泥人魚
劇団唐組
花園神社(東京都)
2024/05/05 (日) ~ 2024/06/09 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
出張で札幌滞在最終日の朝に訃報を聞いて、それは代表作『泥人魚』東京公演開幕日でもあった。
そして、翌日予定通りの日時に予定外の状況で紅テントに向かった。浴び、吸い込み、啜るような観劇だった。
上京してから産前産後を除いて唐組を観続けてきたけれど、その中でも忘れられない日になった。状況が状況だから特別にならざるをえない節もあるけれど、むしろ私は、私の胸は、いつも通りの圧倒が全うされていたことにたまらず溢れたのだった。うまく言えないのだけれど、こんなにも大きな喪失を抱え、漂わせながらもいつも通りの眩しく儚い紅、そこで圧倒が更新されていることに心が震えた。
無論前身の状況劇場にかすってもいないことはおろか唐十郎演出の唐組を一度しか観たことのない私である。「全盛期を知らないじゃないか」と言われればそれまでだけど、私にしてみたら観始めたその日からいつだって唐十郎は全盛期じゃないのだろうか、と思っていた。思ってきた。いや、思っている。 ぴたりと同じ時代に生きたわけでない、"全盛期を知らぬ世代"の私も、それでも誰がなんと言おうと、唐十郎の言葉に唐組の劇世界に魅了され続けた、され続けている、歴としたその一人です。
札幌で訃報を聞いた時は事実に輪郭がないままだったけれど、羽田からのバスが奇しくも新宿に、唐十郎なき新宿に着いた時ようやく実感がおそってきた。さみしい、とも、かなしい、ともまた違う、しかし確かな喪失感だった。花園に聳える紅に命の火をうつすように唐さんの肉体から魂が離れたように感じた。風になったようにも思うけれど、やはり水かもしれないとも思う。手を洗うとき、風呂に入るとき、汗、涙、雨、あらゆる水を経験しながら、唐さんの戯曲で出会った言葉の数々を反芻していた。いつも通り当然のように予約していたその日がまさか唐さんを偲ぶ観劇になるとは思いもしなかった。だけど、いつも通り呆気ないまでに素晴らしい役者たちが今日も今日とてドカドカと舞台の上を暴れ回っていた。大鶴美仁音さんの香り立つような儚さ、妖しさに惑わされながら、泥の波間の花園で人魚を見た。テントの紅から人が溢れ出していた。虚構が現実に明け渡され役者が去っても続く遺言の様でも産声の様でもある歌声。その余韻の中で嗚咽みたいな喝采はいつまでも鳴り止まなかった。奇しくも今までで最も"唐十郎"を近くに感じた瞬間だった。
ハナコトバ -朗- for spring
Daisy times produce
アトリエファンファーレ東新宿(東京都)
2024/04/10 (水) ~ 2024/04/14 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
鑑賞日2024/04/14 (日) 17:00
植野祐美がプロデュースする企画団体のリーディング公演。ダブルキャストのBチームを観劇。
受付でチケットと一緒に番号札を渡される。何かと思えばブロマイドなどの物販の整理券で、開演前に番号順で舞台前に呼び出されるようになっている。要するに客は出演する女優陣のファンばかりで、写真などを購入することが前提とされているらしい。これまた若いカワイイ女優を集めてその物販で儲けようとする公演なのかと、開演前から舞台に対する期待が薄れていく。
加賀地方のコンビニもないような片田舎の村を舞台とした「青春カルペディエム」と「魔女のお茶会」の2本立てで、上演時間は1時間25分。
(以下、ネタバレBOXにて…)
BEAT PARADOX presents BASKET vol.4
BEAT PARADOX
パフォーミングギャラリー&カフェ『絵空箱』(東京都)
2024/04/04 (木) ~ 2024/04/07 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
鑑賞日2024/04/07 (日) 17:00
「ひとつぶひとひらひとかけら」を観劇。
この作品は、ハグハグ共和国によって2019年の3月末に琵琶湖畔にある滋賀里劇場プレ・オープニング公演として2日間3ステージのみ上演され、翌々年東京でも再演されたものだ。無論私はその双方を観ている。
ただ、今回の上演にあたっては、BEAT PARADOX(テアトル・アカデミーの受講者)向けに1時間強と本来の1/2ほどの長さに書き換えられている。
(以下、ネタバレBOXにて…)
将棋無双・第30番 ~神局のヴァンパイア~
E-Stage Topia
上野ストアハウス(東京都)
2024/04/10 (水) ~ 2024/04/14 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
鑑賞日2024/04/10 (水) 19:00
この団体の公演は一昨年1月の江戸川崇(カラスカ)作・演出による「東京卍メロス」を観ただけであるが、今回の公演は黒薔薇少女地獄の太田守信が作・演出。
タイトルの「将棋無双・第30番」からこのシリーズ30作目かとも思えるが、「将棋無双」は七世名人三代伊藤宗看による詰将棋100番を纏め江戸幕府に献上された作品集のことであり、これらの詰将棋はなかなかその解答本が見つからなかったため、「詰むや詰まざるや」と言われたそうだが、中でも第30番は神局と称されているという。従ってその神局という第30番をモチーフにした物語ということだろう。
上野ストアハウスのさして広くもないロビーに入って、出演者の写真やトレーディングカードを購入するために、中高年の男たちが列をなしているのを見てイヤ~な気になった。若いカワイイ女優を集めてその物販で儲けようとする公演では、その内容の薄さに散々失望させられているからだ。その最たるものは高取英晩年期の月蝕歌劇団だ。
(以下、ネタバレBOXにて…)
ANJIN A NAVIGATOR OF LOVE 2023
GROUP THEATRE
浅草九劇(東京都)
2023/11/01 (水) ~ 2023/11/05 (日)公演終了
達磨さんは転ばない
劇団龍門
シアターシャイン(東京都)
2024/05/15 (水) ~ 2024/05/19 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2024/05/18 (土) 18:00
この公演2度目の観劇。
こみいった内容の作品だが、ストーリーがわかった上で再見するのは、どこにどういう伏線が張られていたのかじっくり観る楽しみがある。
(以下、ネタバレBOXにて…)
LALL HOSTEL
おぶちゃ
MsmileBOX 渋谷(東京都)
2024/05/15 (水) ~ 2024/05/26 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
後半から展開が面白く、ドタバタ劇を思い出す様なスピード感のあるそして感動させられる最高の演劇でした。次回作も楽しみです。
マクベス
演劇ユニット King's Men (キングスメン)
座・高円寺2(東京都)
2024/05/14 (火) ~ 2024/05/16 (木)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
マクベス役と夫人役の両名によるユニット(演出も両名)の舞台。男女コンビが本作を最初に選んだ事には納得であるが、そうすると次はオセロだろうか。
多場面に亘るシェイクスピア作品で抽象舞台は常套と言えるだろうが、平面床のみの素舞台は挑戦と言える。しかもカーペット一枚用いず茶色の地肌の見える床を歩くと足音もそのように響く。照明もダイナミックな変化はない。そこに共同演出の二人が試みた幾つかの特徴的な趣向の一つが、ホリゾント全体に花や風景、抽象的な絵柄を映写する(写真を加工した静かな動きのある映像との記憶・・そのため照明が落ちても明るい)。また現代的衣装を役柄に(具象というよりは象徴的連想を助ける意味で)寄せた衣裳、脇役に当てられた俳優の不思議な?用い方、そしてマイクを持って歌う場面の挿入などがある。これらが成功していたか否かは評価が分かれそうだが、大きな破綻はなくラストまで進行する。
違和感、とまでは行かないが、主役二人のユニットとは言えかなり目立つ。舞台上での身体的な親密度(取る距離も含め)と言い、両名の台詞量とスピード、場面の掻い摘み方、正解かはとも角、それらの中に彼らなりの場面解釈が窺える。ただ、やはり基調となる進行速度は、感情の真実味を観客が確かめる余地を与えず進む事には、付いて行こうとはするものの「おいて行かれ」感はある。上演時間は二時間に収めている。
そうした展開の最後に、実はアッと驚かせる原作にない場面の追加がある。それが不思議と違和感のない、あり得る形として飲み込め、感動的でさえあった。
ただ、そうであっただけに、そこまでの展開における人物の心情表現のリアルが、もっと見えたかったのは正直な感想だ。
親の顔が見たい
diamond-Z
日本橋公会堂ホール「日本橋劇場」(東京都)
2024/05/16 (木) ~ 2024/05/18 (土)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
戯曲は畑澤聖悟さん作、演出が西川信廣さんである。今作は初めて拝見したが、1月から今作を含めて42本を拝見したうちのベスト作品と評した。文句なしの華5つ☆
親の顔が見たい
diamond-Z
日本橋公会堂ホール「日本橋劇場」(東京都)
2024/05/16 (木) ~ 2024/05/18 (土)公演終了
世界ギュルルン滞在記
FREE(S)
ウッディシアター中目黒(東京都)
2024/05/15 (水) ~ 2024/06/02 (日)公演終了
略式:ハワイ
劇団スポーツ
OFF OFFシアター(東京都)
2024/05/15 (水) ~ 2024/05/19 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2024/05/19 (日) 13:00
座席1階
パンフレットによると、元は「劇団スポーツ」がまだ学生劇団だったころの2017年に、本公演で発表した3人芝居だったという。今作はそのタイトルを借りて新たに創った舞台。ハワイというのは修学旅行の行き先だが、今作のメーンではない。舞台の中身は、パワハラ顧問教師の暴力から逃げたいと剣道部からの退部を決意した男子高校生とその同級生たちの物語。
まず、秀逸なのは舞台の小道具だ。開幕前からしっかり公開してあるが、黒板を横に切った板にチョークでさまざまなことが書いてある。例えば上演時間とか、携帯の電源はオフに、とかなのだが、舞台が始まるとこれらが重要な役割を果たすようになる。黒板というのが高校生らしくていい。
しつらえた舞台セットは運動部の部室で、部室によくあるアイテムが棚に並んでいるのが楽しい。その中でも一番下にお汁粉缶がたくさん並んでいて変わってるなと思ったら、これも劇の中で重要アイテムとして脚光を浴びる。同じようなことはウクレレも。タイトルがハワイなのだから置いてあるかと思いきや。。。
さて、物語の構成は、少し前の人気ドラマ「ブラッシュアップライフ」を彷彿とさせる。つまり、あの時はこういうふうな状況を選んで失敗して後悔したから、それを回避するためにこっちの状況を選んでやり直そう、という展開だ。これが果てしなく繰り返されてきて見ている方は最後、何が何だか分からなくなるのだが。
とにかく笑いのポイントはしっかり埋め込んであって、結構大声で笑っている客席のおじさんもいた。「後悔してやり直す」ことができないのが青春、学校生活なのだが、やり直しを何回も成し遂げてしまっているというところはもはや、妄想だ。そしてこの妄想の展開が爆笑の連続という寄せては返す波のように客席を沸かす。そう、波である。なんてったってハワイなのだから。
湯を沸かすほどの熱い愛
ナッポス・ユナイテッド
サンシャイン劇場(東京都)
2024/05/18 (土) ~ 2024/05/26 (日)公演終了
実演鑑賞
ステージ上でキャラメルボックスの岡内美喜子さんを観るのはいつ以来だろう…と考えていました。数年振りに観る岡内さんは以前と変わらぬ存在感で観客を魅了します。この物語は、主人公・幸野双葉の奮闘ぶりが見所のひとつであり、双葉役の岡内さんには相応の重責がかかる訳ですが、それを見事に全うしているように見えました。また、双葉の娘役・瀧野由美子さんも、物語の鍵となる重要な役柄をしっかり務めあげていました。
BLACK SMITH -ブラックスミス-
壱劇屋
CBGKシブゲキ!!(東京都)
2024/05/15 (水) ~ 2024/05/19 (日)公演終了
飲める醤油
あひるなんちゃら
駅前劇場(東京都)
2024/05/16 (木) ~ 2024/05/19 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
たまたま開演前に劇場前を通ったので当日券で鑑賞。
ずっとギャグが続くのがすごい。しかも前説のフォローでずっとリラックスして見られました。初見だったのですが、次公演も見てみたい。
リンカク
下北澤姉妹社
ザ・スズナリ(東京都)
2024/05/15 (水) ~ 2024/05/19 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
皆さんも言っているようにセットと客席の位置がよく考えられているなぁと。
真横を演者さんが移動するのがライブ感ありでよかったです。
親の顔が見たい
diamond-Z
日本橋公会堂ホール「日本橋劇場」(東京都)
2024/05/16 (木) ~ 2024/05/18 (土)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
何度か見たことがある作品だが、話が進むにつれどんどん感情移入しモヤモヤしてしまった。
自分の身だったらなどと考えさせられる舞台でした。
LALL HOSTEL
おぶちゃ
MsmileBOX 渋谷(東京都)
2024/05/15 (水) ~ 2024/05/26 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
後悔先に立たず といった句があるが、恋愛に関してお互い素直になれないために別れてしまうことがある。そんなカップルを何とか手助けして、恋を成就させたいと奮闘するゲストハウス・LALL HOSTELのオーナー筑紫健司と周りの人々。その心温まる物語だが…。
物語の展開は分かり易いが、結末が早い段階でわかってしまうので 物足りない(予定調和か)。
登場するカップルは、数年前に交際していた恋人・水瀬ひまり と 綿貫勇人。この二人が初めて旅行した思い出の宿での すれ違いや勘違いを面白可笑しく描いた青春純情物語。一方 恋愛教訓として、オーナーが別れた女性と再会した時の話がリアルでグッとくる。少しお節介のような人々、しかしコロナ禍を経て不寛容になった今、こうした人間味・人情味ある物語は好感度が高いと思う。
少しネタバレするが、物語は説明にある「同宿していた ある職業の宿泊客」の素性が肝。登場人物たちの憎めない滑稽な振る舞いや、自分に都合の良い思い込みが騒動を大きくしていく。それが観客の笑顔を誘い、いつの間にか会場全体が大きな笑いの渦に巻き込まれて、優しく温かい気持になっていく。
なお、本公演は おぶちゃ の全国行脚第一弾!すでに福岡公演が決まっているらしい。
(上演時間1時間50分 途中休憩なし)
除け者(ノケモノ)は世の毒を噛み込む。
キ上の空論
新宿シアタートップス(東京都)
2024/05/09 (木) ~ 2024/05/19 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
人生は綱渡り。常に転落の危うさを孕んでいる。その危うさの甘美なセカイを一口でも舐めてしまうと、もう戻れない。知ってしまったことを知らないことにはできない。後戻りできない人生。戻れないのだから、新たな魅力を探して、見つけた道へ、見つけられそうな方向へ向かうしかない。好転するのか、更なる転落が待っているのかはわからない。ただ、とどまることは出来ない。
それが性癖であると、日の当たる場所に晒すモノではないから、なかなかに理解されにくい。けれど、性癖に限らず、きっと誰にも多かれ少なかれ拘りみたいなものはあって、そこに生きづらさがあるのは誰もが感じているのではなかろうか。
自己肯定感が低い人間には、その闇からなかなか抜け出せない。我が子という存在には無限の愛を注ぐことができ、誰からも咎められることはない。そこに歪んだ性欲が含まれなければ。
彼が自分の分身となる子どもの誕生に感情が動かされることは理解できる。同時に反対側にいる立場の恐怖も。
改めて、何が彼の転落のスイッチを押したのかを考えている。なぜアレを跳ね除けられなかったのか、その力がありそうだった彼からそれを奪ったのは何なのかを考えている。落書きの主が誰なのかも。
一つ言えるのは、伝聞の恐ろしさ。その情報の信憑性が高くなかったとしても、その小さな棘は体内に入り込んで、心臓へと着実に上っていく。SNSはその最たる棘。
藍澤慶子さんは今作でも素敵だった。
悪魔の手毬唄
劇団ヘロヘロQカムパニー
こくみん共済 coop ホール/スペース・ゼロ(東京都)
2024/05/04 (土) ~ 2024/05/12 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2024/05/10 (金) 12:30
1977年の市川崑監督による映画以降、テレビドラマも連続(古谷金田一)・単独(古谷/片岡/稲垣/加藤金田一)合わせて5本観ていたが、今回改めて気付いたことが2つ。1つ目は「悲劇性」が前面に押し出されていること。
所謂「推理もの」は一般的に私利私欲や怨恨などが前面に出ており、本作ももちろんその要素もあるがそれよりも「不幸な偶然」「避けられない運命」的なものが強調され沙翁の四大悲劇やギリシア悲劇などと通ずる気がした。
2つめは本作の陰の主役……と言うより真の主役は磯川警部ではないか?ということ。ラストの金田一の「あの台詞」で露わになることを秘めての行動、イイよなぁ。この2点、今回の脚本・演出で改めて気付いたかも?
あと、今回観に行くキッカケの1つだった「あの場面は舞台でどう表現するのだろう?」な興味も「あぁ、そうしたのか!(得心)」だったしそれ以外も過去の再現場面の見せ方を筆頭に3つも盆を使う(なんと豪勢な!)など生の舞台での見せ方の見本市のようで大いに満足。