最新の観てきた!クチコミ一覧

1721-1740件 / 182705件中
泥人魚

泥人魚

劇団唐組

花園神社(東京都)

2024/05/05 (日) ~ 2024/06/09 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

出張で札幌滞在最終日の朝に訃報を聞いて、それは代表作『泥人魚』東京公演開幕日でもあった。
そして、翌日予定通りの日時に予定外の状況で紅テントに向かった。浴び、吸い込み、啜るような観劇だった。
上京してから産前産後を除いて唐組を観続けてきたけれど、その中でも忘れられない日になった。状況が状況だから特別にならざるをえない節もあるけれど、むしろ私は、私の胸は、いつも通りの圧倒が全うされていたことにたまらず溢れたのだった。うまく言えないのだけれど、こんなにも大きな喪失を抱え、漂わせながらもいつも通りの眩しく儚い紅、そこで圧倒が更新されていることに心が震えた。
無論前身の状況劇場にかすってもいないことはおろか唐十郎演出の唐組を一度しか観たことのない私である。「全盛期を知らないじゃないか」と言われればそれまでだけど、私にしてみたら観始めたその日からいつだって唐十郎は全盛期じゃないのだろうか、と思っていた。思ってきた。いや、思っている。 ぴたりと同じ時代に生きたわけでない、"全盛期を知らぬ世代"の私も、それでも誰がなんと言おうと、唐十郎の言葉に唐組の劇世界に魅了され続けた、され続けている、歴としたその一人です。

札幌で訃報を聞いた時は事実に輪郭がないままだったけれど、羽田からのバスが奇しくも新宿に、唐十郎なき新宿に着いた時ようやく実感がおそってきた。さみしい、とも、かなしい、ともまた違う、しかし確かな喪失感だった。花園に聳える紅に命の火をうつすように唐さんの肉体から魂が離れたように感じた。風になったようにも思うけれど、やはり水かもしれないとも思う。手を洗うとき、風呂に入るとき、汗、涙、雨、あらゆる水を経験しながら、唐さんの戯曲で出会った言葉の数々を反芻していた。いつも通り当然のように予約していたその日がまさか唐さんを偲ぶ観劇になるとは思いもしなかった。だけど、いつも通り呆気ないまでに素晴らしい役者たちが今日も今日とてドカドカと舞台の上を暴れ回っていた。大鶴美仁音さんの香り立つような儚さ、妖しさに惑わされながら、泥の波間の花園で人魚を見た。テントの紅から人が溢れ出していた。虚構が現実に明け渡され役者が去っても続く遺言の様でも産声の様でもある歌声。その余韻の中で嗚咽みたいな喝采はいつまでも鳴り止まなかった。奇しくも今までで最も"唐十郎"を近くに感じた瞬間だった。

ネタバレBOX

ネタバレ、というより私情である。しかし、少なくとも私に取っては唐組を語る上では欠かせない話でもあるので、少し追記をする。

何度足を踏み入れても現実的ではない存在だった紅テントが少しの間だけ日々の一部になったのは、昨年の春公演『透明人間』の時だった。長年の念願叶ってテントの建て込みと稽古場の取材・執筆をさせてもらったこともあるけれど、夫が出演していたことも大きかった。唐戯曲で馴染みの"田口"という名の役だった。台所で胡瓜を切ったり、洗濯を取り入れてると、風呂場や部屋の向こう側から唐戯曲、そこに刻まれた美しく荒ぶる台詞たちが小さくしかし確かに漏れ聞こえてくるのだ。そんな中やはり私は胡瓜を切り続けたり、はたまた黒地に赤で"テント番"と書かれたTシャツを畳んだりして 田口の台詞とともに日々に非現実が雪崩れ込んでくる度いちいち胸を熱くしていた。自分の人生でこんな日がくるなんて思いもしなかった。しかしそれでも、たとえ家族が出ても、日々の隙間でそれを娘と見に行っても、感慨深さはあれど遠い幻影の様な紅テントの圧倒は初めて観た日と何も変わらなかった。ようやくここまできました」「それでもまだまだ遠いです」と、あの日々、私は心の中で誰かに向かって必死に話しかけていて、その誰かこそが唐十郎その人だったということにようやく、はっきりと気づいたのは、唐さんが旅に出てしまった時でした。
さみしい、かなしいともまた違う、だけど確かな喪失を感じながら、けれども美しさと荒々しさに身を任せながら。きっとずっとそうだろう。紅テントが花園に建つ限り。唐十郎の言葉が戯曲が存在する限り。
ハナコトバ -朗- for spring

ハナコトバ -朗- for spring

Daisy times produce

アトリエファンファーレ東新宿(東京都)

2024/04/10 (水) ~ 2024/04/14 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

鑑賞日2024/04/14 (日) 17:00

植野祐美がプロデュースする企画団体のリーディング公演。ダブルキャストのBチームを観劇。

受付でチケットと一緒に番号札を渡される。何かと思えばブロマイドなどの物販の整理券で、開演前に番号順で舞台前に呼び出されるようになっている。要するに客は出演する女優陣のファンばかりで、写真などを購入することが前提とされているらしい。これまた若いカワイイ女優を集めてその物販で儲けようとする公演なのかと、開演前から舞台に対する期待が薄れていく。

加賀地方のコンビニもないような片田舎の村を舞台とした「青春カルペディエム」と「魔女のお茶会」の2本立てで、上演時間は1時間25分。

(以下、ネタバレBOXにて…)

ネタバレBOX

「青春カルペディエム」ではまず地の文を読む三井ゆかが素晴らしく、聴き惚れてしまった。
が、それもこのエピソードの主人公・森宮咲胡が登場するなり台無しに。高校3年生という設定なのだが、声質やしゃべり方がアニメのキャラクターそのもので、高校3年生どころか中学生か小学校高学年としか思えない。

それは後半の「魔女のお茶会」でも同様で、舞台となる喫茶店の店長(植野祐美)がこれまたドタバタギャグのアニメそのもの。
アニメを見下す訳では決してないが、今回の内容のような朗読劇であればまずは実写版のドラマのような演出が望ましいだろう。折角のいいホンがキャラクター設定のために薄っぺらくなってしまっている。

それに咲胡(さきこ)だの卯咲(うさぎ)だのと名前に難しい読みで漢字を充ててみても、耳で聞くだけではそれはわからない。うさぎなど前半のエピソードのあとでは兎かせいぜい平仮名でしか思い浮かばないだろう。

前半の咲胡と兎との会話や、前半から後半へ移る際の「東京から戻って二十年、私は“魔女”になった」という一文が、最後の解離性同一性障害という説明で活きてくるのは見事ではあったが…。
BEAT PARADOX presents BASKET vol.4

BEAT PARADOX presents BASKET vol.4

BEAT PARADOX

パフォーミングギャラリー&カフェ『絵空箱』(東京都)

2024/04/04 (木) ~ 2024/04/07 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

鑑賞日2024/04/07 (日) 17:00

「ひとつぶひとひらひとかけら」を観劇。

この作品は、ハグハグ共和国によって2019年の3月末に琵琶湖畔にある滋賀里劇場プレ・オープニング公演として2日間3ステージのみ上演され、翌々年東京でも再演されたものだ。無論私はその双方を観ている。
ただ、今回の上演にあたっては、BEAT PARADOX(テアトル・アカデミーの受講者)向けに1時間強と本来の1/2ほどの長さに書き換えられている。

(以下、ネタバレBOXにて…)

ネタバレBOX

若手&新人メンバー芝居と謳っていたので、てっきり若者中心の座組かと思っていたら、いきなり高齢の女性群(セクハラといわれるかもしれないが、所謂おばさま世代)が登場したのでびっくり。
しかも最初に登場した女性はその最初の台詞をトチってしまう有様(「もういい~か~い」という遠くからの問いかけに「もう…」と言いかけて、あわてて「ま~だだよ~」と言い直していた。
その後5人が加わり、教員同士のレクレーションについての協議が始まる。この部分は本来の「ひとつぶひとひらひとかけら」にはなく、全く別のハグハグ共和国の作品。メンバーの高齢者用に付け加えたものだろうが、この部分と後半の「ひとつぶひとひらひとかけら」との繋がりがわからない。小石と「虐待されていた妹と私は草むらに隠れ、その隙間から空を見ていた」という台詞、そしてその女性教師と「ひとつぶひとひらひとかけら」に出てくる女子高生の苗字が同じことからこの2人が姉妹なのか、と推測するのみ。それ以外には前半と後半に全く繋がりがないからメンバーの年代構成に合わせて2つの作品を無理やりくっつけたという感じしかしない。

本体の「ひとつぶひとひらひとかけら」も同様にメンバー構成上やむをえなかったのだろうが、子役が多数登場し、まあそれなりに上手いのだが、一様に活舌が悪い。
時間を司る3人の女神にしても過去と現在が小学生の子役で、未来だけが高校生と思しき役者、とバランスが悪い。過去<現在<未来の順に背が高い配役としてはいるが、登場時には一番子供っぽい口調の未来を3人の中では一番年長の役者が演じるというのはどうにも…。もっともこの役はハグハグ共和国版では今回リーディング助手を務めている生粋万鈴が演じていたのだから、前半と後半の切替など難しい役ではあるのだが…。

この「ひとつぶひとひらひとかけら」本体部も大幅に書き換えられており、役者陣のスキルもあって(熱意は感じられるものの)物語としての深みが減じられてしまった。
良くも悪くも発表会レベル。
将棋無双・第30番 ~神局のヴァンパイア~

将棋無双・第30番 ~神局のヴァンパイア~

E-Stage Topia

上野ストアハウス(東京都)

2024/04/10 (水) ~ 2024/04/14 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

鑑賞日2024/04/10 (水) 19:00

この団体の公演は一昨年1月の江戸川崇(カラスカ)作・演出による「東京卍メロス」を観ただけであるが、今回の公演は黒薔薇少女地獄の太田守信が作・演出。
タイトルの「将棋無双・第30番」からこのシリーズ30作目かとも思えるが、「将棋無双」は七世名人三代伊藤宗看による詰将棋100番を纏め江戸幕府に献上された作品集のことであり、これらの詰将棋はなかなかその解答本が見つからなかったため、「詰むや詰まざるや」と言われたそうだが、中でも第30番は神局と称されているという。従ってその神局という第30番をモチーフにした物語ということだろう。

上野ストアハウスのさして広くもないロビーに入って、出演者の写真やトレーディングカードを購入するために、中高年の男たちが列をなしているのを見てイヤ~な気になった。若いカワイイ女優を集めてその物販で儲けようとする公演では、その内容の薄さに散々失望させられているからだ。その最たるものは高取英晩年期の月蝕歌劇団だ。

(以下、ネタバレBOXにて…)

ネタバレBOX

舞台奥には教会のような十字架をモチーフとした巨大なステンドグラス、そこに開場時からパイプオルガンが響き渡り、ゴシックロマンに溢れたムードが漂う。

が、冒頭で「ねえねえ、おばあちゃん。今日もお話を聞かせて。おばあちゃんの若い頃のお話」と子供たちがお話をねだる祖母がメイクも声も若いままであり、ここで「ええ~ッ」となってしまう。要するにかわいいままの姿を見せることで、ファンを満足させようとの浅はかな目論見なのだろう。

そもそも、まだ世界が一枚の、9×9=81マスの盤面だと信じられていた時代って、どんな世界なんだよ。
その世界で神に背き仇を為す存在・吸血鬼との戦いが繰り広げられ、それは舞台床面に設置された巨大な将棋盤の上で登場人物たちが自身の駒を置いて詰将棋と重ね合わせられるのだが、これがよくわからない。
駒の動きにも何らかの意味を持たせているのだろうが、もともと「詰むや詰まざるや」と言われた第30番が基なのだから、将棋がわからない者には尚更のこと難解でしかない。ラビット番長が上演している将棋シリーズとは大違いだ。

これなら無理に将棋を持ち込まなくとも、人間対ヴァンパイアの戦いをゴシックロマンで彩って物語にした方がどんなにか良かったろう。奇を衒いすぎ。
ANJIN A NAVIGATOR OF LOVE 2023

ANJIN A NAVIGATOR OF LOVE 2023

GROUP THEATRE

浅草九劇(東京都)

2023/11/01 (水) ~ 2023/11/05 (日)公演終了

実演鑑賞

初日に観劇。
演者の素や、演者同士の素の関係が垣間見える時がちらほらと。
私は、そういうのが嫌いなんです。

達磨さんは転ばない

達磨さんは転ばない

劇団龍門

シアターシャイン(東京都)

2024/05/15 (水) ~ 2024/05/19 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2024/05/18 (土) 18:00

この公演2度目の観劇。
こみいった内容の作品だが、ストーリーがわかった上で再見するのは、どこにどういう伏線が張られていたのかじっくり観る楽しみがある。

(以下、ネタバレBOXにて…)

ネタバレBOX

達磨が言う「中途半端なハラスメント」や、刑事がオーディション参加者らにぶつける言葉の端々、自分の名前から始まる終盤の達磨の悲痛なモノローグなど、村手の思いがビンビン伝わってくる。
15年前の飲酒運転で夫婦をひき殺して刑務所に入っていた男が、自分を恨み続けているその夫婦の息子に対して「許してくれ」ではなく、「どうか俺を一生恨んでくれ」と言ってひたすらに頭を下げるのが胸に迫る。

シリアスな場面だけでなく、無論ユーモラスなシーンも挟み込まれている。達磨から指で胸をツンツンされる度に刑事の顔が強面からだらしない笑顔に変わる瞬間の可愛らしさや、プロデューサーや助監督がマンボウになって登場する(私はウルトラマンの怪獣ジャミラを思い出してしまったが)など、張り詰めた緊張感を和らげてくれる。
こうした作劇の上手さが随所にみてとれる。

それにしてもこの客席数の劇場で公演を続けるのは、運営的にはかなり苦しいだろう。内容のいい作品ばかりということに加え、その点でも頭が下がる。
LALL HOSTEL

LALL HOSTEL

おぶちゃ

MsmileBOX 渋谷(東京都)

2024/05/15 (水) ~ 2024/05/26 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

後半から展開が面白く、ドタバタ劇を思い出す様なスピード感のあるそして感動させられる最高の演劇でした。次回作も楽しみです。

マクベス

マクベス

演劇ユニット King's Men (キングスメン)

座・高円寺2(東京都)

2024/05/14 (火) ~ 2024/05/16 (木)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

マクベス役と夫人役の両名によるユニット(演出も両名)の舞台。男女コンビが本作を最初に選んだ事には納得であるが、そうすると次はオセロだろうか。
多場面に亘るシェイクスピア作品で抽象舞台は常套と言えるだろうが、平面床のみの素舞台は挑戦と言える。しかもカーペット一枚用いず茶色の地肌の見える床を歩くと足音もそのように響く。照明もダイナミックな変化はない。そこに共同演出の二人が試みた幾つかの特徴的な趣向の一つが、ホリゾント全体に花や風景、抽象的な絵柄を映写する(写真を加工した静かな動きのある映像との記憶・・そのため照明が落ちても明るい)。また現代的衣装を役柄に(具象というよりは象徴的連想を助ける意味で)寄せた衣裳、脇役に当てられた俳優の不思議な?用い方、そしてマイクを持って歌う場面の挿入などがある。これらが成功していたか否かは評価が分かれそうだが、大きな破綻はなくラストまで進行する。
違和感、とまでは行かないが、主役二人のユニットとは言えかなり目立つ。舞台上での身体的な親密度(取る距離も含め)と言い、両名の台詞量とスピード、場面の掻い摘み方、正解かはとも角、それらの中に彼らなりの場面解釈が窺える。ただ、やはり基調となる進行速度は、感情の真実味を観客が確かめる余地を与えず進む事には、付いて行こうとはするものの「おいて行かれ」感はある。上演時間は二時間に収めている。
そうした展開の最後に、実はアッと驚かせる原作にない場面の追加がある。それが不思議と違和感のない、あり得る形として飲み込め、感動的でさえあった。
ただ、そうであっただけに、そこまでの展開における人物の心情表現のリアルが、もっと見えたかったのは正直な感想だ。

親の顔が見たい

親の顔が見たい

diamond-Z

日本橋公会堂ホール「日本橋劇場」(東京都)

2024/05/16 (木) ~ 2024/05/18 (土)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

 戯曲は畑澤聖悟さん作、演出が西川信廣さんである。今作は初めて拝見したが、1月から今作を含めて42本を拝見したうちのベスト作品と評した。文句なしの華5つ☆

ネタバレBOX

 脚本が素晴らしい。演出も無駄が無く舞台美術も必要最小限で小道具1つに至る迄総てを用い緊迫の舞台内容を盛り上げている。自分は初見の作品であったが、有名な戯曲だとのことで読んだり、観たりで既知であった方々も多いのかも知れない。何れにせよ。楽公演じっくり拝見させて頂いた。
 板上はホリゾントセンター上部に「愛友理真」と大書された額、その真下の壁に「聖母子像」が描かれた額が懸かっている。ホリゾントやや下手に出入口、その下手の壁手前には電話台と受話器がある。丁度板全体の中央辺りを占めるのは大きなテーブル。長辺の各々にはパイプ椅子が各4脚、上手短辺に1脚並べられている他、上手観客席側にはパイプ椅子が観客の視線と直交するよう横向きに2脚並べられ、その下手に塵入れとして用いられるのか、防火用水が入っているのかバケツがある。パイプ椅子は下手にもあるがこちらは上手のパイプ椅子とは逆向きに置かれ而も2脚づつ、やや間隔を置いて置かれている。舞台美術は以上。出捌けは出入口1か所と極めてシンプルだ。因みに尺は約110分弱。
 美術的に優れているのは、大書された文字が右側から左へ向けて書かれていることで、この学校が敗戦前からあったこと。聖母子像が懸かっていることでミッション系であることが即座に分かること。深読みすれば何故そのようなことが許されていたのか迄観客は想像できるということだ。(名門校であり女子校であることまでは極めて合理的判断で辿り着ける)
 さて、物語本題に入ろう。発端は、この学校の中学2年の生徒、井上道子が、朝教室内で首を括って縊死していたことであった。それを初めに発見したのが新任で担任の女性教諭、戸田菜月。年齢が生徒たちと近いこと、優しく親身に生徒たちに向き合ってきたことから生徒たちからは菜月、菜月とファーストネームで呼ばれていた。それだけに戸田自身精神的ダメージは極めて大きく、学年主任で教頭の原田茂一が16時から緊急開催される懇談を一切取り仕切って戸田には「休んでいるよう」指示していたのだが、戸田は、懸命にお茶出し等に関わっている。自死という行為が学校内で起きたことで校長も当然懇談には出席する。実際舞台上に登場するのは親たちと教師陣だが、道子の自殺原因はクラスメイトたちによる苛めであった。この場に居るのは苛めを実行したと考えられる子らの親たち保護者たちと教職者である。では何故、朝早く起きた事件当日に懇談会が持てるようなことになったのか? それは道子が出した菜月宛ての手紙が届いており、そこにクラスメイト5名の名が記されていたからである。遺体発見が午前7時を少し回った頃、菜月の反応は極めて迅速而も理に適ったもので直ぐに他の教師たちに連絡を取って道子を降ろし皆で人工呼吸、AED等必要な処置を為しつつ救急連絡を取って救急車を呼んだ。死亡判定を下したのは救急車で駆け付けた医療関係者で7時台に判定は下された。既に登校していた生徒が100名ほど居たが全員各家庭に帰した。その後道子からの書面で名指された5名の生徒及びその親たちに16時に学校へ来るよう連絡を取って集まって貰っていたのである。 
 親たちは会議室に集められ、子供たちは1人づつ、別々の場所に付き添い教師と共に居た。実際、苛めた本人たちであれば口裏合わせを防ぐ為ということも当然考えられる。
 協議が開始されると、教頭が菜月宛てに送られてきた文書を皆の前で読み上げた。親たちは自分の娘が同級生のそれもクラスメイトを苛めて死に追いやったということを認めたくない。その為、様々な異論、反論を述べ立て始める。最初の異論、反論はそれなりに自然な発想と論理に基づき、その異論、反論に濡れ衣であるかもしれない論拠が在る程度認められるものであった。然し徐々に親たちの論理に合理性が欠けてくると、同窓会会長やPTAトップ等も務めてきた森崎(妻)が、その書面を見せて下さいと言い出し2度目にそれを要求した際、その書面に火を付けて燃やし証拠隠滅をしてしまう。そんなことをする森崎雅子に抗議する学校側に教師で夫妻の長谷部(夫)が証拠が無くなって仕舞ったのだからとやかく言っても始まらない、防げなかった学校側も問題だとして恫喝を掛け、事実隠蔽工作に走る。だが更に道子からの手紙は別の人物宛てにも送られており、それも親たちの面前で読まれることとなったが、今度は切羽詰まった挙句教師から奪った手紙を破いて食べ、あっという間に呑み込んで仕舞うということをしでかしたのは、今度もまた森崎雅子であった。そして今回も詭弁を弄してあくまでも娘たちを庇い続けたのは長谷部亮平であった。然し乍ら幾ら何でも酷すぎると保護者サイドからも内部告発がおずおずと出始めた。而も乱入者がありその乱入者は会議室迄入ってきた。彼は道子がアルバイトをしていた新聞配達店の店長であり、彼に親切にして貰った道子は3通目の便りを彼に送っていたのである。メディアでも速報が伝えられていたから店長は直ぐに気付き真実を明かす為に会議室に押しかけ苛めの全容を明かす。流石に今回ばかりは、森崎雅子も手紙を奪うことは叶わず、事件の全容は親たちの中からも明かされてゆく。そして終盤、チェーホフ作品の幾つかで言及される深い台詞が引かれる。無論単に引用している訳では無い。チェーホフ作品の中で用いられて表現されている内容との対比の為にここに持って来られたのだ。この苛めという陰湿で卑怯でグロテスクで無責任な社会の在り様の鏡とする為に! (因みに証拠隠滅を国家レベルでやった歴史、個人レベルでやった歴史は敗戦後も脈々と実際に続いているのが実情である)焼却で対応する有名な件は敗戦直後進駐軍がやってくるまでの2週間程で問題になりそうな書類が昼夜を徹して焼却された事実として、食べた件は金丸が国会で疑惑を追求された際、証拠書面を実際に食べて隠滅した事件がある。
 以上が私の観た今作の内容であり、今年観た全作品中、最高作品と評価する所以である。
親の顔が見たい

親の顔が見たい

diamond-Z

日本橋公会堂ホール「日本橋劇場」(東京都)

2024/05/16 (木) ~ 2024/05/18 (土)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

何度観ても、ずっしりと心に残る作品ですね。リアルな現実を見せつけられるように響きます。

世界ギュルルン滞在記

世界ギュルルン滞在記

FREE(S)

ウッディシアター中目黒(東京都)

2024/05/15 (水) ~ 2024/06/02 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

結構無理目の展開ですが、なかなかに快調です。なるほど、ドキュメンタリーの楽屋ネタとはやっぱりこう来たか。

略式:ハワイ

略式:ハワイ

劇団スポーツ

OFF OFFシアター(東京都)

2024/05/15 (水) ~ 2024/05/19 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2024/05/19 (日) 13:00

座席1階

パンフレットによると、元は「劇団スポーツ」がまだ学生劇団だったころの2017年に、本公演で発表した3人芝居だったという。今作はそのタイトルを借りて新たに創った舞台。ハワイというのは修学旅行の行き先だが、今作のメーンではない。舞台の中身は、パワハラ顧問教師の暴力から逃げたいと剣道部からの退部を決意した男子高校生とその同級生たちの物語。

まず、秀逸なのは舞台の小道具だ。開幕前からしっかり公開してあるが、黒板を横に切った板にチョークでさまざまなことが書いてある。例えば上演時間とか、携帯の電源はオフに、とかなのだが、舞台が始まるとこれらが重要な役割を果たすようになる。黒板というのが高校生らしくていい。
しつらえた舞台セットは運動部の部室で、部室によくあるアイテムが棚に並んでいるのが楽しい。その中でも一番下にお汁粉缶がたくさん並んでいて変わってるなと思ったら、これも劇の中で重要アイテムとして脚光を浴びる。同じようなことはウクレレも。タイトルがハワイなのだから置いてあるかと思いきや。。。
さて、物語の構成は、少し前の人気ドラマ「ブラッシュアップライフ」を彷彿とさせる。つまり、あの時はこういうふうな状況を選んで失敗して後悔したから、それを回避するためにこっちの状況を選んでやり直そう、という展開だ。これが果てしなく繰り返されてきて見ている方は最後、何が何だか分からなくなるのだが。
とにかく笑いのポイントはしっかり埋め込んであって、結構大声で笑っている客席のおじさんもいた。「後悔してやり直す」ことができないのが青春、学校生活なのだが、やり直しを何回も成し遂げてしまっているというところはもはや、妄想だ。そしてこの妄想の展開が爆笑の連続という寄せては返す波のように客席を沸かす。そう、波である。なんてったってハワイなのだから。

湯を沸かすほどの熱い愛

湯を沸かすほどの熱い愛

ナッポス・ユナイテッド

サンシャイン劇場(東京都)

2024/05/18 (土) ~ 2024/05/26 (日)公演終了

実演鑑賞

ステージ上でキャラメルボックスの岡内美喜子さんを観るのはいつ以来だろう…と考えていました。数年振りに観る岡内さんは以前と変わらぬ存在感で観客を魅了します。この物語は、主人公・幸野双葉の奮闘ぶりが見所のひとつであり、双葉役の岡内さんには相応の重責がかかる訳ですが、それを見事に全うしているように見えました。また、双葉の娘役・瀧野由美子さんも、物語の鍵となる重要な役柄をしっかり務めあげていました。

ネタバレBOX

ストーリーは原作映画に準じています。主人公・双葉が「二ヶ月」の余命宣告を受け、娘や夫との生活を立て直し、人生の心残りと向き合うべく奮闘する。自分のことは二の次で、大切な人たちの為に残りの時間を捧げる…。そんな双葉の「熱い愛」を、生の表現である演劇でどこまで放射できるか!? という挑戦だと感じました。
BLACK SMITH -ブラックスミス-

BLACK SMITH -ブラックスミス-

壱劇屋

CBGKシブゲキ!!(東京都)

2024/05/15 (水) ~ 2024/05/19 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

毎度のことながら最高でした。

ネタバレBOX

壱劇屋さんは毎回キャラクターが素晴らしい。
今回は全員推せますが特に大工廻、多々良、ムラキ、色雀、エル、オーブがお気に入りです。

個人的にはワードレスよりも今回のような普通のセリフありが見やすくて好きです。
飲める醤油

飲める醤油

あひるなんちゃら

駅前劇場(東京都)

2024/05/16 (木) ~ 2024/05/19 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

たまたま開演前に劇場前を通ったので当日券で鑑賞。
ずっとギャグが続くのがすごい。しかも前説のフォローでずっとリラックスして見られました。初見だったのですが、次公演も見てみたい。

ネタバレBOX

実は一番受けたのは前説で「お子さんもきてください、としてかなりお子さんが来られています。大人の方々に言います。我々は彼らが払う年金で生活することになります。彼らに生かしてもらえるのです。暴れても気にしないで!トイレ!となったら抱えてはこんでください。」
まったくその通りですね。
リンカク

リンカク

下北澤姉妹社

ザ・スズナリ(東京都)

2024/05/15 (水) ~ 2024/05/19 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

皆さんも言っているようにセットと客席の位置がよく考えられているなぁと。
真横を演者さんが移動するのがライブ感ありでよかったです。

親の顔が見たい

親の顔が見たい

diamond-Z

日本橋公会堂ホール「日本橋劇場」(東京都)

2024/05/16 (木) ~ 2024/05/18 (土)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

何度か見たことがある作品だが、話が進むにつれどんどん感情移入しモヤモヤしてしまった。
自分の身だったらなどと考えさせられる舞台でした。

LALL HOSTEL

LALL HOSTEL

おぶちゃ

MsmileBOX 渋谷(東京都)

2024/05/15 (水) ~ 2024/05/26 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

後悔先に立たず といった句があるが、恋愛に関してお互い素直になれないために別れてしまうことがある。そんなカップルを何とか手助けして、恋を成就させたいと奮闘するゲストハウス・LALL HOSTELのオーナー筑紫健司と周りの人々。その心温まる物語だが…。
物語の展開は分かり易いが、結末が早い段階でわかってしまうので 物足りない(予定調和か)。

登場するカップルは、数年前に交際していた恋人・水瀬ひまり と 綿貫勇人。この二人が初めて旅行した思い出の宿での すれ違いや勘違いを面白可笑しく描いた青春純情物語。一方 恋愛教訓として、オーナーが別れた女性と再会した時の話がリアルでグッとくる。少しお節介のような人々、しかしコロナ禍を経て不寛容になった今、こうした人間味・人情味ある物語は好感度が高いと思う。

少しネタバレするが、物語は説明にある「同宿していた ある職業の宿泊客」の素性が肝。登場人物たちの憎めない滑稽な振る舞いや、自分に都合の良い思い込みが騒動を大きくしていく。それが観客の笑顔を誘い、いつの間にか会場全体が大きな笑いの渦に巻き込まれて、優しく温かい気持になっていく。
なお、本公演は おぶちゃ の全国行脚第一弾!すでに福岡公演が決まっているらしい。
(上演時間1時間50分 途中休憩なし) 

ネタバレBOX

舞台美術は、上手にLALL HOSTELの受付カウンター、中央に雑貨・小物が収納された棚、下手にソファとローテーブル、そして玄関。会場の構造を相まって、全体的にアットホームな感じ。

物語は、以前 宿泊したカップルのプロポーズ・結婚を心待ちにしているオーナー。しかし何故か別れてしまったとの報告が…。その原因が、両家(親)の顔合わせの時に勇人が来られなかったこと。その理由が曖昧で ひまり は承服していない。何とか仲直りさせたいオーナー達。そんな時、偶然にも結婚コーディネーターを名乗る男 坂間誠一が宿泊しようとするが、どうも怪しい素振り。この男の正体とカップルが仲直りするか否かが見所。

今時こんな優しいオーナーがいるのか?コロナ禍によって 人との距離を隔てざるを得なくなったが、それは物理的なことだけではないような。不自由な暮らしや不寛容な気持が、人の優しさを奪ったような。物語の中で カップルがお互いの良い面をフリップに書くが、<真面目>とか<優しい>といった有り触れた言葉。少し こそばゆいがホッとする。

自称 結婚コーディネーターのウンチク・アドバイスを受けながら、上手く仲直りできそうな雰囲気だが、最後まで勇人が真実を打ち明けない。この理由が、物語を最後まで引っ張る肝。早い段階で明かされる「母が救急車で運ばれた」が、それは何故?他愛もない笑い話のようだが、それによってカップル解消、別れてしまうという本末転倒。

オーナーが付き合っていた彼女に再会したが、既に結婚し子供も生まれていた。その時、改めて別れたことを後悔したと。好きだったことを認識するのは、その人が居なくなって実感するのだと力説する。このシーンが結構リアルで、多くの人に共感と納得が得られるのではないだろうか。

主役のカップルの恋愛に並行して、他の人物の恋バナが面白可笑しく描かれる。勘違い思い込みといった独りよがりの恋、当人にとっては真剣そのものだが、傍目には滑稽な喜劇。それをキャストが実に面白 楽しく演じている。冒頭とラストに出てくるマスコットが愛らしく印象的だ。
次回公演も楽しみにしております。
除け者(ノケモノ)は世の毒を噛み込む。

除け者(ノケモノ)は世の毒を噛み込む。

キ上の空論

新宿シアタートップス(東京都)

2024/05/09 (木) ~ 2024/05/19 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

人生は綱渡り。常に転落の危うさを孕んでいる。その危うさの甘美なセカイを一口でも舐めてしまうと、もう戻れない。知ってしまったことを知らないことにはできない。後戻りできない人生。戻れないのだから、新たな魅力を探して、見つけた道へ、見つけられそうな方向へ向かうしかない。好転するのか、更なる転落が待っているのかはわからない。ただ、とどまることは出来ない。
それが性癖であると、日の当たる場所に晒すモノではないから、なかなかに理解されにくい。けれど、性癖に限らず、きっと誰にも多かれ少なかれ拘りみたいなものはあって、そこに生きづらさがあるのは誰もが感じているのではなかろうか。
自己肯定感が低い人間には、その闇からなかなか抜け出せない。我が子という存在には無限の愛を注ぐことができ、誰からも咎められることはない。そこに歪んだ性欲が含まれなければ。
彼が自分の分身となる子どもの誕生に感情が動かされることは理解できる。同時に反対側にいる立場の恐怖も。
改めて、何が彼の転落のスイッチを押したのかを考えている。なぜアレを跳ね除けられなかったのか、その力がありそうだった彼からそれを奪ったのは何なのかを考えている。落書きの主が誰なのかも。
一つ言えるのは、伝聞の恐ろしさ。その情報の信憑性が高くなかったとしても、その小さな棘は体内に入り込んで、心臓へと着実に上っていく。SNSはその最たる棘。

藍澤慶子さんは今作でも素敵だった。

悪魔の手毬唄

悪魔の手毬唄

劇団ヘロヘロQカムパニー

こくみん共済 coop ホール/スペース・ゼロ(東京都)

2024/05/04 (土) ~ 2024/05/12 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2024/05/10 (金) 12:30

1977年の市川崑監督による映画以降、テレビドラマも連続(古谷金田一)・単独(古谷/片岡/稲垣/加藤金田一)合わせて5本観ていたが、今回改めて気付いたことが2つ。1つ目は「悲劇性」が前面に押し出されていること。
所謂「推理もの」は一般的に私利私欲や怨恨などが前面に出ており、本作ももちろんその要素もあるがそれよりも「不幸な偶然」「避けられない運命」的なものが強調され沙翁の四大悲劇やギリシア悲劇などと通ずる気がした。
2つめは本作の陰の主役……と言うより真の主役は磯川警部ではないか?ということ。ラストの金田一の「あの台詞」で露わになることを秘めての行動、イイよなぁ。この2点、今回の脚本・演出で改めて気付いたかも?
あと、今回観に行くキッカケの1つだった「あの場面は舞台でどう表現するのだろう?」な興味も「あぁ、そうしたのか!(得心)」だったしそれ以外も過去の再現場面の見せ方を筆頭に3つも盆を使う(なんと豪勢な!)など生の舞台での見せ方の見本市のようで大いに満足。

このページのQRコードです。

拡大