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『カミの森』『<花鳥風月>短編戯曲セレクション1・2』

『カミの森』『<花鳥風月>短編戯曲セレクション1・2』

ティーファクトリー

座・高円寺1(東京都)

2023/05/31 (水) ~ 2023/06/11 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

抽象的な世界を芝居にする面白さにかけては、この作家はなかなかうまい。アングラ時代からこの一派は腕を挙げてきて、北村想などから出発して次世代の岩松了、前川知大、新しいところでは、加藤拓也や岡田利規にまで一つの大きな流れを作っている。素材の劇的要素を考えて構成しているので破綻しにくい。
このドラマの主人公は森の中に出家してグループの指導者になっている兄(今井朋彦、ぴったし)と、そこでゾンビ映画の撮影にやってきた弟(配役表がないので不詳・これが兄と対照的でうまい)が、現代の「神」(生きていく指針)を探すという枠取りで、話の展開では映画の中の主人公の父母(この二人もうまいが不詳)のゾンビが出てきたり、殺人事件が起きたり、する。
美術が洒落ているのはいつものことだが、天井から細い電線が伸びている森の木の切り株を散らした裸舞台を森を思わせるカーテンが囲っている。
二時間ちょっとだが、冒頭の抽象論が少しダレる。もっと入っても良いと思うが、硬派に舞台が進んでいくところが若い人を遠ざけているのかも知れない。大人の客が多い。

『カミの森』『<花鳥風月>短編戯曲セレクション1・2』

『カミの森』『<花鳥風月>短編戯曲セレクション1・2』

ティーファクトリー

座・高円寺1(東京都)

2023/05/31 (水) ~ 2023/06/11 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

一度に3つの舞台が交互上演されているが、今回は2時間を超す長編『カミの森』を観た。あとの2つは短編集。

滅茶苦茶簡単に言うと「兄(今井朋彦)は新興宗教の教祖、弟(加藤虎ノ介)はゾンビ映画の監督。そういう兄弟の20年前に失われた関係の再生の物語」ということになるのだろう。「崩壊した別の家族の修復」も外せないか。

それを様々な演出技法で展開し拡大して行くのだがこちらの頭が回らない。笑いを取りに来る場面があっても一般観客はとまどうばかりでプロらしき一角で反応があるのみ。

今井さんと加藤さんの持ち味は楽しめた。

ネタバレBOX

あらすじ
舞台中央の一段高い台の上で新興宗教の教祖(今井朋彦)が拠点である森の素晴らしさを語っている。

会社を首になった中年男が家族には会社に行くと言って動物園に来ている。それにまとわりつく教団の勧誘の女性。中年男は見学に行くことになる。

森ではゾンビ映画のロケが行われている。実は監督(加藤虎ノ介)は教祖の弟で20年来音信不通であった兄をニュースで見て会いに来たのだった。

ぎこちない再会を果たした兄弟だが、なんとか信徒がエキストラとして出演する折り合いをつける。撮影が順調に進んでいたある日、若い役者が信徒の一人とトラブルになり殺してしまう。この若者、実は入信してその場にいた件の男の子供であった。男が身代わりになることで隠蔽の合意ができる。

事件後、教団は森を追われ、撮影は中止となる。やがて刑期を終えて出所する男の前には迎える家族の姿があった。教団は森から街へ活動拠点を変え、インチキ臭さを倍増してたくましく生き延びる。母の死に際して兄弟の関係が修復される。
本人たち

本人たち

小野彩加 中澤陽 スペースノットブランク

STスポット(神奈川県)

2023/03/24 (金) ~ 2023/03/31 (金)公演終了

実演鑑賞

満足度

「演劇」や「上演」、およびそれらに対する観客の一般認識を覆す(あるいは少なくとも問題化する)であろうことが期待された本作だが、残念ながら独りよがりの印象が強い作品だったと言わざるを得ない。

ネタバレBOX

本作は二部構成だったが、そのいずれもが筆者には響かなかった。というのも、ほとんど行っていることの違いがわからなかったからである。第一部「共有するビヘイビア」では俳優・古賀友樹が客席に向かって一人語りを行い、第二部「また会いましょう」では渚まな美と西井裕美がそれぞれ話しているのだが、それが会話に聞こえたり聞こえなかったりする。発話のアドレスが客席かそうでないかという違いはあるものの、どちらも観客がいなくてもあまり変わりがなさそうであるという点において演劇的な面白みを欠いていた。
いずれも、演劇的発話の特異性を炙り出せそうな可能性は感じられた。例えば、会話になりそうでならない渚と西井のやりとりは観客の想像力を刺激し、両者が街中で出会っていたりそうでなかったりする情景を想像の中で遊ぶことはできるかもしれない。しかし、そこまでの想像意欲が掻き立てられなかった。

演劇や俳優の存在、舞台上での発話行為、現代におけるリアリズムなどを遊戯している(と類推される)という点において本企画は挑戦的であり特異だと言える。その着想は評価に値するものの、その先の議論へ展開されないことにフラストレーションを感じる。演劇に対してメタシアトリカルあるいはパラフィクション的な試みは時折刺激的だが、その試みの本質すなわち問題の核が見えないことには始まらない。残念ながら筆者にはそれが伝わってこなかった。
令和5年の廃刀令

令和5年の廃刀令

Aga-risk Entertainment

としま区民センター・小ホール(東京都)

2023/05/01 (月) ~ 2023/05/02 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

テーマ設定、問題提起の手法、劇場(会場)設定および運営、劇作術等において総合的にエンタメとして高く評価できる作品である。

ネタバレBOX

討論劇は演劇史上最も古い形式の一つと言え、したがってその内容と展開には目新しさが要求される。本作は「令和の時代に帯刀があったら」というIF設定がユーモラスであり、同時にそれが現代社会を鋭く反映、批評するものであったという点において、発想力と洞察力の高さが伺える。

制作・運営の手捌きは流石と唸るものがあった。世界観を崩さないよう設定に忠実であったスタッフの存在感、滞りなく投票システムが稼働するように動いていたのも見事だった。この投票システムはやはりエンタメとして面白かったし、演劇作品および政治活動への「参加」の重要性・責任を感じさせるものとなっていたが、それによって変化を付けた結末に大きく差がないのがやや気になった(もちろん劇作上やむを得ないことではあるのでないものねだりに近いとは自覚しているが)。

また、登壇者とそれを演じる俳優のバリエーションも楽しかった。恐らく実際にこのような場になったら呼ばれるだろうと思われるような人物(例えば元議員・上林美貴や「るろうに先生」と名乗る元刀剣傷害事件の加害者・吉光裕之など)から、恐らく行政はこのような人物を呼ばないのではと思われる人物(鎖鎌を推奨するYouTuber・高橋俊輔など)まで幅広い。彼らの主張は当然予想されるものから、鋭いもの、さらには突拍子もないものまで多様であり、それらが並置されているという意味で昨今のSNSやメディア上での議論を連想させた。俳優たちの演技は、その立場の「代表」という意味でも「再現」という意味でもrepresentationとして優れており、ややステレオタイプ的ではあるものの好感を持てる人物が多かった。

他方で、社会問題を取り上げるものとしてはより掘り下げるべきだった点がいくつかあったのはもったいなかった。例えば、必然的に観客の多くはアメリカにおける銃の所持についての議論を連想すると推測されるが、そこで展開されているような議論(例えば犯罪率の高さや自衛の権利、企業と行政の癒着、自由についての議論など)はあまり出ていない。
もちろん、社会問題に対する議論への鋭い指摘も散見される。例えば、司会であるはずの宮入智子が自らの立場を捨て、当事者として被害を訴えた際に、小説家・広木由一が「当事者の言葉が非当事者よりも優位にあるわけではない」という指摘は、昨今白熱しがちなメディアでの議論に必要な冷や水であろう。ただ、エンタメ性に全体が従事しているために、もう少し踏み込むべきだった点もあっただろうと思われる。

総括すると、ユーモアとシリアスが織り込まれた優れたエンタメ作品であり高い満足度を得ることができたと言える。社会派エンタメとしては、より現実社会を反映させるスリリングさが求められるだろう。
あたらしい朝

あたらしい朝

うさぎストライプ

こまばアゴラ劇場(東京都)

2023/05/03 (水) ~ 2023/05/14 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

演劇的仕掛けとユーモアがふんだんに織り込まれた愛すべき作品である。劇作家、演出、俳優、美術等において総合的にその技術が高く評価できる。

ネタバレBOX

元ネタとなっているのは上方落語『地獄八景亡者戯』である。その残された妻の側を中心とし、彼女の複数の旅が重なって描かれている。俳優の演技力が高く、情景描写に長けているために観客も共に彼女の記憶/体験の旅に出ることができる。本作はコロナ禍に描かれたということもあり、好感が持てた。

何より本作で優れていたのは、戯曲における記憶/体験/想像のレイヤーの織り重ね方である。いないはずの夫・龍之介とユリのドライブからヒッチハイカー・山本ユカリをピックアップしてそのまま行ってしまう旅行、龍之介とユリの新婚旅行、ユリと母親の旅行が複層的・連続的に描かれると同時に、そこに龍之介の死者の旅路や彼の葬儀のシーン、死んだ母親との会話などが挟まれる。それらは想像/現実の区別が明瞭に付けられないまま、他の次元に緩やかに干渉しており、付かず離れずの距離感が心地よい。

死を描く際の軽やかさに対しても好感を持った。バランスよく散らばったコミカルなシーンのせいもあり、全体を通じてノリの軽さが特徴となっているが、それとの対比により、既に死んでいる母親と夫に対するユリの寂寞とした思いが伝わってくる。重苦しくならないからこそ、それが一層切なくもあった。

シンプルだが具体的な舞台美術・小道具と演技によって、描かれる旅は観客の想像力をともなったリアルなものとして劇場に立ち上がっていた。他のメディアではできない、演劇ならではの魅力が発揮されていたと言えるだろう。
橋の上で

橋の上で

タテヨコ企画

小劇場B1(東京都)

2023/03/08 (水) ~ 2023/03/12 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度

実際に起きた事件をモデルに取り上げ、その背景となる社会問題を炙り出す、真摯な姿勢が伺えた作品である。同時に、その挑戦の困難さが課題となってしまっていた。

ネタバレBOX

まず、実際に起きた事件を取り上げ参考資料を詳細に検証し作成するという、正面から向かい合う姿勢は真摯であったことは評価できるだろう。いじめ、DVとその連鎖、母子家庭の貧困など、現代社会において喫緊の課題となっているいくつかのテーマが複雑に絡み合っており、起きてしまった事件をその複雑な背景を含め断罪することの困難さはよく伝わってきた。

他方で、被害者の取り扱いにやや問題が見られる。シングルマザーの藤井あかりは2件の殺人事件を起こしている(とされる)。今回焦点が当てられるのは彼女の娘の殺害についてであり、その後起きた娘の同級生の殺害については、藤井の挙動不審さを際立たせるためのエピソードとしてしか取り上げられない。加害者の挙動は社会と家庭における複数の問題に根ざすものであるとする本作は、その2件目の被害者に「寄り添う」ものとなっているとは言い難い。作中で実際に、加害者擁護とならないよう、被害者のことを常に最優先で考えるよう、という指示が、主人公である記者の能瀬美音に対して言われているだけに、本作自体がそれを達成できていたかは疑問だと言わざるを得ない。もしも「橋の上で」の出来事が作品の最後で描かれるようなものであるならば、2件目の殺人はいかに解釈されるのか。その点が看過されたまま終わってしまっただけに、中途半端かつ説得力のある結論だったとは言い難い。

また、本作が演劇である必要性が今ひとつ伝わってこなかったのも残念だった。モデルとなった事件についての記事や文献等を当たってみたが、それらを読むのと本作を見るのとでは実は印象が変わらない。また、白い箱が新聞社のデスクになったり橋の欄干になったりするのは演劇的だったが、よく見る舞台装置であるし、むしろ登場人物が多いシーン(例えば冒頭の、新聞社で記者全員が議論するシーンなど)では箱が邪魔に感じられた。俳優たちの演技はリアリズムに則ったものであるため、むしろ映像向きのテーマと構成だったのではないかと思われる。

重ねて言うが、作品が事件を軽んじているわけではないし、その姿勢は終始真面目であった。俳優の演技は観客に訴えるものがあったし、だからこそ見ているのがつらいシーンもあった(DVやいじめ等についてはトリガーワーニングがあった方が良いだろう)。それだけに、本作の足りない点が目立ってしまったのがもったいなかった。
DADA

DADA

幻灯劇場

AI・HALL(兵庫県)

2023/03/03 (金) ~ 2023/03/05 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★

完成度の高い作品だった。独自の世界観が確立されており、ユニークな設定やストーリー展開はアングラ演劇とキャラメル・ボックスを足して割ったような印象を受けた。

ネタバレBOX

舞台美術、衣装、照明が美しく、劇的世界の立ち上がりに大きく貢献している。他方で、音楽それ自体は美しいのだが、俳優の歌唱力にバラつきが認められたのが惜しかった。コインロッカーベイビーが死者の成仏を行うという着想はこれまでにないユニークさがあり、会話のテンポが心地よい。ただ、物語の展開という意味ではやや凡庸であり、
他方で、コインロッカーベイビーを取り上げていながらそれはモチーフに留まっており、社会問題にまで掘り下げていない点がもったいなく感じられる。
引き結び

引き結び

ViStar PRODUCE

テアトルBONBON(東京都)

2023/05/31 (水) ~ 2023/06/04 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

かなりドタバタ感がありましたが、グッとくるイイ話でした。

フィクション・モテギモテオ 2023

フィクション・モテギモテオ 2023

ライオン・パーマ

赤坂RED/THEATER(東京都)

2023/05/31 (水) ~ 2023/06/04 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

前回公演よりもパワーアップしてますね。大いに楽しめました。

風景

風景

劇団普通

三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)

2023/06/02 (金) ~ 2023/06/11 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

避けて通れない現実の澱のようなものが無限に込められた、まさしく「風景」劇。
祖父の葬儀に親戚が集まり、それぞれの近況などを語り合う光景が淡々と紡がれ…。劇の特徴は 全編茨城弁で、必ず相づちか同意を求めるかのような その繰り返しの ゆったりとした間(ま)と 伏し目がちに遠くを見るような表情。一見 無感情・無表情のように思えるが、話の内容は結婚・出産・子育て・跡継ぎ・老後、そして老親の面倒を誰がみるか、といった暮らしに付きまとうもの(普通の「風景」)。

必ずしも欲深い、遺産相続的なものではないが 心の奥を抉るような不気味さを感じる。喪主を父か叔父、その兄弟のどちらが務めるか。結局 親の面倒を見てきた弟の叔父が務め、遺品の整理(処分)まで行う。親戚の中には、高価なモノはいらないが、せめて思い出となる形見分けはしてほしかった と呟く。

何年後かの 墓参り。喪主を務めた叔父は、親戚が参るであろう盆の日に行かない。会う気まずさより、孤独を選ぶといった頑なさ。墓参りに行かなくても、心の中では いつも思い出している、と強がりを言う。家族・親族といっても だんだんと疎遠になっていく寂しさ。何か(大きな)出来事が起きるわけでもなく、淡々と過ぎ行く日々が…。
(上演時間2時間10分 途中休憩なし)

ネタバレBOX

舞台美術は、上手に座卓、下手にテーブルと椅子、後ろに壁といった ごく普通の光景。情景に応じて壁が少し動くが、その場面に紡がれる内容と連動しているかのよう。上手と下手は場所は勿論 時の経過といった違いを表している。その切り替えは、照明の薄明・暗で巧く変化させる。

下手での風景、祖父の葬儀のために帰省している娘 由紀(安川まりサン)と両親の取り留めのない会話。母(坂倉奈津子サン)が座っている後ろを父(用松亮サン)が通ろうとするが、壁があり狭くて通れない。由紀が思わず母に椅子を動かすようにと(親近・親密さ?)。
上手の風景へ移り、祖父の葬儀に集まった親戚一同…孫(従妹同士)とその配偶者、そして喪主を務めた叔父 利夫(浅井浩介サン)とその息子 蒼太(岡部ひろきサン)を交えた近況話。壁の左右の広がり方が違い 少し歪になった感じ。

壁が全体的に後ろに動き、空間的な広がりが出来る。祖父が存命の時には集まっていた実家、しかし今では叔父 利夫の家に親戚は集まらない。蒼太が孤老の父に向って(葬儀以来)従兄姉に会っていない と零す。
会話の内容が壁の動き、その空間的な広がり(距離=疎遠)にリンクしているような、勝手に解釈しながら観る楽しさ。そして上手 下手の明暗する照明によって場所と時間が動くが、それがどこまで隔たっているのか 定かではない。

母が由紀に子を産まないのか、と やんわりと問う。由紀には由紀の考えがあり、母は娘の将来もしくは世間体を気にしているのかも知れない。先々 1人は寂しいといった台詞が独居老人を連想させ、もっと卑近には少子化といった問題が見え隠れする。その母娘の微妙な、そして気まずい緊張感が漂ってくる。茨城弁だが、全国のどこにでもあるような、<風景>が浮き上がってくる。

由紀が祖父とだけ共有した思い出…祖父の兄夫婦には子がいなかった、そして「ピアノの手だね」には、子がいない淋しさ、弟(祖父)の孫娘への優しい言葉掛けのように聞こえるのだが…。淡々とした語りの中に 滋味溢れるような感情。長年寄り添った夫婦ー父と母のそれぞれの「余計なことを…」と言った とぼけた会話の絶妙〈珍妙〉さが笑いを誘う。そして兄 広也(岩瀬亮サン)や由紀との親子会話が実にリアルで〈日常風景〉そのものだ。
次回公演も楽しみにしております。
風景

風景

劇団普通

三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)

2023/06/02 (金) ~ 2023/06/11 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

ネタバレ

ネタバレBOX

劇団普通の『風景』を観劇。

あらすじ:
茨城県のとある場所でお通夜の後、通夜振る舞いに集まっている親戚一同。久しぶりの再会ながら、跡取り問題、近況など話している内に、互いの家族間の在り方が少しづつ見えて始めてくるのだが….。

感想:
葬式を舞台にした映画や演劇は沢山あり、描かれる家族、親戚関係のもやもやをおもしろおかしく描いている作品は多数だが、今作もその辺りに行き着いている。ただ誰もが本音を漏らさず、同じ様な内容の会話が淡々と続いているからか、触れたくない、聞きたくない、見たくない物がちらほらと感じ取れてしまう生々しさがある。
結婚、出産、子育て、親の世話、跡取りと世代によって立場は違えども、観劇中にぞっとしてしまうのは間違いない。直接的に描いてないだけ余計に目を背けたくなってしまう。
その先に行き着くのは何なのだろうか?
暗示的な答えを出しているラストは見逃せない。

毎作後、ひんやりとした気分で劇場を後にさせてくれる劇団なのである。
Lost in the pages

Lost in the pages

DAZZLE

ABAB UENO 2階(東京都台東区上野4丁目8−4/上野徒歩5分 上野広小路徒歩2分)(東京都)

2023/04/28 (金) ~ 2024/06/30 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

DAZZLE二作目の常設のイマーシブシアター。

上野という場所に相応しい文豪、文学をテーマに様々な作品を再構築して、鮮やかに物語をダンスで綴っていく。

魅力的なキャラクターと、文豪が筆を取っていた当時の香りのする物語、そして唯一無二の美しく魅力的なダンス。

会場の内装も素敵で非日常感を味わえます。ぜひ暗色のドレスコードでおめかしして参加してみて下さい。(自分のテンションが上がるため)

願わくば多くの方に、この作品に気付いて貰えますように。

個人的には、会場の狭さから別のシーンの台詞が聞こえてしまい脳が情報を拾って混乱してしまうので、音響の調節を見直して頂ければ嬉しいです。
(そこが★マイナスの理由です)

それから内容的にやや刺激的な部分もあるので、お子様にはちょっとオススメしづらいです。笑

フィクション・モテギモテオ 2023

フィクション・モテギモテオ 2023

ライオン・パーマ

赤坂RED/THEATER(東京都)

2023/05/31 (水) ~ 2023/06/04 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

2023年のモテギモテオは進化し過ぎだ。
男たちの欲望を晒し、現実と擬似の境界線を取り払う。その答えが明らかになっても。
システムを得意とするのが劇団ライオンパーマだ。やはり良さは活かされている。例えば、「レンタルビデオショップ」というシステムを逆手にとり笑いに変える。見ず知らずの大人がシステムで仲良くなったり、または喧嘩する。
本作は人生最高のモテ期を体験できるというシステムを作り上げた。それは架空であり、そこに実在していたのだ。

初演に続く観劇でも、ふと思う。「破滅とは何か?」

あげとーふ

あげとーふ

無名劇団

無名劇団アトリエ(大阪府)

2023/03/17 (金) ~ 2023/03/21 (火)公演終了

映像鑑賞

満足度★★★★

※この度は一身上の都合により、審査員として現地にて鑑賞することができず、代理人を立てての審査とさせていただきました。推薦文を書かせていただいていながら大変申し訳ありません。上演ではなく映像の鑑賞なので、審査員としてではなく一観客としてのクチコミ投稿とさせていただきます。

ネタバレBOX

青春ロードムービー的手触りのある『あげとーふ』は、カンパニーの母体である高校演劇部の全国大会準優勝作の15年ぶりのリメイク。一つの転機となった作品が今だからこその形で新生することに上演前から期待が高まりました。
また、大阪・西成区の鶴見橋商店街の空き店舗を改装した劇場空間兼アトリエで演劇活動を行うといった「演劇と地域の接続と共存」にも興味を惹かれました。
そしてそんな地域密着型演劇の実態は映像からも具に感じ取ることができ、客席からの反応の高さや、さらには建物の扉の向こう、すなわち商店街から公演の様子を覗きにくる住人の方の姿も見受けられ、それを受けて制作の方が観客に向けて「暮らし」の一部としての演劇を語られるコミュニケーションの様子にも親しみやすさが滲んでいるように感じました。団体が地域を愛し、そして愛されていることがさりげなくも確かに伝わってきたことに胸を打たれました。そんな景色もカンパニーの日々の熱意や意欲、継続の賜物だと感じます。

『あげとーふ』は、卒業旅行でアメリカを訪れた男子高校生が見知らぬ土地で「あげとーふ」=I get offと言ってしまったことからバスを降ろされ路頭に迷う、というアクシデントから物語が展開します。分かりやすくハイテンポに進行する物語と、非日常に戸惑い、不安を誤魔化すようにはしゃぐ高校生らを演じた俳優の身体性や台詞の応酬の瑞々しさがある種の親和性を築き、観客の没入感をしっかりと手伝っていたように感じます。モラトリアムの始まりに揺れる若き青年らの心の機微を余分な演出を削ぎ落とし、ストレートに伝える潔さがまた作品の魅力を高めていたように思います。
直接訪れていないのでこれは想像の域を越えませんが、アトリエの異様に濃密な空間もまた、目の前で繰り広げられる青春の濃度とシンクロし、興奮や喜びや不安や焦燥などが入り乱れる心を寄せ合うようにして過ごす思春期の青年たちの姿により一層の一体感を生み出していたのではないでしょうか。

特殊な環境で演劇活動を行う中では、時には「ここではそれはできない」といったあらゆる制約にぶつかることもあるのではないかと想像します。しかし、本作は「ここだからこれができる」ひいては「これはここでしかできない」という果敢な方向に舵を切り、この場で上演されるに相応しい作品を選び、その魅力を存分に発揮する形で全うされたのではないかと感じました。そして、やはりそんな商店街の空気やアトリエの温度を直に体感しながら観たかったと悔やまれました。少なくともそれだけのことが伝わる映像であったと思います。

演劇の裾野を広げること、劇場の敷居を下げること。舞台芸術全般のアクセシビリティ向上は舞台芸術従事者のみでは決して成り立ちません。外からお客さんを誘うこと、理解を得ること。地域に根差し、影響し合って共生すること。社会の一部としての演劇を見据えるそんな無名劇団の取り組みが映像からも感じ取れる公演でした。一人の観客としても、演劇業界に携わるライターとしてもその姿勢に敬意を寄せるとともに、今後のさらなる発展を楽しみにしています。
本人たち

本人たち

小野彩加 中澤陽 スペースノットブランク

STスポット(神奈川県)

2023/03/24 (金) ~ 2023/03/31 (金)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

物語と言葉、言葉と演劇、演劇と空間、空間と観客……舞台芸術というパフォーマンスにおける関係性/コミュニケーションというものに着目し、「既存」や「従来」への疑いを持ち、ここまでの分析・探究を行なっているカンパニーが他にあるだろうか。

ネタバレBOX

芸術や表現以前の「行為」としての演劇をあらゆる観点から解体・縫合し、そこに生じる関係性を剥き身の状態まで露呈させる。そんな試みを創作として行っている小野彩加 中澤陽 スペースノットブランクが「コロナ禍の時代の上演」を前提として2020年に立ち上げた『本人たち』プロジェクト。その待望の上演が本作『本人たち』です。
正直なところ、それらの全く新しく、高度で、複雑な取り組みの様子を見るにつけては「果たして私の理解力は追いつけるだろうか」「観る側にも相当な素養が必要なのではないか」といったある種の緊張があり、実際に観終えた今もカンパニーが提示したものや手渡そうとしていたことをどれだけ自分が受け取れたかは分かりません。しかしながら劇場を出た後もいついつまでも理解を探ってしまうようなこの体感こそが本作において結ばれた私と作品との関係性だったのかもしれないとも感じています。そして、そんな観客の行為もまた「観劇」というよりは「観測」に近い趣があり、俳優の身体や声を通して、自分と彼や彼女との関係性とは果たしてなんぞやということを握らされたような気がしています。

物語も言葉も演劇も空間も観客も当然のようにそこに在り、当然のように繋がれていくものだというような、ある種の前提の上で多くの演劇が公演を行なっているけれど、それらを諸共覆すような手つきで進められた『本人たち』というパフォーマンスを通して、私はともすれば当然とされるものに追従していただけだったのではないか、そこにどんな関係性が在ったのだろうか、もう一歩その関係性を見つめることができていたならばこれまで観た他の演劇からも別の何かを受け取っていたかもしれない、という体感を手にした心持ちもありました。そして、そのことによって、スペースノットブランクが分析・探求しているのは「ディスコミュニケーション」を含む関係性/コミュニケーションであるということに遅ればせながら気付きました。

第一部「共有するビヘイビア」(出演:古賀友樹 メタ出演:鈴鹿通儀)、第二部「また会いましょう」(出演:渚まな美、西井裕美 メタ出演:近藤千紘)の二部からなる『本人たち』でしたが、第一部では前説と開演がシームレスに接着しており、俳優という存在をよりフラットに観測することが叶ったのではないかと思っています。なにしろ観客からの視聴率100%を背負った俳優・古賀友樹さんの舞台での居方や身体性が素晴らしく、その技を堪能するといった点でも豊かな体験でした。
一方で、二部で舞台上の俳優が二人になった途端に観測がより複雑になり、理解は難しくなり、その反応や関係に興味深さを感じるとともに、やはり体感の言語化に辿りはつけず、もう少し理解したかったという心残りもありました。もう少し踏み込んで言うと、行なっていることがかなり高度であるが故に、自分の理解が追いついてないのか、差し出されているものに不足があるのかが分からなくなってしまうところもありました。おそらくは前者だと思いつつ、この点においては繰り返しスペースノットブランクの公演に足を運ぶことで理解が追いつき、少しのタイムラグの後新たに得る実感があるのかもしれないという期待もあります。

実験的な試みに溢れるスペースノットブランクですが、そのトライは公演前後にも其処彼処で観測することができました。「本人たちを見た本人たちによる本人たちのレビュー」と銘打ち、肩書き問わず書き手を公募していたこと、そして上演後に合計7本のレビューが公開されていたことには「公演が終わってもなお探求は続く」というカンパニーのあくなき探究心を感じるとともに、観た人にとってもまた理解や再発見の手助けになるような良企画だと感じました。今後も目を開かれる思いのする、どこもやっていない新たな試みに期待を寄せています。
半魚人たちの戯れ

半魚人たちの戯れ

ダダ・センプチータ

王子小劇場(東京都)

2023/04/13 (木) ~ 2023/04/16 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度

実は当該団体のコンセプトを読み、「不条理の笑い」という言葉に惹かれて期待していたのだが、非常に残念ながらあまり笑えなかったというのが正直な感想である。

ネタバレBOX

災害や死というテーマが作品の転換点に据えられているせいもあるだろう。類似のテーマで突き抜けた不条理的笑いを提供できている作品が(当該団体自身がその名を挙げている別役実を筆頭に)演劇史上に既に存在しているため、新たなアプローチが期待されたが、残念ながら斬新さも馴染み深さもなく、驚きと共感において中途半端になってしまっていたと言わざるを得ない。テーマと手法に対してやや雑な印象を持ってしまった。
また、俳優の演技にばらつきがあることも気になった。演技の質に統一感がなく、しかもそのばらつきに何か意味があるわけではなさそうなので、せめて声の大きさなど基本的な点においてはもう少し揃えられた方が良かったのではないだろうか。
脱力感の伴うやり取りや、詩情に躊躇いを感じる台詞などは特徴的であり、確かに笑いどころと思われる部分は散見されたが、今ひとつ笑うことができなかったのが悔しかった。
きく

きく

エンニュイ

SCOOL(東京都)

2023/03/24 (金) ~ 2023/03/26 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★

「きく」ことを複数の切り口で描く意欲作である。メディアが発達した現代において、真に「きく」とはどういうことかを考えさせられた。

ネタバレBOX

全体を通じるコンセプトが冒頭から明示されてしまっているが故に、「きく」ことに対する掘り下げが今ひとつ甘く感じられる。多くの「きく」にまつわるシークエンスが展開され、「きく」を遊戯し、観客にとっても「きく」とは何かを一緒に考えるように誘うが、それに留まるのがもったいないと同時にやや押し付けがましくも感じられる。
最終的に「きくとは何か?」を問う段階で終わってしまい、それを問うこと自体についての意義や批評的考察は作中にも見出すことができず、また同時に観客の側に喚起もされない。提起されている問いが現代において重要だと日々実感しているからこそ、その問いについての新たな何か(意義や考察、切り口など)が欲しかった。

全体として困難な作品になってしまっていたが、それでもあまり退屈せずに見ていられたのは、シークエンスの展開の速さと散見されたユーモアが刺激となっていたからだろう。俳優のシークエンスごとの切り替えの速さと、それぞれで独特の存在感はそれに大きく寄与していた。今後の作品ではそれらをより生かすことが期待される。
中之島春の文化祭2023

中之島春の文化祭2023

ABCホールプロデュース公演

ABCホール (大阪府)

2023/05/05 (金) ~ 2023/05/06 (土)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

Cブロック観劇。
どの演目も粒揃いで楽しめたブロック。

■N-Trance Fish:
前回公演でも拝見したが…
キリシタンは何度観ても面白っ!

■十三クラブ:
久しぶりの十三クラブさん。
イモムシあるある?
本公演も早く観たい!

■カヨコの大発明:
呪い? N··f··xの罠? 全てがエンタメで最高!

■匿名劇壇:
架空登場人物が多っ!
新しいメタ構造か?
面白っ!

■オパンポン創造社:
ハッピーエンド、この演目、何度観ても愉しい!

中之島春の文化祭2023

中之島春の文化祭2023

ABCホールプロデュース公演

ABCホール (大阪府)

2023/05/05 (金) ~ 2023/05/06 (土)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

Bブロック観劇。
多種多様な面白さが楽しめたブロック。

■春野恵子(浪曲):
ABC Hall物語、小劇場ネタ楽し!

■劇団SE・TSU・NA:
イタコの血筋、除霊済Tシャツ、母の愛、胸熱!

■ミクロムス:
ヨコワの刺身、食べたくなる歌!

■ばぶれるりぐる:
逃げられたor逃げられる鷹匠? とても微笑まし!

■無名劇団:
今回はドタバタコメディでした。
コインランドリで一喜一憂、愉し!

少女仮面

少女仮面

ゲッコーパレード

OFF OFFシアター(東京都)

2023/03/16 (木) ~ 2023/03/19 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★

まず、唐十郎の戯曲作品を取り上げるという挑戦的な姿勢を評価したい。アングラの強烈な身体性と世界観に引きずられないようにしながら、自分たちの作品を構築するのは非常に困難であることがあらかじめ容易に推測される。それでもそれに挑戦するというのは、彼の作品の今後の展開を考える上でも重要な姿勢である。

ネタバレBOX

他方で、結果としてやはり困難な挑戦だったと言わざるを得ない。独特の劇場空間は戯曲の世界観と一致しており、存在感と異物感の強いクセが魅力となっている俳優たちが果敢に挑戦していたが、ゲッコーパレードの独自性が十分に発揮できていたとはいまひとつ言えないだろう。
劇場空間の活かし方にも課題が見られた。そこが地下トンネルには見えても、観客がひしめく華やかな劇場の舞台や満州の病院が浮かんで来ない。身体の動きに窮屈さが感じられた。
だが、課題が明白であるだけに次回以降には期待が持てる。「劇場」シリーズは始まったばかりということなので、今後の活動も注目したい。

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