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ガラパコスパコス~進化してんのかしてないのか~

ガラパコスパコス~進化してんのかしてないのか~

Bunkamura

世田谷パブリックシアター(東京都)

2023/09/10 (日) ~ 2023/09/24 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

<はえぎわ>は主宰が出世してあまり観れなかった一つ(開店休業?)。10年近く前あたりに観て、次は丸の内あたりの変わった場所で観た。ノゾエ作品は下北沢でもう一つの作品との二本立てで観たが奇妙な取り合わせだった。ノゾエ演出舞台は新国立でピーターパンのスピンオフ的な翻訳劇の他どこかで見た記憶が。
という事であまり縁の濃いとは言えないはえぎわだが、当時の作品を選りすぐった俳優で上演という事で「やっぱ観ておくか」と観る事にした。のだが観ていく内に、段々と、最初に観たはえぎわ作品だと気づいた。(ピエロと老女、という梗概を読んでいても思い出さなかった。)題名は耳に覚えがあったが、これだったっけ・・。後で調べると、初演がアゴラ(2010)、再演が星のホール(2012)、前者ははえぎわ団員のみ、後者はままごとの柴幸男を俳優として迎えた異色公演、とまで見てもまだ思い出せない。間近で観た感覚があるのでアゴラか、しかし劇場の雰囲気は三鷹だったような。で柴氏の立ち姿を自分はどこかで観ており、解説には「最初で最後の出演」と、書いてあるのが本当なら星のホール。震災後だ。構成や舞台がゴチャゴチャしていて中々ついて行けないながら、老女(と言っても若い劇団員が扮した役では複雑な全体の一部としてナンチャッテな感覚で見ていた可能性あり)に拘泥する青年の姿はドラマの中心で感情の波動を送っていた。そして明瞭な記憶は最後を飾るボレロ。一曲全て使い切り、列を為したりムーブしながら「演出的に芝居を締めた」後味を残した。芝居を成立させた、「うまいな」と思ったというのがその時の観劇だった。

今回の舞台では周囲がぐるりと黒い壁で取り囲まれ、シャッターを開閉して出入りする倉庫のような箱が、唯一の人の逃げ場所になっており、一々ガラガラ、ガラガラと鳴る。序盤のうるささが後半は減り、終盤は皆出ずっぱりになり、壁際に気配をけして佇んだりして青年の空間が社会に取り囲まれて行く感じもある。訪れるべくして訪れる老女監禁(実質)生活の終結は、老女が青年の部屋からふっと居なくなる事で到来するのだが、その直前、それまでは赤子のような喚き声で青年を困らせていた老女(髙橋恵子)が、異様に覚醒した様子で静かに、ゆっくりと青年に向かって台詞を吐く。この場面を折り返し点として観客は演劇の時間・・多数の人力で動かしていた時間が下り坂を下り始めた事に気付く。
序盤で若者のコンビに騒しく喋らせていた「進化」の蘊蓄を伏線として終盤現れるのが、青年の周囲の有象無象が集団となり進化のマイムで遊ぶ風景。猿、猿人、原人、道具を持ち、やがてキーボードを打ち・・という動き。既に「ボレロ」が薄く鳴り始めており(実は一度観た芝居だとちゃんと確信したのはこの時)、スローな一歩一歩の行進が始まる。これが示唆的である。周囲が動き回る中、主人公の男は一人、打って変った様子でスーツに着替え始める。異なる空間、次元が混在する舞台の各所には、所狭しと書き加えられた二次元のチョークの文字が思考の世界へと誘う宇宙のよう。そこへ三次元の肉体が、よどみなき原始の本能か自動機械のように足を踏み鳴らしている。青年の最後の台詞は「自首する」。だが犯罪というもの全般をあるいは包摂できるのかも知れないのは、全ては必然であるという事。人は必然の導きによりその相を変えて行く。一人の中に蛇行しながらの進化があり、人類も同じくそうである。進化のマイムから行進が始まった時、私たちが来たった進化の先へと歩み出す歩みと見える。誰も知らない進化の形が待つこの先へ。価値は一つではなく、倫理とて然り。たまさか、人はその時代に生まれ、死に行く有限な存在だが、確実な事なんて何もないのに何をもって絶望できるのか、あるいは断罪できるのか・・。
部屋を出て行った老女が何事もなかったように施設に戻ったそうだ、と面倒見の良い兄が知らせて来た時、自分は「ああ。大事にならずに済んだ」と思う。だが老女が青年に引導を渡し、彼を赦したという二人の見えない関係性を他者は知り得ない。青年は社会に出て行く決意を契機に「自首」を選ぶが、それは悪事への償いであるよりは社会の門をくぐる手続きに等しい。善悪が彼岸へ退いた世界観、と言ってみると、ノゾエ氏を言い当てた言葉な気がしてくる。

オダマキとフクロウ

オダマキとフクロウ

十七戦地

東京おかっぱちゃんハウス(東京都)

2023/09/20 (水) ~ 2023/09/24 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

とても面白かったです。迫力のある濃厚な会話で役者の皆さんの演技も素晴らしかった。会場も良かったです。実際の教授のお家を覗いているようで、その世界観に入り込んでしまいました。とても有意義な時間でした。ありがとうございました。

アメリカの時計

アメリカの時計

KAAT神奈川芸術劇場

KAAT神奈川芸術劇場・大スタジオ(神奈川県)

2023/09/15 (金) ~ 2023/10/01 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

冒頭、白いスーツの語り手(河内大和)が「アメリカにとって、全国民をまきこんだ国民的体験は第一次大戦でも第二次大戦でもない。南北戦争と大恐慌だ」と語る。大恐慌直前からの、ニューヨークのある家族のおよそ5年の生活の芝居である。まさにアメリカの国民的惨事を追体験できる。

アーサー・ミラーの戯曲は、自分の青年時代の体験が反映して、さえている。息子(矢崎広)、母(シルビア・グラブ=好演)、小遣いを息子に借りる父親は中村まこと。平時はいい父親なのに、いざとなるとまるで頼りにならない好人物を自然体で演じていた。息子の学友たちも、就職も決まらず、借金がどんどん膨らんでいく。一家は場末のアパートで、借金の取り立てを恐れながら息をひそめて暮らしている。「しばらくすれば」「来年にあれば」事態は良くなると言いながら、何の打つ手もない。

ネタバレBOX

大富豪モルガン家にも自殺した青年がいたとは知らなかった。アイオワ州での農民の暴動、競売判事を脅して財産を取り戻す実力行使がすごい。息子はミシシッピー河のボートで肉体労働し、マルクス主義を正しいと考えつつ、共産党には入らない。「ストライキの労働者たち60人と話したんだ。誰も社会主義を理解していなかった。それでも革命は来ると信じられるのか?」と。アーサー・ミラーの切り取った苦い真実であろう。
いつぞやは【8月27日公演中止】

いつぞやは【8月27日公演中止】

シス・カンパニー

シアタートラム(東京都)

2023/08/26 (土) ~ 2023/10/01 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

すばらしかった。特に冒頭から、無駄の多い、たわいもない会話を「演劇」として見せる手腕がさえている。脱帽である。私は「面白かった」が、つれは「重かった」といっていた。友達が若くしてがんで余命1年という話が、作者の体験した実話に思えたらしい。導入から、作家役が客席でキャンディーを配りながら、舞台の上ってスーッと自分の話をし始める。そういう現実と地続きな演出が、実話と思わせたのだろう。そういう点でも大したものである。

Last Blue

Last Blue

伊達屋本舗

in→dependent theatre 1st(大阪府)

2023/09/08 (金) ~ 2023/09/10 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

team青 観劇
#ラスブル
初期の1mgさんを彷彿する様な感動物でした。
しっかり泣かせて貰った😭

個性的なキャラに感情移入MAX!
天界トリオのズッコケぶり、
92部隊が団結してゆく様、
そしてラスト!
無駄なシーンが1つもない、
どこを切り取っても感動しかない。
ブラボー👏👏

9

9

劇団Pinocchio

Bar Theatre Ludo(大阪府)

2023/09/08 (金) ~ 2023/09/10 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

コロナ禍、2度の延期を乗り越え、#Pino9 三度目の正直!
上演おめでとう🎉

何ともPinocchioさんらしい、アットホームでほんわか優しいSFヒーロー探偵物!
イケ(てない?)オジと助手の的を射てる様で射てない?台詞の応酬がおもしろ楽しい😆
ヒーロー界の哀愁、大好き!
前座も😍

愛があるかい?

愛があるかい?

劇団ちゃうかちゃわん

大阪市立芸術創造館(大阪府)

2023/09/09 (土) ~ 2023/09/10 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

初回観劇

宇宙人?
終末法?
ヒーロー?
時空が…
凝りに凝った設定で、とても意欲的、学外公演への意気込み感じた。
終わってみれば、なるほど面白い!
ただ若干詰め込みすぎで、設定·展開がこなれてない感じが、少し残念だが、十分楽しめた。
次回11月も楽しみ!

妄想ホテル 508・509号室「ねじれた数え歌」

妄想ホテル 508・509号室「ねじれた数え歌」

アートプロジェクト集団「鞦韆舘」

藝術工場◉カナリヤ条約(大阪府)

2023/08/31 (木) ~ 2023/09/03 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

再演千秋楽観劇

アガサ・クリスティーの名作「そして誰もいなくなった」を歌とダンスを交え、仮想空間を舞台にライトノベルチックに軽快なテンポで展開。
あっという間、ギュギュッと濃縮1時間チョイ、楽しかった。
ショーケースも👌

舞台版からくりサーカス

舞台版からくりサーカス

シアターOM

シアターOM(大阪府)

2023/09/01 (金) ~ 2023/09/04 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

楽日観劇。
からくり屋敷編、始まった!
立ちはだかるは…
煉獄の門とテオゴーチェ!

とんでもなく完売度高い人形達!
(数分の為にどれだけコストを…)
観てる方は迫力満点、楽しかった。
後編はあーなって、こーなって、楽しみしかない!

幕末コンセプト

幕末コンセプト

A級MissingLink

大阪市立芸術創造館(大阪府)

2023/09/01 (金) ~ 2023/09/03 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

町興し新撰組コンセプトカフェを舞台に、
軍事政権に苦しむ在日アラウン人と
数年前のテロを引きずる元演劇部が暗躍?!

とってもAQさんらしい幕末物!
アラウン人&演劇部内のかけひき、大人の事情、子供の事情、無茶苦茶面白かった。
楽しかった。

THE PARK

THE PARK

シイナナ

布施PEベース(大阪府)

2023/09/01 (金) ~ 2023/09/03 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

下水地下道で生活するホームレス、
眼鏡、役者、豚まん、風俗嬢…
そして落ちてきた女。

ラストの持って行き方は流石!
ただホームレス達の三人三様の話に、園児に政治、内容てんこ盛りで、何が本筋か途中迷子に…
もう少しスッキリした方が好みだが、面白かった。

いつぞやは【8月27日公演中止】

いつぞやは【8月27日公演中止】

シス・カンパニー

シアタートラム(東京都)

2023/08/26 (土) ~ 2023/10/01 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

平原テツ氏が急遽の代演だとは驚き。最初からこの人に充てて書かれた台本にしか思えなかった。余計なものを極力削った抽象画のような印象の演出。

チョークで描く夢

チョークで描く夢

TRASHMASTERS

駅前劇場(東京都)

2023/09/07 (木) ~ 2023/09/18 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2023/09/18 (月) 14:00

初日に観て、あまりにも良くて楽日に滑り込んで2度目の観劇。やはり素晴らしい。心が痛くなる部分と安らかになる部分がある。奇麗事を実行する。障がいは個性。話せば分かる。85分(11分休み)71分。
 実在するチョーク会社を舞台にした作品だが、綿密な取材を経て書かれたのがよく分かる。1幕は障害者を雇用するまで、と、雇用し始めた頃をちょっとだけ描く。昭和30年代で戦争の爪痕も残り、差別的な発言も今より多かった時代で、心が痛くなるセリフもいっぱいある。国鉄、というセリフにはチョットばかりドキッとしたが、穏やかに落ち着く展開でホッとする。これだけならば、よくある話とも言えるが、問題は2幕。現在の同社で障がい者が7割いるという現状で起こり得る健常者と障がい者のぶつかり合いを描き、ハラハラするけれども穏やかに終わる。本作がいいのは、「障がい者」と呼ばれていない人も同じ悩みを持つことを大事に扱っていることで、1幕の菅井と2幕の今岡の存在が大きい。 初日に観て、若干ぎごちないと思ってた部分がなくなり、スムーズに展開されていた。2度観て良かった。
 アフタートークで同社の社長が「奇麗事だと言うかもしれないけど、それをやるんです」と言ったとか…。なかなか言えないことだと思う。

 同劇団を初めて観たのが2003年8月の『トラッシュマストラント2003』だからもう観て20年になる。吉田羊という女優を知ったのも同劇団。最初は独特のコメディをやっていたのが、いつの頃からか社会派と呼ばれるようになった。いつもだと2つ(以上)の対立する意見を双方が述べて、白黒付けるわけでもなく終わる、という心が痛くなる舞台をすることが多い。前作『入管収容所』はその最たるモノだったが、本作では当パンで中津留も言っているが、心がホッとするような物語になっているのが何よりも良い。

HAMLET|TOILET

HAMLET|TOILET

開幕ペナントレース

こまばアゴラ劇場(東京都)

2023/09/06 (水) ~ 2023/09/17 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

同タイトルはKPRの代表作と思しいのであるが、今作は「新作」と謳ってあった。KPRは私の知ったトラム上演(客席を撤去して高いステージを組んだ大胆な演出)以降は一度下北沢の小さなハコで観たのみ。(その後一度浅草のカフェだかで翻訳物をやったのは現地へ行くも観劇能わず。)
という事で個人的にはお預け期間を経ての久々のお目見えであった。
ハムレット、トイレットのモチーフはそのままに、確かに新作と言ってよいパフォーマンスである。ギャグを重ねて「ハムレット」の(KPRなりの)要諦に迫る。排泄系の下ネタは罪がない。これを梃にハムレットを解体・構築する営みが、何を打ち出すために、何を目的に為されているのか、についてはうまく言葉に出来ない。
今思い付く言葉と言えば、これまで見た事のない新しい風景に心踊った事、役者の愚直に「事を遂行する」アスリート的エネルギーが爽快な波動を送って来る事。

オール・アバウト・Z

オール・アバウト・Z

日本大学芸術学部演劇学科 令和5年度 総合実習A1(演劇)

日本大学藝術学部 江古田校舎北棟中ホール(東京都)

2023/09/14 (木) ~ 2023/09/16 (土)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

日藝を初めて訪れる。学生演劇も(常連である桜美林鐘下Opalを除き)久々だ。本舞台は川村毅氏自身の演出による近作上演。出演者は8名。川村氏得意の?アンドロイド物、近未来(いや遠未来か)を舞台にしながら現在とどこかで錯綜するような誌的な作品であった。終盤に至る映像、ムーブ、装置移動によるダイナミックな演出は視覚から「現代を生きる私たち」を俯瞰させ、情動を呼び起こすもの。会場の拍手は熱かった。

星をかすめる風

星をかすめる風

秋田雨雀・土方与志記念 青年劇場

紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)

2023/09/08 (金) ~ 2023/09/17 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

再演。戦時中福岡で獄死した詩人・尹東柱の舞台は観ておかねば、と足を運んだ。彼を巡る逸話が多彩であった事を見ながら思い出す。話は九大医学部の人体実験にも及んで、背景にあった「戦争」が局部的な異形として徐に眼前に現れた。医学者の口から何の躊躇もなく実験を正当化する「他の多くの人間のため」との言葉が飛び出すが、マイケル・サンデルのトロッコの譬えそのものだ。
彼の詩は、取り上げられ焼かれてしまうので、刑務所内で許された凧揚げの際、詩を書いた紙を付けて糸を切る。獄外から凧を上げる「少女」(なぜかそうだと分る)の存在が彼の心の慰めであり、彼の詩を読んでくれた人である事が確信されている。医学部が来て以来、衰弱して行く尹東柱。凧揚げを許した看守長。その彼は容赦なく囚人を殴る蹴る男として憎まれる。彼が殺された場面が冒頭であり、ミステリー構造を持つ芝居でもある。そして彼のその相矛盾した行動(尹に見せた優しさと囚人への暴力)の真相も明かされる。語り部となるのは殺人事件捜査の主導を要請された新任職員。彼の目で真相を探って行く。読み物としても面白い作品。

人体実験の事は忘れていた。遠藤周作「海と毒薬」を読んだのに。。医学者の唱える「正義」に対し、「なぜその考えは否定されねばならないか」(あるいは許容されて良いのか)、戦争を経験した日本人である私らはこれに答えねばならない。

生きる

生きる

ホリプロ

新国立劇場 中劇場(東京都)

2023/09/07 (木) ~ 2023/09/24 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★


舞台の前のオケピットには14名のバンド、主要登場人物こそ絞っているがクレジット・キャストだけで29名。世界的名作映画の気合いのはいったミュージカル化の三演である。初演(18年)は見逃し、再演はコロナの真っ最中(20)で見ず、キャストも変り手も入れたという戸三演が初見である。
もともと、明るく楽しいミュージカルの王道から行けば、「生きる」は大胆な企画である。
映画が大当たりしたとしても半世紀も前、主人公は死に直面した冴えない中年男で、ラブロマンスもなく、劇は葬儀の中で進行する。ストレイトプレイがふさわしい息苦しい社会や家族環境の中で「生きる」ことの意味がテーマになっている。
あの映画「生きる」がミュージカルになるのだろうか。大詰め近くの「ゴンドラの唄」(作詞・吉井勇 作曲・中山晋平)がクライマックスになっているという音楽との親和性だけで、ミュージカル化を図るほど、東宝はお人好しではない。映画だけではないミュージカルのテーマも広がってきたことを視野に入れての、三演だろう。確かにエイズの死を生々しく描いたロックミュージカルの「レント」は日本キャストの公演だけでなく、ツアーの劇団もしばしば来日している。
昭和27年という時代設定はそのままだが、時代に合わせての脚色もある。
大きくは、主人公の「生」に立ち塞がる「お役所仕事」は後退して、「息子」の造反が大きく主人公の最期のバネになる。唯一、脚色で大きくなっているのは息子の妻だが、かえって、息子夫婦の役割がわかりにくくなった。
映画で小田切みきが好演した退職していく若い女性職員の転職動機の「退屈でつまらない」は、今風だと思うが、彼女の環境も動機にもほとんど触れていない、舞台でやれば長くなるので効果を考えて切ったのだろうが、彼女が職員にあだ名をつけていき、最期の主人公に「ミイラ」という処など、これだけでは「お役所」が解らない。惜しい。
やはり、小田切みきにおもちゃの兎を見せられて、何か作ってみては、といわれる主人公の回心が、この作品のクライマックスだろう。映画はここで誕生日祝の女学生のパーティを背景に持ってきていて(このあたりホントにうまい!)、最もミュージカルになりやすい名シーン。ヴァースもソングも目一杯(15分は無理かも知れないが10分は間違いなくいける)作れるところなのに、あっさり処理してしまっている。
「ゴンドラの唄」は原作映画のイメージシーンにもなっているが、現実には、映画の中でも最期の唄として歌われるところではほとんど聞こえない。舞台ではそれではどうにもならないので、(ここで息子を出すために息子を大きな動機になるよう持ってきたのかも知れないが、これはどうも、虻蜂取らず、という感じだった。映画のようにオケ処理のラストでも良かったのではないか。
映画は半ばで、いよいよ主人公が仕事に取り組むところで、突然、時間を飛ばして後半は主人公の葬儀に場での回想形式になる。ミュージカルは、二幕もヤクザの脅されるあたりまでも時間通りに進む設定になっている。映画と舞台の違いで、この方が舞台的と言われるとそうかも知れないとは思うが、説明的になってしまったとは思う。なくもがなのヤクザの赤線地帯開設の話や助役の芸者遊びなどは今風ではあるが、ありきたりでさしておもしろいエピソードでもなく主人公の追い詰められていく過程に効果的だったとも思えない。結局葬儀の席も使うのだから市役所職員のお役所仕事を薄くするだけでなくドラマの幅も薄くしていったと思う。
一幕二幕ともに60分、休憩25分。これでは、映画より中身は30分ほど短い。短くするよりも、もう少し内容を入れても名作を生かしたミュージカルにした方が良かった、とも思う。
と、原作が世界的な評価があるだけに注文も出てくるが、国産のミュージカルを作るからには、こういう名作で、という東宝の心意気は高く評価したい。ホリプロも経験者が多いだけに、国産ミュージカルには期するところがあるのだろう。それだけのことはあった。しかし、世界市場へ打って出るには後もう少し、練る必要があるだろう。国産ミュージカルの弱点は歌詞と音楽のミスマッチがよく言われるが、さすがに半世紀の経験を経て、この作品は作曲は外人ながらよくまとまっている。これからは日本の狭いミュージカル部落だけの人材起用でなく、優れた劇作家に積極的に脚本・歌詞を移植して、長い時間とトライアルで練っていく、という行程に参加して貰うことも、その時期にきていると思う。
俳優も、映画とは時代が違うのだから戸惑うことも多かったろうが、市村は志村とは違う主人公を見せて好演。脇も、唄も踊りもミュージカル俳優が育っていることはよくわかった。小田切を安直に黒江町の婦人会一緒にしてしまうなどという軽挙はこれからはなくなっていって欲しい。せっかくの独立の個性がなくなってしまう。



いつぞやは【8月27日公演中止】

いつぞやは【8月27日公演中止】

シス・カンパニー

シアタートラム(東京都)

2023/08/26 (土) ~ 2023/10/01 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

加藤拓也なという存在をあの時注目して良かった・・あれも観れたしこれも観れた。素直に喜んでる自分がいるのは確か。
KAAT、トラム、KAAT、トラムと観て、同じシスカンパニーの翻訳劇、芸劇のやつも観たが、トラムでの(前回と同じく平仮名だけのタイトルの)今作は、(同じく平原テツ氏が主役で同じく「病気になった人」を演じた)岸田賞受賞した「ドードー」と重なり、この作品のこの役には徐々に、徐々に見えて来たという事はあった。
「平気そうに振る舞う」様子が、前やった役(その時は統合失調症)の風情に通じ、本人もその役から離れようと意識しているように終始見えていた(観客の勝手な想像だが)。そう見えながらも芝居は目に嬉しく飲み込みやすく、見事に演じられたと言えるが、窪田正孝氏降板と当日知った(窪田氏がキャストだった事も..)事でどうしても「もしも・・だったら」は付きまとった。
さてよく作られた芝居である。ストーリーだけを取り出せばごくシンプルである。直球のメッセージを、独特な演出で抑制し、(過去作のような)淡泊さ精密さを印象づけるが、一人の人の「病~死」に直面する人間の感情は否応なくエッジが立つ。
彼らの関係性の中に作者は反目や利益相反といった複雑な要素を入れていない。演劇をやるために集まっていた仲である。どなたかが「実話という話も?」と書かれていたが、それもあり得る。死者に献げているかのような物語である。
死に直面した旧知の者との対面の仕方に戸惑う姿に、ドラマの片鱗がある。ある場面、その心情を(表情の見えない最後列からも)体全体でありありと伝えて来て唸った夏帆の存在感。また終盤、次に何を言ったかが分かる残影の鈴木杏(脚本のうまさも)。最後の日を共に送る事になったらしい鈴木からの電話を取り、むせび泣く煩い男友達(今井隆文)の嘘の無さ。

ああこれは窪田氏を想定した選曲だなと思ったのは、平原が二度歌う、たまの「今日人類が初めて...」だ。窪田氏の声が脳内に甦り、ああこのギャップ感は美味しかったろう、本人に歌わせたかっただろうなと想像された。

ジャングルジャングル9

ジャングルジャングル9

アイビス・プラネット

王子小劇場(東京都)

2023/09/20 (水) ~ 2023/09/24 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

初日に『尋問』+『異界の魚』を観てきました。
異界の魚は野口オリジナルさんの熱演が光る。
主人公のみが即興で演じる尋問は先の展開と主人公の行動が気になるお話。
初日の主人公は平山佳延さんでしたが、好演で面白かったです。

眩く眩む

眩く眩む

ムシラセ

劇場MOMO(東京都)

2023/09/06 (水) ~ 2023/09/10 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

アニメの制作現場というテーマが面白かった。登場人物の個性や関係性もわかりやすくて好みだった。

ネタバレBOX

・姫宮が神崎を糾弾する場面で、姫宮の私的な感情が前に出ている印象を受けて、観ている時は彼女に共感しにくかった。
 あとから考えて、「神崎から大河へのフィードバックが、自分の手を経由している」状況に、姫宮が追い詰められていたのだろう、と解釈した。

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