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光射ス森

光射ス森

演劇集団円

シアターX(東京都)

2020/12/19 (土) ~ 2020/12/27 (日)公演終了

満足度★★★★

円も久々にして4度目くらい。実は内藤裕子作の舞台を見そびれて今回やっと初お目見え。題材と誠実に向き合い、テーマを見透した作劇は予想と随分違った。オーソドックスだが芯の通った人間ドラマであった。
林業を実際に営む家族を登場人物にした舞台としても特記すべきではないか。場所と時期が異なる二家族が同じ舞台装置で交互に登場、ある女性だけ両方に登場し、物語も繋がっている。二家族は家風はもちろん林業経営のスタンスや状況も異なり、2ケースを描く事で林業が抱える事情を立体化する事にも成功している。

幕開き、「奥居林業」の自宅兼事務所では未だ現役の祖父・正利、社長であるその息子・恒利(妻とは死別)が、居間で雑談している。話題は跡取りの孫息子・和利と、その少し年上で仕事熱心な女性従業員ユリさんについて(二人はお似合いではないか、いや孫息子より優秀だからダメだ、等)、また新任の女性従業員・河野はこの仕事が続くかどうか・・など。そこへお茶を運ぶ社長の娘(和利の妹)奥居智子は母代りに主婦を務め、正利や恒利のあしらいも板についている。
二家族を跨ぐ従業員・沢村由里子は「学ぶ」姿勢に悲壮感とも言える切実さがあり、何かの事情を匂わせるが、彼女の存在が和利には刺激になり良い影響をもたらしている、といった様子。やがて和利が新人河野と戻り、山の早い夜のとばりの中で皆一日の仕事を終えた安堵に包まれる。
暗転を挟むと、別の家族・沢村家になっている。ここでは一場で熱心な従業員だった由里子が、家業である林業の跡継ぎ候補(由里子の目論見)として婿入りを承諾した直樹と、結婚生活を送り、息子も居て将来は「木こりになりたい」と言っていると喜んでいる。同居人には妹江里子、母里子、そして父民雄がいる。江里子には、林業の組合に勤める恋人・祐二がおり、苗植えの手伝いをして父と顔を繋ごうとその朝やって来た。江里子の言いなり感満載だが、喜劇調の場面から次のこの沢村家の場面では一転、「家族の事情」のリアルな空気が漂う。
まず家業に入れ込んでいる婿の直樹が、今勤めている安定した職を辞め家業(林業)に専念したいと考えていた所、ついに先方に辞表を出したと妻由里子に語る。ところがその会話中、居間に入って来て言葉尻を聞いた父から「仕事がどうした」と問われ、なし崩しに話をする事になる。寡黙な父は一旦部屋を出て行くが、折しも、前場面で父に「伝え」そこねた祐二が「今日こそきちんと父に伝えて」と江里子に含められ(玄関外でどうやらそう言われたらしい)、部屋を出た父を追って行こうとするも「今はダメ!一番ダメ」と引き留められるくだりがある。
その前の奥居林業の場面では、由里子がなぜ家族を離れて奥居家に出入りしているのか、について「10年前家族が災害に遭った」との情報だけさらっと挿入されている。それを受けての先の沢村家の場面である。
居間に戻って来た父の寡黙ゆえに「判りづらい」感情が、表出する。まず婿の申し出を受け入れる表明があり、そして姉妹の幼い頃の父の思い出話から明かされた、詩などが色々書かれた父の手帳の事や、幼い頃よく絵本や詩を読んでもらったという話を受けて、祝いの酒に酔った父が宮沢賢治を朗誦する。由里子と婿、妹、父の四人の美しい場面だが、その少し前、父がただ自分の机の前の椅子に座り、茶碗に酒を注ぐしぐさの中に嬉しさが滲み出るシーンがあって、観客もこの父のいかつい顔から人間味がこぼれ出るのを見る。
山奥の生活の静けさの中に美しく映える小さな幸せの図だ(宮沢賢治の全文朗読は少々長かったが)。

林業行政の政策の問題点も語られ、皆伐と言って山のある斜面の樹木を全て伐るよう行政が指導する(それにしか補助金が出ない)が、山の土砂崩れ等の原因を作っているとも言われ、奥居家では計画的に木を伐り、苗を植える「森を育てる」林業を行っている。対して沢村家は皆伐の指導に従っていたが、10年前由里子は、土砂崩れで父と母、夫、息子、妹を失っていたのだった。
劇の終盤、妹の恋人だった祐二が由里子を探し当てて訪ねて来る。由里子は父が守った山を自分が支えるつもりで林業を学んでいたが、彼は山林の所有者が由里子になっている事を伝え、その処分についての判断を訊きに来たのだ。彼は補助金の書類作りばかりやっていた組合を考えあって辞し、山林を育てる事業に関わる仕事に今は就いているという。そして由里子に山を手放さず山を育てて欲しいと思いを伝える。
由里子は自分が山林の名義人になっていた事実を知らされた事で、ようやく自分が家族を失った事を生々しく実感する。山林は元来男が代々受け継いで行くもの。女である自分はそれに立ち会うだけの存在だったはずであるのに、自分の手元に権利書がある。由里子は災害後、初めて泣く。

作者は精力的な活動を行なう当事者に取材され、その志を反映した物語を書いたと思う。だが現実には林業の家族経営は立ち行かず、殺伐とした厳しい状況があるのではないか。
第一次産業までが国が守る必須項目から外され、大資本に売り渡されようとしている時、都市生活者の私はこれを批判しながら当事者の事を何も知らず、この芝居のリアリティについて何も言えない。
ただ「百年先のために木を植える」を比喩でなくやっている人がいる、という事実は、客観的には美談、しかし自分の事として想像すると、正直重く、苦く、飲み込みづらい。でもこの芝居は飲めた。ど素人には程よく分かりよく新鮮な舞台であった。芝居は娯楽に違いないが、単なる娯楽で通過すまじ。(真面目なアンケートのような感想になった。)

ネタバレBOX

一つ、円観劇の毎度の素朴な感想のように思うが(前回観た非言語表現に挑戦した舞台を除いて)、円俳優全員とは言わないが形の演技、従って雑に見える演技が多い、というのは率直な印象。「役に入ってない」のか「入る事など出来ない」と達観してるのか、でもそれなら何を目指して演じてるんだろう、とか。。過去観た2本と今回を合わせての若干の印象であるが。
もっとも今回は戯曲の明快さに導かれ、「芝居にとっての支障」は最終的には無かった。
(先日俳優座劇場「嘘」に出ていた円俳優・井上氏もやはり形の演技と言え、しかし芝居を成功に導いており、劇団の流儀について素朴に気になっている。)
死ヌ事典

死ヌ事典

壱人前企画

ザ・ポケット(東京都)

2020/11/10 (火) ~ 2020/11/15 (日)公演終了

満足度★★★★★

死について生きるということについて深く考えさせられる舞台でした。
重い内容でしたがオムニバスなので1話1話がみやすかったです。

「あれは確か、いつもより少し澄んだ空だった。」

「あれは確か、いつもより少し澄んだ空だった。」

劇団前方公演墳

駅前劇場(東京都)

2020/01/16 (木) ~ 2020/01/19 (日)公演終了

満足度★★★★

夜空天の川を見上げる事はあっても、日中はね…でも恐らく今回の作品では日中だったんだろうね。彼女、夜が好きじゃない気がするから…

ともかく、デビさんの作品力と実現させたキャストの皆さんに 拍手拍手拍手拍手
#劇団前方公演墳
#あれ空

死ヌ事典

死ヌ事典

壱人前企画

ザ・ポケット(東京都)

2020/11/10 (火) ~ 2020/11/15 (日)公演終了

満足度★★★★★

壱人前企画さんはハートフルコメディ作品が多く明るく楽しいイメージが強いですが、今回は5作品オムニバス形式で様々な「死ぬという事」についてのシリアスなお話で今までとはまた違う雰囲気でとても面白かったです。
今後もどんな舞台をされるのか、楽しみにしつつ応援したいと思います。

ぬれぎぬ

ぬれぎぬ

げきだんかえる

イカロスの森(兵庫県)

2020/11/14 (土) ~ 2020/11/15 (日)公演終了

満足度★★★★★

犯罪 冤罪 身代わり 倫理 自由 法律の罪と倫理としての罪 考えさせられます。
入り込んだ演技で引き込まれた。

最終電車極楽橋往

最終電車極楽橋往

MEHEM

in→dependent theatre 1st(大阪府)

2020/10/16 (金) ~ 2020/10/18 (日)公演終了

とても良い作品でした。
物語 キャスティング 舞台セット 照明 音響 演技
真綿で優しくゆっくりと、締め上げられる感じ、観劇では初めての感覚、
この感じ 小川洋子『薬指の標本』を思い出しました。
こんな お芝居が観れるから 観劇がやめられないんですよ。

世別レ心中

世別レ心中

ハコボレ

王子小劇場(東京都)

2020/12/26 (土) ~ 2020/12/27 (日)公演終了

満足度★★★★★

 落語の「鰍沢」をベースにした作品で2部構成になっている。

ネタバレBOX

1部は、落研の落語「鰍沢」であるが、これがかなり上手い。2部が劇団が落語を基に制作した作品で話の内容も人間のようには言葉を用いない獣の純粋性が実に無駄なくピュアな精神に相応しい形で描かれており、エコロジーの極致ともいえるこれらの心象の高さ、清らかさ、悲痛等が直に魂に訴え、力を発揮してくる秀作だ。
老いは煙の森を駆ける

老いは煙の森を駆ける

女の子には内緒

こまばアゴラ劇場(東京都)

2020/12/28 (月) ~ 2021/01/06 (水)公演終了

満足度★★★

少なくとも、年納めに観る作品としては物足りませんでした。

ネタバレBOX

世代が代わっても大して変わりはないという話。

猟師や自然を表現したようなケモノ様が出ていましたが、中身は何もありませんでした。

大事な言葉は向こうを向いてしゃべっていて聞こえないし、意味不明でした。
“真”悲劇の生物兵器2367号

“真”悲劇の生物兵器2367号

空想実現集団TOY'sBOX

北池袋 新生館シアター(東京都)

2020/12/23 (水) ~ 2020/12/27 (日)公演終了

満足度★★★

 時代なのだろう。

ネタバレBOX

今日本には、冒険や危険任務以外命懸けで事に当たる事例は殆ど無い。逆にそのような事に面と向き合っている少数者はマスゴミ排除の対象でしかない。今作の劇作家も本当に書かねばならぬことを持たない作家の1人であることは、作中人物の表現に良く表れている。一流紙・誌に書いているという設定のライターも設定と実際に書かれている台詞の内容が全く一致しないからリアリティーが無い。主役級がこれであるから作品そのものにガタが来る。笑いを獲りにくる為に作中人物達が勘違いできるような台詞が中盤以降特に多用される。このような台詞を書く為の手間や払った労力は評価するが、登場人物達のキャラ設定と設定と台詞のギャップから生じるリアリティーの無さは、観客を白けさせるに充分だ。もうちっと人間という者の観察と深読みを望む。

老いは煙の森を駆ける

老いは煙の森を駆ける

女の子には内緒

こまばアゴラ劇場(東京都)

2020/12/28 (月) ~ 2021/01/06 (水)公演終了

満足度★★★

鑑賞日2020/12/28 (月) 18:00

初見のユニットだが、本作後にユニット名を変えると言う。抽象的な作品だった。
 謎の力を持った生き物・ケモノ(高山玲子)に息子を殺された漁師(洪雄大)が追い続ける40年に、地球の自転に動かされているナキアミ(渡邊まな実)が絡み、3人の独白で展開される。感触の芝居だが私のテイストではないなぁ。

世別レ心中

世別レ心中

ハコボレ

王子小劇場(東京都)

2020/12/26 (土) ~ 2020/12/27 (日)公演終了

満足度★★★

鑑賞日2020/12/27 (日) 14:00

初見のユニットで、関西を中心に活動しているらしいが、見応えはあった。
 落語を一席やった後で、関連する一人芝居をするというスタイルらしい。演目は「鰍沢」だが、前半の落語は安定した上演で一定のレベルを保つ。後半の演劇は、鰍沢の物語をノケモノの観点から描いたものだが創作として面白味があり、一人語りで演じる演じ方は、落語と言うより講談の手法に近いと感じた。いくらか中途半端な印象が残る。

今はやることじゃない

今はやることじゃない

箱庭円舞曲

駅前劇場(東京都)

2020/12/24 (木) ~ 2020/12/30 (水)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2020/12/26 (土) 19:30

箱庭2年ぶりの公演は劇団員だけの公演だが、箱庭らしい巧妙な会話劇だった。
 とあるラーメン屋を舞台に、店主(林和義)・その娘(白瀬未生)・常連客(鈴木ハルニ)・卸商の社員(依乃王里)・地上不動産会社の社員(嶋村亜華里)らが、店の興亡に関していろいろと話す。微妙なタイミングで時間軸が動いたり、ダブル・ミーニング的な話法は古川らしい作りで、劇団員も充分に理解して演じていると思った。タイトルが意外に活きていなかったのが残念。

鶴かもしれない2020

鶴かもしれない2020

EPOCH MAN〈エポックマン〉

駅前劇場(東京都)

2020/01/09 (木) ~ 2020/01/13 (月)公演終了

満足度★★★★

おとぎ話をベースにした恋物語を三台のラジカセと共に演じるひとり芝居で、再々演とのことだけれど、自分としては初めて拝見した。
二面舞台とアシンメトリーな髪型で男女を演じ分ける瞬発力。張り詰めた緊張感と楽しさ。恋することの煌めきと切なさ。喜びも哀しみも溢れ出すような生き生きとした表情。
作・演出・美術・出演とひとりで何役もこなすそのエネルギーの多才さとそれぞれのクォリティ、そして何よりそのチャーミングさに魅了された。

ミュージカル「空! 空!! 空!!!」【4月11日〜6月5日 公演中止】

ミュージカル「空! 空!! 空!!!」【4月11日〜6月5日 公演中止】

わらび座

わらび劇場(秋田県)

2020/06/06 (土) ~ 2021/01/03 (日)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2020/07/25 (土) 10:30

女性飛行士の草分けとなった及位ヤエの若き日の情熱と奮闘を描いた約110分のミュージカル。主人公を演じる川井田さんの熱量が、さまざまな困難に体当たりでぶつかっていくヤエの姿に重なる。架空の人物と思われる航平の個性的な人物像が物語にメリハリを加えた。脇を固めるベテランの説得力、多くの役を演じ分ける若手の存在感、希望を感じさせる美しい美術や工夫を凝らされた小道具、場面を成立させる照明や音響、困難な状況下で公演を支える劇場スタッフ。それぞれのご尽力で創り上げられた夢を追う人の物語が胸に沁みた。

松浦武四郎~カイ・大地との約束

松浦武四郎~カイ・大地との約束

わらび座

東ソーアリーナ&遅筆堂文庫(山形県)

2020/08/22 (土) ~ 2020/08/22 (土)公演終了

満足度★★★★★

蝦夷地を旅して多くの記録を残し「北海道」の名付け親となった幕末の探検家 松浦武四郎を描いたミュージカル。少人数のキャストで武四郎の見たアイヌと和人の関係や課題を多くのエピソードで綴っていく。自らの無力さを感じながらも書き続けた武四郎の情熱と誠意が胸を打った。

10knocks~その扉を叩き続けろ~

10knocks~その扉を叩き続けろ~

劇団扉座

紀伊國屋ホール(東京都)

2020/12/05 (土) ~ 2020/12/13 (日)公演終了

満足度★★★★★

10作品日替りリーディングのうち4作品を拝見。毎日が初日で千秋楽。公演が始まってから、ようやくこれがどんなに大変なことかわかったような気がした。単に台本を持ち替えれば済むという内容じゃない。朗読という枠組に留まらない多彩な演出で、劇団員やゆかりのゲストが入れ替り立ち替り濃密な芝居を繰り広げる。ことに脚本の良さが際立ち、物語の面白さを存分に味わえた。

リボンの騎士2020~県立鷲尾高校演劇部奮闘記~ ベテラン版 with コロナ トライアル

リボンの騎士2020~県立鷲尾高校演劇部奮闘記~ ベテラン版 with コロナ トライアル

劇団扉座

すみだパークシアター倉(東京都)

2020/10/10 (土) ~ 2020/10/18 (日)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2020/10/11 (日) 14:00

泣いた。もう何度も観て展開も台詞もほとんど覚えているのに。今回の上演は、青春への応援歌というより何かを創ろうとする人すべてへのエールのように感じられた。
ダブルキャストによる演出の変化なども面白かったが、何よりけだまや中島をはじめとするキャスト陣の演技が生き生きと魅力的で、物語の持つチカラを再確認させてくれた。楽しかった。

ジパング青春記 ー慶長遣欧使節団出帆ー

ジパング青春記 ー慶長遣欧使節団出帆ー

わらび座

男鹿市民文化会館(秋田県)

2020/09/27 (日) ~ 2020/09/27 (日)公演終了

満足度★★★★★

伊達政宗の黒船建造は慶長の大地震からの復興施策だったのではないか、という説をベースに、家族を失った若者の魂の再生を描くミュージカル。
何度も観ている作品なのに、人々の想いがこれまで以上にくっきりと立ち上がり、場面場面で涙腺を刺激した。ことに強い感情を歌で表現する部分で、音楽の持つエネルギーを感じた。
多くの情報と出来事をテンポよく配し、物語としての完成度とメッセージ性が同居する魅力的な戯曲、キャラクターの魅力と印象的な数々のセリフ、楽曲のクォリティ、劇団が得意とする民謡民舞の活用、そして、それらを活かすキャストとスタッフの力。遠征した甲斐のある舞台であった。

LOVELOVELOVE23

LOVELOVELOVE23

劇団扉座

すみだパークスタジオ倉(そう) | THEATER-SO(東京都)

2020/02/09 (日) ~ 2020/02/16 (日)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2020/02/15 (土) 18:00

扉座研究所の卒業公演という位置づけで例年上演されている『LOVE LOVE LOVE』。研究生による実話を交えた短編をロミジュリの名場面でつなぐ構成は例年通り。演技だけでなく歌でも踊りでもアクションでも楽器でも持てる武器はすべて投入して生み出す渾身の作品を今年も目撃できた。
熱量だけでなく構成やテンポのよさも含めて2時間40分の長さを感じさせない舞台だった。ロミジュリは決闘の場面の迫力と、ひばりの声で朝を迎える場面での人を殺してしまったロミオの動揺からの2人のやりとりが切実で心惹かれた。

楽屋 —流れ去るものはやがてなつかしきー

楽屋 —流れ去るものはやがてなつかしきー

ことのはbox

シアター風姿花伝(東京都)

2020/08/22 (土) ~ 2020/08/30 (日)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2020/08/29 (土) 17:00

岡崎さん演出版を拝見した。
箕輪さんは、ニーナの台詞の若い娘らしい真摯な声色から、場数を踏んだある種の余裕とその一方で多忙や年齢による余裕のなさとが同居する生々しい女優Cであった。
女優Cのプロンプターだった女優Dは、自分がニーナ役に選ばれた、という妄想を抱いている。「この前電話で作者と話した」などと口にする精神状態のあやうさと、そこまで追い詰められほどの役への思い入れ。女優Cとのやり取りは観ているこちらまでハラハラした。
そして、女優Aと女優B。あらためて観ると最初から最後まで出ずっぱりで台詞も膨大な、見せ場の多い役だ。それぞれの時代感。報われなかった過去への鬱屈とそれでも楽屋から離れられない執着。2人の個性の違いとバランスの良さが作品をきれいにまとめていたように思える。
この芝居の面白さは、劇中で使われるたくさんの過去戯曲のセリフにもあるだろう。『かもめ』を中心に、さまざまな戯曲が各場面を彩る。彼女たちの生きた時代ごとの翻訳の違いなども面白い。

その膨大な台詞と劇中の場面の心情と。彼女たちの生涯の憧れの1本は何だったのか、観終わってから気になったりもした。

たくさんの方々が演じてきた戯曲を、今回の岡崎さんの演出は真正面から丁寧に立ち上げて、執着や報われない哀しみの中にもどこか甘やかな憧れを感じさせた。

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