最新の観てきた!クチコミ一覧

19001-19020件 / 183078件中
丘の上、ねむのき産婦人科

丘の上、ねむのき産婦人科

DULL-COLORED POP

in→dependent theatre 2nd(大阪府)

2021/09/01 (水) ~ 2021/09/05 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2021/09/05 (日)

男優が女性の役を演じる〔B〕バージョンを観劇した。
男の役者が、お腹の大きい妊婦役を演じる。全然違和感を感じなかったのは私がかつて、だったら男が子どもを産めばいいじゃないと思った経験があるせいかも知れない。

スカートをはいてイヤリングもつけてる、これは妊婦を男の役者が演じているのだと気づくと、仕方がないと諦めていたあれこれが強烈に蘇えってくる。
大きなおなかで満員電車に乗って通勤した。つわりのしんどさをいくら説明しても不機嫌に黙るだけだった夫、子どもの名前は夫の両親が決めると言われた時のこと、義実家に行ったときに知らない親類にたくさん頭を下げたこと等など。

高卒で街に出て同棲しているアイが妊娠していたことが分かる一場が切ない。子どもが産れるということがどういうことか。お金のこと、生活のこと、二人の今後のこと。現実的にあれこれと思いめぐらす彼女。戸惑いながらも、俺、頑張るよと言いながら、ちっとも頼りにならないアキト。現実の生活では子育てどころか、出産費用の捻出さえ覚束ない。
真面目に考えた挙句、中絶を選ぶしかない若い二人がどれだけいるだろうか。その裏で不妊治療に数百万を掛ける夫婦もいるのが日本の現実だ。(三場)

夫に収入があり贅沢な専業主婦となったマキ(四場)、女性が憧れるほどには、現実は幸せじゃないかもと私は思う。何をするにも背景に、誰が稼いだ金だ、という男の思いが透けて見える。
夫の身体を気遣い、先回りして夫の思いを酌んで行動している自分。この私のことを少しでも分かって欲しいという女心はやっぱり身勝手なのだろうか。

管理職の激務をこなしながら、二人目を妊娠した妻は部下の失敗の後始末で睡眠時間もままならない。上の子の世話は夫が引き受けている。(六場)
「君の変わりはいくらでもいる。育休を取ってくれ」という上司の言葉はショックだろう。お腹の子どもを疎ましく思う瞬間もあるに違いない。赤ちゃん、無事で良かった。

舞台を観ていると、女優が演じていたせいか、相手の男は、総じて女を分かろうとし、相手のために頑張ろうと思っている様子が見えて、ハッとした。想定以上に男は不器用で、しかもそのことに当人が気づいていない。

田舎で、大勢のお腹の大きい浴衣姿の妊婦たちがお喋りをしている。(八場)
本当なら負担を減らす紙おむつや瓶詰の離乳食を敵視し、布おむつを使い手作りの離乳食にこだわる頑なさは女同士の中にもあった。帝王切開で産む女を軽んじる視線も。
女を縛り付けているのは男の無理解だけじゃないのでは?という指摘を劇作家の谷賢一から言われるとちょっとカチンとする。
確かに、大人世代だけではなく、若い人にもけなげな女性像にしがみ付くところがあるのだ。

帝王切開を躊躇うアサコに、君ひとりの子どもじゃない。二人の子どもだと言って、彼女をうながすアキオ。

オンナにしがみ付くのではなく、オトコにこだわるのでもなく、一人のニンゲンとして考えていきたい。

それにしても、本当に男が子どもを産んでくれるといいな。
どんなに自由に生きられるだろうか。夢を諦めずに生きられたろうかと。

カノン【8月19日~31日公演中止】

カノン【8月19日~31日公演中止】

東京芸術劇場

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2021/08/19 (木) ~ 2021/09/05 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

演出、出演の野上絹代さん、連想するのは野上照代(黒澤映画の名物スクリプター)。名前が出る度気になっていた。
開演前SEからザッピングされたTV番組の音声が流れ続ける。多重世界のザッピングの中の一コマが今回の物語のようだ。額縁による美術を徹底し、小道具は全て額縁の中の絵。額縁がありとあらゆる形を表現し、時には弓となって矢を射る。ひたすら疾走するスピード感で物語は駆け抜けていく。
中盤、ヨハン・パッヘルベル作曲の名曲「カノン」がハイテンポで流れ、舞台は更に盛り上がる。が、それも束の間、捻れた音階、不協和音のノイズ、不安を煽るインダストリアル・ミュージックへとぐずぐずに崩れ世界の様相は変貌を遂げて行く。カノンとは特殊な輪唱の意味。

盗賊団の御頭、沙金(しゃきん)役さとうほなみさんがヴァンプ(妖婦)として完璧な存在。胸の谷間を見せ付ける演出で盗賊団も観客も骨抜きのメロメロ。「ゲスの極み乙女。」のドラマーと云うことに驚く。多分グラビアアイドルだと思っていた。何となく情報は知ってはいたのだが···。矢庭に白い脚をゆっくりと伸ばし、男に委ねる。誰も彼もが理性を失い、本能的にむしゃぶりつく。それを勝ち誇った顔で眺め、にんまりと口元を歪める淫婦の貫禄。
主演の太郎役中島広稀(ひろき)氏はた組の『貴方なら生き残れるわ』に続き舞台はニ回目。遠く、彩の国さいたま芸術劇場まで観に行ったものだ。バスケ部の一人だったような。運動神経、反射神経が物を言う舞台向きの俳優。
猫役、名児耶(なごや)ゆりさんも印象的。モノローグを兼ねつつ、作品の核に触れている存在。余りにも謎が多過ぎる。

平安時代、自由を謳歌していた山の民は都の民に侵略され滅ぼされる。生き延びた残党共は盗賊団となって京の都を荒らし回っている。都の最高権力者である天麩羅判官(渡辺いっけい氏)の屋敷で牢番をしている太郎は、美しき囚人沙金に惑わされ逃がしてしまう。太郎を赦免した判官はスパイとなって盗賊団に潜入し、反体制組織「猫の瞳」について調査するよう命ずる。
判官屋敷に隠された、フランス7月革命を描いたドラクロワの名画「民衆を導く自由の女神」が物語のキーになる。

ネタバレBOX

猫の存在が謎で、劇中太郎が唐突に言う台詞、「彼女は猫と呼ばれているだけで本当は人間なのだから」にハッとする。ただ、その後はまた猫として存在し続ける。あれは一体何だったのか?そこが一番興奮するシーンだった。

クライマックス、鉄球と銃で連合赤軍のあさま山荘を連想させるが、この物語との関連性が全く見えない。野田秀樹作品お馴染みの「実はこんな意図がありました」を喜ぶのは批評家だけではないか?虚構に耽溺していた観客からすれば、「そんなことはいいからこの話をきちんと語れ!」との思い。
素晴らしい虚構作品に「実はこういう意図があった」なら興奮もするが、毎回話の途中で誤魔化しているような気にもなる。(好みの問題だろうが)。
<会場変更/追加公演有>山中さんと犬と中山くん

<会場変更/追加公演有>山中さんと犬と中山くん

渡辺源四郎商店

こまばアゴラ劇場(東京都)

2021/09/02 (木) ~ 2021/09/07 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

工藤千夏と言えば自分は渡辺源四郎商店の在京座員(店員?)という認識であったが、青年団演出部での実績(若手企画~後に青年団リンクうさぎ庵)が先であった。枠にとらわれない独自の動線を行く工藤女史が今回花組芝居役者らと組んだいきさつ、ないし狙いは知らず。前説によれば「コロナ下での模索」の紆余曲折の結果、現在の形となったという事でワークインプログレス的な出し物かと構えたが、中身は三部構成の「工藤テキスト」の上演(リーディング風)と、その合間の素の時間。平場との地続きの感触が趣向のようであった。
のっけから言いたくて仕方ない一言を言ってしまうと、(後で役者名を照合した)3名の花組芝居の役者の立ち姿が好きでない。主宰加納幸和氏の俳優姿は何度か拝んだがこれは別格として、3名の醸す空気と何を重ねたかと言えば、私は派生ユニットのあやめ十八番でしか「それ的なノリ」を知らないが、江戸を舞台の「時代物」(花組芝居の領分らしい)に漂うある匂いが役者の演技の質を高みから遠ざけている、その部分。
型の演技に対するリアリズムの演技の面の深まらなさは、やってる芝居の性質から来るもののように思え、今改めてあの「時代物」に自分が最も感じていたもの・・芝居の中身は忘れたが断片的な風景とその中で自分の中を巡った感覚を思い出し、再考することになった。
・・と大袈裟に入ってしまったが、今回の「素」と「上演」の垣根の低さは、果たして彼らの得意技であったか、という疑問が湧く。必死こいてたのかも知れないが、演劇では素の挿入も演劇的な作為でなければならない、という前提を敷けば、狙うべき焦点がしっかと据えられての「素」のふるまいではなく、アドリブ性の「演出」でなく、アドリブそのもの。そこで役者という存在の正体、根っこが問われる。どういう芝居をやっていて、どういう精神で取り組んでいて、だからどういう生活者としての矜持を持っているか、つまり「素」の役者自身という土台から「素」というものは発するのであって「素」という状態が代替可能なものとしてある訳ではない。・・・随分当たり前な事を書いて役者諸氏を馬鹿にした物言いになっているが、私が「好きでない」のはある種の役者というあり方なのかも知れぬ。
ファンには失礼だが「時代物」の多くが「大きな物語」としての「江戸」というブランド、そして歴史(事実)という重みに大なり小なり「おんぶにだっこ」している。パロディが成立するのはパロる対象のデカさ故、だからこそそれに拮抗する現代性、独自性、骨太なメッセージを見出そうと創意工夫する、という事な訳だろう。芯のある芝居はそこに生きる一人ひとりが生き生きと、リアルに、魅力的に存在する。その根っこに人間性への希求がある。さて・・。(言葉を飲み込む私。)

ネタバレBOX

余談だが後でパンフを見返して「西川浩幸」の名を見て少々驚いた(観劇前から判ってろという話だが..)。
芝居を見始めた20年以上前、まだ当時は劇場中継もテレビでやっていて、キャラメルボックスの芝居なんかも放映され、劇団の両頭上川隆也と西川氏のやたら元気に走り回り女の子にワ―キャー言われる役どころ、芝居は女子が好きそうな甘っちょろい(失礼)フィクションで「あ~世の中にはこんな起こり得ない奇跡で慰撫されたい観客がいるものか」と冷めた目で見つつも大真面目に叫び走る俳優諸氏の姿が印象に残った。
以来全く目にしていなかったので、実物にも気づかず、朴訥としたむしろ不器用な役、というより本人キャラに徹し、脳内で両者を照合するが今も結びつかない。ただある一瞬、持てる爪(能ゆえに隠している)がさっとよぎり、目に光が宿ったその瞬間この人は本来主役やれる人なのでは・・と一瞬予感しただけが両者の接点。
それにしても歳月は経った・・。

オペラ「フィガロの結婚」

オペラ「フィガロの結婚」

豊島区オペラソリストの会

南大塚ホール(東京都)

2021/09/04 (土) ~ 2021/09/05 (日)公演終了

実演鑑賞

ソリストの熱唱!
縁あって久し振りにオペラを鑑賞。以前はオペラやクラシックコンサートにも出かけたが、最近は観劇の方が多いかもしれない。そう言えば、もう数十年前になるが某合唱団で歌っていたことを思い出す(もちろんソリストではない)。今では声量もなく音程も取れないだろう。当時の会場は、東京文化会館や東京(新宿)厚生年金会館(今はもう無い)等といった、音響構造の優れた(クオリティの高い音楽専用)ホールであった。今回は南大塚ホールという音楽系を専門にした会場ではないことから、その点を考慮しなければならない。
なお、コロナ禍における感染防止対策として、客席1~3列目は使用しない。また「ブラボー!」など言わないようにとも…少し寂しいがやむを得ない。

さて、公演では歌唱と演出(むしろ舞台技術といった方が適切)で気になったところが…。
(上演時間4時間 45分休憩含む、15分×3回)
本公演は第33回池袋演劇祭参加作品のため、☆評価は後日付。

ネタバレBOX

舞台美術は大きな絵画風の後景が場面ごとに張り替えられる。場面に応じて仕様が異なるテーブル、椅子等を搬入するといった手作り感があり微笑ましく思う。だからか 何となく温かみのある雰囲気が好い。
キャスター付の衝立が舞台真ん中にあり、歌い手のコロナ(飛沫)感染防止対策のようだ。歌い手は、ソロの時はマスクをしないが、花娘の合唱のように3人以上で歌う時は、それぞれ絵柄が違うマスクをする。衝立は感染防止と共に、フィガロと結婚相手のスザンナ、または伯爵と伯爵夫人など、相手との関係で上手・下手側に押し動かす。それによって空間に広狭ができ、相手への圧(迫)を演出する。つまり愛が強ければ押し勝ち、広い空間が確保でき、疚しい事があれば押し負け、自分のエリアが狭くなる。なかなか上手い観せ方である。
下手側に指揮者とピアノ伴奏者。
ソリストの会だけあって皆さん上手であるが、特にスザンナ(5日:川井愛永さん)と伯爵夫人(5日:松本明子さん)の歌唱力は素晴らしかった。

有名な「フィガロの結婚」であるが、概要は次の通り。
物語はたった1日の中で起こること。 そしていくつかの要素が複雑に絡み合う。
フィガロとスザンナは、婚礼の準備をしている。 スザンナは伯爵のお気に入りで 、伯爵はスザンナを我がものとするために、「初夜権の復活」(字幕では別というか曖昧な表現)を企んでいる。 フィガロとスザンナはそれを阻止しようとする。他方、伯爵夫人は、伯爵の愛が冷めてきたことを悲しんでいる。 伯爵夫人、フィガロ、スザンナは、伯爵に改心してもらう、伯爵の反省を促すことを計画する。最後にフィガロとスザンナは無事結ばれる。 伯爵は伯爵夫人に謝罪し、これまでの行いを悔いる。 物語はハッピーエンドで終わる。

気になったところ。
〇第4幕でのフィガロ歌唱のところ。長丁場で歌うことが多いフィガロ、しかし見せ場であろうスザンナとの競演箇所で息継ぎが出来なくなったのか声量が低下し、ついには…勿体なかった。
〇会場の問題かも知れないが、字幕を天井(少し傾斜した)部分に映していた。自分は中央真ん中に着座(しかも前は通路)していたから見難いが何とか読めた。「フィガロの結婚」を何度も鑑賞しており、内容を知っている人、またはイタリア語が堪能(といっても歌詞表現は違うであろう)ならば、気にしないかも知れない。念のため1場と2場の休憩時に、前と後の列に夫々座ってみたら前列=天井を見上げるか、後列=文字が半分隠れた状態。もう少し映写角度を工夫し字幕が読めるようにしてほしかった(上演前に確認が必要だろう。何らかの指示・指摘があったのか、4場には改善したが…)。
初めて「フィガロの結婚」を鑑賞した観客にすれば、酷だったかもしれない。
次回公演も楽しみにしております。
タージマハルの衛兵

タージマハルの衛兵

東京演劇アンサンブル

野火止RAUM(埼玉県)

2021/09/04 (土) ~ 2021/09/05 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

東京演劇アンサンブルの新拠点・埼玉県新座の野火止RAUMで観劇。新座駅から少し距離(約2㎞か)があるが、事前に予約しておけば送迎車を出してくれるのでありがたい(毎公演かは要確認)。

初日観劇。劇場はひな壇(当日は4段)型で、少しであるが市松模様的にパイプ椅子を配席し観やすく配慮。観た回、それも1列目に小学生と思われる子供が観劇していたが、衝撃的なシーンがありトラウマにならないか心配になった。また同シーンで この劇場では可能な(目測であるが奥行きがある)演出が他の劇場で出来るか気になるところ。
(上演時間1時間55分。前半1時間 後半40分 途中休憩15分含む)【Aチーム】

野火止RAUM劇場は対象外だが、第33回池袋演劇祭参加作品(シアターグリーンBOXinBOX THEATER)になっているため、☆評価は2021.10.10日付。

ネタバレBOX

舞台は5つのキャスター付の衝立(ガラス板)が等間隔に並んでいるだけ。その前(客席側)に薄暗い闇の中に立つ幼馴染の衛兵が2人。衛兵の名はフマーユーン(雨宮大夢サン)とバーブル(和田響きサン)。2人の衣装は、頭にはターバンを被っているが、服装はスーツに棒ネクタイ、革靴である。もちろん手には剣を持っているが第一印象は違和感。が、物語の内容から或る意図が読み取れる。衛兵という規律の厳しい組織人、現代の勤務(仕事)服がスーツ(職業によって制服)であり革靴の象徴であれば、組織という枠に縛られた衣装と言えるかもしれない。しかし観た目の第一印象も大切なんだが…。

1648年。インド、ムガール帝国の首都アグラが舞台。彼らの任務はタージマハルの警備。 背後にこの世で最も美しい存在があるのに、振り返ってその姿を見ることが許されていない。建築家、ウスタッド・イサの細やかな願い、だが皇帝の「これ以上この世に美しいものを生み出さないため」の計画は残酷なもの。 私語厳禁のはずが、いつの間にか2人のダイアローグが進み、日の出とともにタージマハルの方へと振り返った2人が見た光景。

明転後、「これ以上美しいものが作られないよう、建築家や関わった人間2万人の腕を切り落とす」任務を遂行した。2人の姿と血で汚れた床、積み上げられた多数の人々の腕。狂乱しながら自分たちがした「任務」=「仕事」について話す。フマユーンは皇帝命令の「任務」 、パープルは「美を殺す」といった解釈。しかし作業は逆、器具を使って2万人の腕を切り落としたバーブル、切られた4万の傷跡に焼き鏝をあて治療したフマユーン。2人は血を掃除しながら空想した乗り物「エアロプラット(=始め 星へという台詞からロケットかと思ったが、後に飛行機、それも軍用機のイメージ)」や「持ち運び式抜け穴(=ドラえもん の どこでもドアのイメージ」の話を続ける。 この腕を切り落とすシーンが凄惨だ。2人の心情が鬼畜(別 組合わせの2人が黒子役、半裸で顔には墨)となって現れ衝立板に血の手形、血しぶきを思わせる赤塗噴射は顔を背けたくなるほどだ。そして事後処理を淡々と行わなければならない虚無感か虚脱感が痛いほど伝わる。空想した自由の産物「エアロプラット」はいつの間にか戦闘機に変わり、攻撃目標にしやすいタージマハルを目指す。それをどこでもドアから布を取り出し覆い隠そうとするが、それを行う人々の手がないという皮肉。

数日後、この「任務」によってバーブルの念願であったハーレムの皇帝警備という、新たな「任務」に2人が就く直前、彼は突然 皇帝暗殺の計画を語りだすが…。
台詞にあったかどうか定かでないが、たぶん数年後、同じようにフマユーンは衛兵の任務を続けている。そこに現れたバーブル(スーツ、革靴ではない)の幻影は悲しくも美しい。照明で輪郭を抜き取ったジャングル光景で戯れる2人の姿はあまりに無邪気で幼気だ。

個人の集合体としての組織、そこに形成される「権力」、これ以上を作り出さないという傲慢な「美の定義」、極限状態に置かれた「心理」……様々な視点を錯綜させ、舞台美術として存在しない「タージマハル」や姿を現さない皇帝や建築家、そしてフマーユーンの幹部軍人(警備隊長)である父が自然と立ち上がってくる。
ラスト、少年時代の2人の笑い声まではっきり聞こえてくるようだ。 フマーユーンとバーブルのダイアローグが限りなく想像の翼を広げ悠久の旅をしている、そんな印象が後味をマイルドにしている。
次回公演も楽しみにしております。
戒厳令

戒厳令

劇団俳優座

俳優座スタジオ(東京都)

2021/09/03 (金) ~ 2021/09/19 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2021/09/06 (月) 14:00

座席1階

迫力のある舞台だった。「罵りあい」のような激しいセリフの洪水。そして、様々な角度から現代社会を照らすような複雑なメタファー。基礎の出来た実力のある俳優たちだからこそできる、強烈で見ごたえのある2時間である。
平和な街に入ってきて独裁を遂げていく男と女性秘書。ペストをばらまいて市民を恐怖に陥れるのだが、秘書がデスノートを持っていて、狙いを定めた人物を消していくというのは舞台で見る物語の設定とすればよかったと思う。当然、今の時期だからコロナ禍をオーバーラップさせてみるわけだが、このデスノートの存在が、現実と適度な距離感を出して、「これは現実ではないのだ」というような安堵感を観る者に与える。そうでなければ、自宅療養者がバタバタ倒れている現実をストレートにぶつけられるようで、息苦しくなったかもしれない。
愛とは、正義とは、人生とは。そして、生とは、死とは。舞台からは次々に「考えてみろ!」と矢が飛んでくる。市民を代表するように戦うディエゴが、こうした矢が飛ぶ中で苦悩し続けるわけだが、特に独裁者と対決する最後の方のシーンは秀逸だ。
倒れる婚約者のヴィクトリアが美しい。ロミオとジュリエットのラストシーンを連想させるようでもある。
前作の「インク」も面白かったが、今回はその上を行ったと思う。原作をうまくアレンジした脚本の勝利だと思う。さらに、4つの大型モニターを使い、工事現場の階段のようなセットで立体的に役者を動かした演出もよかった。けいこ場の小さな空間で思い切り役者たちを駆け回らせたが、小さな空間だからこそ一人一人の役者の演技に同時に目が行く感じで、それこそ舞台から目が離せなかった。

デンギョ-!(再演)

デンギョ-!(再演)

小松台東

ザ・スズナリ(東京都)

2021/09/01 (水) ~ 2021/09/07 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

「山笑う」(初演=僕たちが好きだった川村紗也)と、もう一つ同じ頃観た「小松台東を発見!」と喜んだ舞台があったのだが思い出せず随分と探し、電気工事屋の職人が集まる控室が舞台だった気がするし正面奥にプレハブ用サッシの引き戸もあったと記憶するので「デンギョー!」だったか・・?とまで真剣に考えたが、結局「想いはブーン」であった。(記憶の中の印象とは程遠い「ほのぼの」という口コミが付されていた事でハナから除外してしまった。)
改めて「初観劇」の感想。近作に比べて筆に若さを感じるが、間と説明しなさの攻め具合は変わらず、最後まで判らなかった小暮と松本の夫婦役や終盤やっと判った下請職人(新婚という別の職人の相手が小暮だと勘違い)、後出しジャンケンな展開を松本の力技で正当化する部分など、自分の「読み取れなさ」故に見えたようにも思える穴が気になりながらも、左脳の理解度とは裏腹に終演時我に返って足を掬われた気がした。「よくぞ表現した」と言うしかない幾つもの断片の気づきもそうだが、数日経って振り返ると、いつか自分の中に巣食っていた「接触を遠ざける」感覚を、敢えて破る「抱擁」にあったのでは、とも思う。初日であった。

4

4

ティーファクトリー

あうるすぽっと(東京都)

2021/08/18 (水) ~ 2021/08/24 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

犯罪と死刑制度をめぐる4人によるモノローグ劇。裁判員と、拘置所の看守と、犯人と、死刑執行命令にサインする法務大臣とが、それぞれの立場で、悪夢を、苦しさを、責任を語る。途中、一度、俳優たちが話して役を交代する「メタ演劇」的部分あるが、割とすぐ元に戻る。重いテーマを、真正面から語り続ける、真摯な舞台だった。

ネタバレBOX

最初と途中で、モノ運びしかしていない男が5人目の男で小林隆が演じている。最後、もう一度最初からと言って、役をくじ引きで引き直すと、小林がトップバッターになる。息子を失った悲しみを語りだすが、なんと、これは犯人だった。加害者の父という立場が加わり、芝居の陰影が一層ました。
Le Fils 息子

Le Fils 息子

東京芸術劇場

東京芸術劇場 プレイハウス(東京都)

2021/08/30 (月) ~ 2021/09/12 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

一度こじれると簡単に直せない、思春期の子供を持つ困難を、抑制的に、リアルに、しかし切実に描いて、目の離せない2時間だった。高校生の息子が、学校に行くふりをして何ヶ月もサボっていた。元妻から驚きの話を聞かされた、父(元夫)は息子に「なぜだ」と聞くが、息子は「わからない」としかいわない。ここから意思疎通がうまくいかなくなる。

息子は「ぼくは生きることがうまくできない」と訴えるのだが、父も母もまともに受け取れない。一方、父・母が必死に息子のために準備する家や、転校先を、息子は受け入れるように見えるのだが、本心はわからない。息子が母とはダメだというから、父は若い再婚相手と、乳飲み子のいる家に息子を引き取る。父のもとで素直そうに見えるが、しかし…。息子に「どうして母さんと僕を捨てたんだ」「ぼくを傷つけたのは父さんだ」と言われたら、父親はどうすればいいのか

父は成功した弁護士である。パリにも仕事人間はいる。でも日本の父親より、よほど家庭を大事にしているというべきだろう。母親も働いていた気がするが、職業が出てきたか、忘れた。
岡本健一、伊勢佳代、若村麻由美、そして新人で岡本の息子の岡本圭人。4人の俳優もみな素晴らしい。実に生々しい切ない舞台だった。

ネタバレBOX

精神病院で、両親が医師から選択を迫られた時、僕は最初、あれ、退院させないの?と思った。息子にあそこまで言われれば、退院させるでしょうと。病院の医師と息子とどちらを信用するのかと。でも、実は芝居の中の父も息子を退院させたのだ。そこまできてで、僕は気づいた。これは悲劇で終わるのか!と。見事に感情を持って行かれた、巧みな展開だった。しかも、最後に、一瞬希望を見せて、それは幻だったとわかる。何度も儚いのぞみを持たされた。
CHANGE

CHANGE

danke

萬劇場(東京都)

2021/08/11 (水) ~ 2021/08/15 (日)公演終了

映像鑑賞

「古事記」を配信で視聴。4つの勢力、色々な現代人、2つの時代とかなり入り組んだ設定だったので、全ての話を把握するには至らなかったが、色々な要素を詰め込んでいて挑戦的であった

アナと雪の女王

アナと雪の女王

劇団四季

JR東日本四季劇場[春](東京都)

2021/06/26 (土) ~ 2024/10/31 (木)上演中

実演鑑賞

満足度★★★★★

アニメーションなら氷も吹雪も自由自在だが、舞台でここまでやるとは。映像と美術、証明、音響とあいまって、氷の世界を目の前に作り出す。もちろん音楽もいい。「ありのままで」は一幕の最後にたっぷり聞かせて、拍手喝采だし、フィナーレも「ありのままに」のリプライズに近く、さらに深く、自分らしさと愛の両立を歌う。俳優の演技、ダンス、パフォーマンスもいい。衣装もいい。エルザの衣装が「雪の女王になってからも、ライトブルーのドレスから、パンツスタイルに変わる。とにかく飽きるところがない。アナとクリストフが吊り橋を渡りながら歌う「愛の何がわかる」は、歌いながら、心が近づく瞬間が見事。

ユーモラスな雪だるまのオラフが出て売ると、寒さも和む(実際、オラフの歌は「夏が好き」)、サウナに入った村人たちの裸(!)ダンス、トナカイノズベンは人間が入っているとは思えない、本物そっくり。

とにかく、おとなからこどもまでたのしめて、生きることを励ます熱いメッセージが伝わる傑作ミュージカル。現実を忘れて別世界に連れて行ってくれる2時間半。そして現実に帰ってきた時、前より心が明るく前向きになっている。エンターテインメントの大道をいく芝居である。

ネタバレBOX

最初の方で、姉エルザが力をコントロールできるかは、「恐怖」にとらわれないかどうかにかかっていると、魔法族の長老が言う。その意味がラストになって、胸に落ちた。妹を傷つけないかと、怯えることが「恐怖」。重体に陥った妹アナの回復を心から願ったとき、エルザの中で「恐怖」に「愛」がうちかち、力の制御力を手に入れたのだ。その心理的変化は、映画を見た時には気づかなかった。
クロスフレンズ

クロスフレンズ

LOGOTyPEプロデュース

六行会ホール(東京都)

2021/05/27 (木) ~ 2021/05/30 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

持田千妃来さん出演。
全16曲のリストはネタバレに書きます。
90年代の邦楽でのミュージカル。有名な曲が多く、世代のひとにはぴったりのラインナップです。自分はあまり音楽に詳しくないのですが、半分くらいが知ってる曲、残りが聞いたことがある曲、でした。
主役は橋本愛奈さん。演技を拝見するのは初めて。お歌を拝聴したことはあまりなかったですが、とてもいい声でした。主役にふさわしい方だと思いました。
持田さんはエル少年の役。意外にも少年役は初めてだったようですが、子供らしく可愛くも聡明な役、ぴったりだったと思います。この舞台の3か月後の「シーボルト父子伝」でも少年役でした。背が低いことを活かして、幅広い役をこなせそうですね。
デボラ役の仙葉由季さんは魔女と呼ぶににふさわしい、妖艶さを見事に表現されてました。
そのほかの皆さんも良かったです。歌の威力はすごいものだと、再認識しました。

ネタバレBOX

ミュージカルの歌はすべてJ-POP。物語の舞台はアメリカ。セリフは意図的な「英語の日本語訳」調もあったり。序盤の遠藤瑠香さんの「プロムの服ってどこで仕立てる予定?」のくだりはアメリカのドラマそのまんまで笑ってしまいましたが、おかげで序盤のうちに雰囲気が分かりました。あとは物語にすっかり入り込むことができました。
ジャロの「息子がいた」の件、分かりにくかったので整理。デボラとの子で、2年前に、3才で亡くなった。麻薬に関することが原因と思われる。そのためにジャロは辞める決意をし、デボラを警察に売った、と。
全16曲は以下の通りです。あらためてDVDで確認して調べました。けっこう大変でした。

1. Swallowtail Butterfly 〜あいのうた〜 / YEN TOWN BAND
2. 忘却の空 / SADS
3. Fly high / 浜崎あゆみ
4. そばかす / JUDY AND MARY
5. 晴れたらいいね / Dreams Come True
6. Driver's High / L'Arc〜en〜Ciel
7. 真夏の夜の夢 / 松任谷由実
8. 希望の轍 / サザンオールスターズ
9. There will be love there -愛のある場所- / The brilliant green
10. BE TOGETHER / 鈴木亜美
11. Chase the Chance / 安室奈美恵
12. 1/2 / 川本真琴
13. 今すぐ Kiss Me / LINDBERG
14. Man & Woman / My Little Lover
15. 世界の終わり / THEE MICHELLE GUN ELEPHANT
16. 小さな頃から/ JUDY AND MARY
SENSE

SENSE

早稲田大学舞台美術研究会

早稲田大学学生会館(東京都)

2021/08/14 (土) ~ 2021/09/18 (土)公演終了

映像鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2021/09/05 (日) 18:00

2バージョンをアーカイブ配信で鑑賞しました。申し込んでおきながら初回の配信を見逃してしまっていたので、アーカイブ配信はありがたかったです。物語的にはロック色の強い「楽ステバージョン」のほうが好きでした。配信終了までにもう1回ずつは見たいと思います。

昨今のネット配信だと、マイクで収録した音はパソコンのスピーカーやイヤホンを通すと耳にやさしくない、疲れる音のことが多いのですが、今回の配信ではストレスなく聞ける音質でした。

星の王子さま【発表会中止】

星の王子さま【発表会中止】

SPAC・静岡県舞台芸術センター

舞台芸術公園 野外劇場「有度」(静岡県)

2021/08/21 (土) ~ 2021/08/22 (日)公演終了

映像鑑賞

満足度★★★★

演じるのは静岡県内の中学校1年生から高校3年生が20名。発表会は中止になったそうだが、野外劇場で行った最終稽古の記録映像配信を拝見。まだ暮れ始めで、後ろの空がうっすらと分るぐらいの時間からの収録。カメラのクオリティも高く、みなマスクをつけていることが途中から気にならなくなってしまうぐらい、瑞々しさに溢れたいい映像だった。

戒厳令

戒厳令

劇団俳優座

俳優座スタジオ(東京都)

2021/09/03 (金) ~ 2021/09/19 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

鑑賞日2021/09/05 (日)

価格5,000円

5日14時開演回(130分)を拝見。

かって欧州社会で猛威を振るったペスト禍を、支配者「ペスト」と、ヒトの死を司る「デスノート」持参の「秘書」とに擬人化し、彼らによって支配されたスペインの港町の人々の沈黙と葛藤を描いた作品。
原作は”ナチスドイツとその協力者に対するレジスタンス”の比喩として書かれたものらしいが、私たちは当然、現代のコロナ禍の世情をオーバラップさせて観る訳であり、権利の抑制や人間性の全否定といった様々な統制のやり方に、上演中、色々と考えさせられた130分だった。

ネタバレBOX

【配役】
ペスト…野々山貴之さん
秘書…清水直子さん
ナダ(ペストの協力者)…八柳豪さん
ヴィクトリア…若井なおみさん
ディエゴ(医学生、ヴィクトリアの恋人)…志村史人さん
ディエゴの同僚、街の女…椎名慧都(しいな・けいと)さん
カサド判事…加藤佳男さん
→「判事」でなく、カトリックの厳格な「司祭」だと、ずーっと誤解してました(恥)
カサドの妻、街の女…坪井木の実さん
カサドの娘、街の女…後藤佑里奈さん
漁師(本作の狂言回し)…塩山誠司さん
逃げ出した総督、船頭、街の男…森永友基
言いなりな市長…田中孝宗さん
街の女…山本順子さん
街の男…辻井亮人さん
衛兵、街の男、他…辻井亮人さん
衛兵、街の男、他…山田定世さん
(映像)カサドの息子…手塚悠翔さん
(声)高宮千鶴さん、小島楓太さん
25thSTAGE『千夜一夜物語 ~蒼き精霊の冒険譚~』(再演)【閉幕御礼】

25thSTAGE『千夜一夜物語 ~蒼き精霊の冒険譚~』(再演)【閉幕御礼】

劇団やぶさか

ラゾーナ川崎プラザソル(神奈川県)

2021/09/04 (土) ~ 2021/09/05 (日)公演終了

映像鑑賞

満足度★★★

フェリス女学院大学演劇部を母体とした劇団の20周年記念公演。当初予定していた新作から、2012年上演作の再演になったそうで、無観客公演のYoutube配信。アラビアンナイトをモチーフにしたマンガチックな舞台だが、たまたま公演情報を見つけて、何となく見始めたら、これが意外に(と言っては失礼だが)楽しい舞台。オープニングのクレジットも見やすくてポイント高し。5分休憩を挟んだ二幕構成で約100分。

近松心中物語【愛知公演中止】

近松心中物語【愛知公演中止】

KAAT神奈川芸術劇場

KAAT神奈川芸術劇場・ホール(神奈川県)

2021/09/04 (土) ~ 2021/09/20 (月)公演終了

実演鑑賞

#近松心中物語
#初日
二組の男女の心中。#松田龍平 さん演ずる気の弱い婿養子と、#石橋静河 さん演じる箱入り娘ながらヤンチャな嫁の夫婦がチャーミング。心中らしからぬ軽やかさで客席を沸かせる。石橋さんのコメディエンヌっぷりも新鮮。でも、彼女のドロドロした不幸を身に纏ったような役どころも観てみたかったというのが本音。

町の喧騒などは、#長塚圭史 さんらしさのよく出た演出。ただ、冒頭のそれは、鐘を鳴らす男のリズムが悪くモヤッとしたし、声質や滑舌の問題で台詞の聞き取りにくさもあって少し残念だった。

散る雪を含め、照明が美しい作品。

廃墟に乞う

廃墟に乞う

Audio Photo Cinema「廃墟に乞う」製作委員会

シアターX(東京都)

2021/09/03 (金) ~ 2021/09/04 (土)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

加藤雅也氏本人が撮影監督として撮影したモノクロ写真がスクリーンに流れる。今作のプロデューサーも兼ねる寿大聡( じゅだいさとし)氏は出所した殺人者役。未成年の頃と成年後の二度、ホテルに呼んだ風俗嬢を顔が潰れる程、鈍器で殴り殺した。声だけの出演だが木下ほうか氏が記者として寿大氏を質問攻めにして追う。長い長い駅の地下通路での追尾、加藤氏の画角は映画的でフレームには光と影と俳優しか写らない。録音技術が低く、台詞が聴き取れないのが残念。
佐々木譲氏の直木賞受賞作である連作短編集『廃墟に乞う』。 その表題作をAudio Photo Cinema(朗読劇+写真映画)化。(佐々木氏は寿大氏を当て書きして小説を書く程、親密な関係。)
舞台上では加藤氏と寿大氏による台本片手の朗読劇が行われる。
加藤氏はPTSDによる休職中の北海道警の敏腕刑事役。過去に担当した犯罪者から一本の電話が掛かってくる。出所した男はまた似た事件を起こしてしまったようだ。
財政破綻して巨大なゴーストタウンと化した北海道夕張市にある、廃墟と化した炭鉱町。そこで育った幼年時代に目撃した光景。刑事と犯人は廃ダムに二人だけで待ち合わせる。

ネタバレBOX

永山則夫をイメージさせる犯人の生い立ち。永山の『捨て子ごっこ』を思い出す。母が無理心中を図り、幼い妹をダム湖に投げ捨てた光景。その記憶を改竄して無理矢理封印し続けた葛藤。自分達を捨てた母への憎悪が同じ年格好の娼婦殺しに繋がっていく。

原作を読んでいないので情報量が圧倒的に足りない。病んだ刑事の心境と、死ぬ前にその刑事に全てを告白したいと願った犯人の思いが表現されていない。こんな特殊な方法論を使用するのだから、もっと手はある筈。二人の魂の交錯を存分に味わいたかった。
加藤雅也氏は台本片手ながら、読み間違え何度も言葉に突っ掛かってしまう。体調が悪いのか?
『砂の女』

『砂の女』

キューブ

シアタートラム(東京都)

2021/08/22 (日) ~ 2021/09/05 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

現代の古典とも言える原作だが、「古典とは有名だがあまり読まれないもの」と言われるように、私は未読(すいません)。勅使河原宏の映画化も見たことない。その目で見て、大変新鮮で、時代を超えた舞台だった。「砂の女」とは実存的(抽象的)で閉鎖的な話と思っていたが、違った。非常に合理的で社会的な話であった。

蟻地獄のような砂の底に、男を閉じ込めるのは、女ではなく、村=部落の男衆。女は同居人。この設定がまず目からウロコであった。しかも、穴の底で男と女が掻き出す砂を、運び出すモッコが上から降りてくるし、水や配給品も上から届けられる。
一緒に見た友人は「非条理じゃないね」といっていたが、そのとおり。非常に合理的な話である(そんな砂に埋れそうな土地になんで住み続けるのか、ということを除けば。実は人は生まれついた土地を、簡単には動かないものなのである。そのこともおしえられる)

友人は「人間の醜い面をクローズアップして、さんざん見せつける。自分本位や、みだらな欲望や。。人間の美しいところがどこにもない。ジェンダー的にも問題。エグい芝居だ。演出は素晴らしいが、好きな芝居ではない」と。これは好き嫌いの問題なので、それだけの嫌悪感を起こさせたのは芝居の訴求力の高さを示している。
(途中、穴の上の村人たちが、二人に交わっているところを見せたら、縄梯子をおろしてやる、と本気で言い出すのは確かにエグい。緒川たまきは、裸で寝ているシーンや、半裸の後ろ姿など、かなり際どいシーンもあった)

男(仲村トオル)がなんとか逃げ出そうと策を繰り出す。女を縛り付けたり、あきらめたふりをして手製のロープを作って実際に逃げ出すしたり(途中で捕まる)。「ミザリー」よりずっと社会的に広い話。江戸(東京)から来た男が、いなかでちやほやされて、村人たちの罠に落ちるというのは、井上ひさし「雨」ににている。まあ、影響関係はないだろうが。

男は、女に「生きるために砂をかくのか、砂をかくために生きるのか、わからないような暮らしが、人間的と言えるか。」「豚と同じだ」と責める。まっとうで合理的だが、労働者・農民をバカにした、上から目線のセリフではないか。多分、そんなふうに考える私が、庶民の味方ヅラをしているだけなのだろうが。
なぜこんなところ出ていかないと聞かれて、女は「ここは私のうちだもの!」と叫ぶ。その気持はわかる気がした。福島の原発事故で故郷を追われた人も、同じ気持ちだろう。

グレーの幕で舞台の上から下まで覆い、中央にあばら家がポツン。人形も使って、男の空虚さを示す。シンプルな砂の映像が、砂の谷を作る。あばら家がくるくる書いて飲して変化をつける。すだれに映る影絵と、出てくる人物のズレ(彼の女かと思うと男の同僚だったり)もうまい。警察や、男の中学の同僚たちの日常的なボケも、砂の中の生活と対比的効果で良かった。4人の黒子=村人や警官のステージングもスムーズ。そして音楽がすごい。私は知らない人だが、上野洋子が舞台の情報にずっといて、シンセ、打楽器、アコーディオンなどをつかいわけ、「ヒョー」「ワオー」といった声で、効果音的音楽をつける。面白かった。

ネタバレBOX

さいごは、女に「寝るたびに、起きたらまた一人きりじゃないかと思うと怖いの」といわれ、また女が妊娠し、その中毒症か何かの病気で、男は穴の底にとどまることを選ぶ。これは「情が移った」というべき通俗的結末で、はないか。これでいいのか。

ただ、こうも考えられる。外の自由な生活と言っても、すでに妻との関係は冷えていた。それよりも、穴の底の「愛」のある生活のほうが「幸せ」なのかもしれない。自由という孤独より、不自由の安心のほうがいい…。そうして人々はファシズムを選んだ、そういう側面はあるとしても、抽象的自由より、家族、隣近所との親しい関係のほうが人々の幸福度は上がるというのは、様々な調査でも明らかな人間の本性である。

あるいはただ単純に疲れただけかも。よくあることだ。年とともに「理想離れ」して現状を受け入れていく
「侠」  君、逃げたもうことなかれ

「侠」 君、逃げたもうことなかれ

サンハロンシアター

「劇」小劇場(東京都)

2021/09/02 (木) ~ 2021/09/05 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

ちょっと意外な展開だったが、昭和の価値観の人間には納得出来るプロット
キャスティングの妙でいい味出ていた
シンプルなセットだが、照明と音響が実に効果的だった

このページのQRコードです。

拡大