタイの人を迎え入れて、たぶんお互いに初めての国際経験をしている。こちらは人間的に具体的で面白い。そういう素材は中津留に任せて、と言わないで、現実的な話題から入った方が実り多いのではないかと思う。85分。
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燐光群公演、ニコン・セタン作 ニコン・セタン 坂手洋ニ演出「安らかな眠りを、あなたに」(YASUKUNI)観劇。死者たちの会話で進む劇、タイと日本の俳優が、見事に溶けあって、まさにそこに、舞台上に、生きていた!私の魂も客席から、飛… https://t.co/69lS0J6gq0
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3月26日(木)は『安らかな眠りを、あなたに YASUKUNI』の日本語訳、ワークショップの通訳、コーディネートなどを担当された千徳美穂さんをお招きしての坂手洋二とのアフタートークを実施。作品やニコンさんのこと、タイの演劇事情など… https://t.co/17SRyaVr42
5年弱前
『安らかな眠りを、あなたに YASUKUNI』3/25のアフタートークはタイ&日本のキャストと演出家が出演。タイでの初演や今回の日本版のことなど話し合いました。左よりニコン・セタン 江原由桂 SAIFAH TANTHANA (ファ… https://t.co/KSBFl7EgzU
5年弱前
昨晩は中野で、燐光群の『安らかな眠りを、あなたに YASUKUNI』(ニコン・セタン作、ニコン・セタン、坂手洋二演出)を見る。タイで死んだ日本兵が、死んでいると思われる親友を探す物語。そのさい、墓地で出会った現代のタイの若者に手伝ってもらう。→
5年弱前
燐光群『安らかな眠りを、あなたに YASUKUNI』タイの作家ニコン・セタンの戯曲の合同上演。現代のタイ青年と「靖国で会う」筈だった戦友を探す日本兵の亡霊の道行。意外に軽快な展開、しかしショーゴ・タニカワと荻野貴継の熱演に涙。「も… https://t.co/UN2H1gwTbu
5年弱前
#燐光群『安らかな眠りを、あなたにYASUKUNI』①タイの劇作家ニコン・セタンの「YASUKUNI」を坂手洋二が同氏と共同演出。戊辰戦争の戦死者を祀る為、天皇の命で創建された招魂社を起源とする靖国神社は現在、先の大戦のA級戦犯の… https://t.co/rndXzIXvNK #燐光群
5年弱前
現代のタイの若者と日本兵の亡霊との交流。誰もが直面する生と死、そして愛惜。『安らかな眠りを、あなたに YASUKUNI』舞台より、JIRAWAT CHARNCHEAW・樋尾麻衣子 感染症対策を施し3/29まで劇場MOMOで上演中!… https://t.co/ORob0GKMnN
5年弱前
『安らかな眠りを、あなたに YASUKUNI』昨夜3/24のアフタートークは、タイ&日本のキャストと演出家が出演。それぞれが公演を通して思うことや「YASUKUNI」についてなど語り合いました。写真左よりニコン・セタン 江原由桂… https://t.co/be0hF6QArm
5年弱前
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5年弱前
人身事故による運転見合わせのせいで阿佐ヶ谷から中野まで30分歩いて劇場MOMOに到着。燐光群『安らかな眠りを、あなたにYASUKUNI』(作:ニコン・セタン、訳:千徳美穂、演出:ニコン・セタン、坂手洋二)。政治臭はほとんどなく、純… https://t.co/UpvP8bUbRR
5年弱前
『安らかな眠りを、あなたに YASUKUNI』四夜連続アフタートークの初日は、共同演出のニコン・セタンと坂手洋二が、作品製作の過程やタイでの初演時の反響について等、語り合いました(通訳:江原由桂)。お客様からいくつものご質問を頂き… https://t.co/9OAHYtwsFc
5年弱前
燐光群「安らかな眠りを、あなたに YASUKUNI」 観劇。 感染対策もしっかりしていて(詳細はHP参照)安心。 死者(と生者)から見た靖国問題。参拝の政治利用は死者への冒涜と改めて実感。 死者と生者、男と女、人種、様々な立ち場が… https://t.co/OJV49v9gM4
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連続アフタートーク! 23月:ニコン・セタン 坂手洋二 24火:ショー アン 荻野貴継 渡部彩萌 ニコン 坂手洋二 25水:ファー エフ 武山尚史 樋尾麻衣子 ニコン 坂手洋二 26木:千徳美穂(日タイコーディネーター) 坂手洋二… https://t.co/TyMRLZZmUw
5年弱前
3/29まで上演中!『安らかな眠りを、あなたに YASUKUNI』劇場MOMOにて。本日3/23(月)は19:00開演。終演後は、共同演出のニコン・セタンと坂手洋二が出演するトークもあります。本公演の前売券をお持ちの方、ご予約の方… https://t.co/Phnr1Enuog
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坂手洋二さんの本が気になる…
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ここで逢おうと誓いあったのに、どうして彼は帰ってこない。日本×タイ共同制作『安らかな眠りを、あなたに YASUKUNI』舞台より、SHOGO TANIKAWA・荻野貴継 3月29日(日)まで劇場MOMOで上演中。作:ニコン・セタン… https://t.co/mnWxOG9VU1
5年弱前
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5年弱前
劇作家としても評価されている、タイの演劇人ニコン・セタンの代表作を、本人と坂手洋二の共同演出で日本初演。アジアの演劇人が初めて日本の〈靖国神社〉について描いた作品で、歴史性にポップさとユーモアを湛えながら、伝統と現代性、オリジナリ… https://t.co/8REU6RiLCb
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【バンコク】 日本・タイ共同制作による燐光群『安らかな眠りを、あなたに YASUKUNI』が開幕: バンコク、チェンマイ、マニラでのツアーでも好評を博したが、今回は同企画に参加していたタイの気鋭、ニコン・セタンの戯曲『Rai Ph… https://t.co/A6LSDCZpxy
5年弱前
日本・タイ共同制作による燐光群『安らかな眠りを、あなたに YASUKUNI』が開幕 @rinkogun https://t.co/1FZV92TR86 #燐光群 #ぴあアプリ #ぴあステージ
5年弱前
現代のタイの若者と日本兵の亡霊との交流。誰もが直面する生と死、そして愛惜。 『安らかな眠りを、あなたに YASUKUNI』 舞台右より、樋尾麻衣子・JIRAWAT CHARNCHEAW・中山マリ 3月20日〜29日@劇場MOMO… https://t.co/x20rapXL3Q
5年弱前
3月20日に開幕!日本×タイ共同制作 『安らかな眠りを、あなたに YASUKUNI』 劇場MOMOにて29日まで上演。作:ニコン・セタン 訳:千徳美穂 演出:ニコン・セタン 坂手洋二 舞台より、VARATTHA TONGYOO 撮… https://t.co/a64yq1MI5V
5年弱前
3月20日より29日まで上演『安らかな眠りを、あなたに YASUKUNI』劇場MOMO 作:ニコン・セタン 訳:千徳美穂 演出:ニコン・セタン 坂手洋二 アジア共同プロジェクト(2016-2018)に続き、日本を「いま」のアジアの… https://t.co/5Fv32uPECI
5年弱前
大学1年の時にスズナリで観た、転位21の「砂の女」。山崎哲作・演出。藤井びんががなり歌う「赤色エレジー」。天井から降り注ぐ砂。今でも目に焼き付いています。式町ちゃこ、犬塚信乃の異常な台詞回し。坂手洋二もワンシーン出ていましたね。鮮烈、の一言。 #人生を変えた舞台
5年弱前
盟友のタイの演出家・劇作家である、ニコン・セタン氏が来日中です。 過去に、国際交流基金の助成を受けて、インタビューした内容を転載します。※写真は、ニコン(左)と私(右)です。 ニコン・セタン(Nikorn Sae Tang)への… https://t.co/a1sYUaf5h1
5年弱前
満州生まれの別役実さん。 内地に引揚げてきた当初、言葉も含めた湿っぽい雰囲気に違和感があって、あの独特の飄々とした標準語のせりふが生まれたのだとか。 その別役さんが10年程前、戯曲専門誌「せりふの時代」の最終号で坂手洋二さんとの対… https://t.co/DVkSpxPCZd
5年弱前
坂手洋二さんに、おすすめラーメンの事をお伝えしたり、らまのだ南出さん宛にメッセンジャーしたつもりが、Ammoの南さんだったり、マチソワのある1日は、順調な滑り出しを迎えているぜ☺️
5年弱前