許し
avenir'e
新宿眼科画廊(東京都)
2024/09/14 (土) ~ 2024/09/24 (火)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
紙のチラシを作らなかったらしく、直前まで私も知らなかったが、面白そうな企画(戯曲も)、役者も巧そうだし、という事で出かけた。
イタリア人の名前の作者による、ちょっと皮肉の効いた「海外戯曲」という感じだったが、路上で久々に出くわした家族同士の辛辣でこれはハートフルな話になり得ないと判るやり取り。ある真相に導かれた結果も因果応報だが不条理劇の匂いも残す。
役者が巧く、独特な世界観を成立させていた。
ふらりと出向いたにしては面白かったが、小さな劇場とは言え客席の少なさには「勿体ない」と呟かずにはおれぬ。
かげきなデイリープレイス
演劇集団イヌッコロ
ザ・ポケット(東京都)
2024/09/18 (水) ~ 2024/09/22 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
「ヤクザが演劇!?」そう、ヤクザが演劇をしなくてはならなくなる話だというのは事前に分かっているのに、ヤクザが演劇をしなくてはならなくなる冒頭からもう可笑しくて仕方ない
分かっていてもこんなに笑わせるなんて、これから相当面白くなるだろうな。と膨らむ期待感
その期待感をも軽々と越えてくる強烈キャラ達があれよあれよと妙ちくりんな状況へ持ち込んでいくので、もう気持ち良いくらい笑ってきました
ダブルコールの予測をしていなかった役者さん達の様子は微笑ましい光景でしたが、これは絶対になりますよダブルコールに
公演初日の素晴らしいスタートダッシュ
コリッチのページには今のところ明記されていませんが、今回の公演をもって演劇集団イヌッコロとしては活動休止になるとの事、なんて勿体ない!
ただ佐野瑞樹さん主催sitcomLabでこの系譜を継いだ公演は予定されているそうで、こちらは朗報
発光体
きっとろんどん
演劇専用小劇場BLOCH(北海道)
2020/01/25 (土) ~ 2020/02/01 (土)公演終了
椅子の見えないイス取りゲーム
劇団生命座
北本市文化センター大ホール(埼玉県)
2024/09/14 (土) ~ 2024/09/15 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
とても面白かったです。
人間に不適格者・適格者の区別はないと思いつつも、AIによる人の選別に踏み込んだ今の世相を反映した設定。
そうして選別された不適格者が生き残り、適格者がパンデミックで死に絶えてしまうという逆転の結末が皮肉でもあり、見事でした。
生き残った人々らがこれからどうやって世の中を作るのか?気になる終わり方もまた良かったです。
日本ではここ数年、「勝手に決める」政治が幅を利かせ、世の中は急速に悪くなってないでしょうか。
「不適格者」を許さない社会、もしくは「選ばれた者」だけがルールである社会がどんなに恐ろしいものであるかを、この舞台は暗示しています。
「不適格者は断捨離」というルールが支配している社会で、アパートの気心の知れた住人が自死する話。一家の主である男性が不適格者と判定され、苦悩した結果、不適格者で匿われている幼い娘さんを治安部隊に通報し、母親の努力もむなしく死んでしまうという筋立てもありました。母の叫びが、母娘の絆は不変であることを示し、涙を誘いました。
「見えない椅子」という何も見ようとしないただ椅子に座り続ける人々を舞台の演題に設定したのも面白い発想でした。
椅子に座り続ける人々は、冷酷無慈悲な様相も呈しますが、そもそも不適格者は断捨離というルールで社会を締め付けている社会体制(AI)が原因です。舞台ではこのルールを覆そうと訴える人や抵抗する人もいますが、見ている方からすると儚い抵抗のような感じでした。しかしながら、彼らが命を張って訴えたことで自分たちと変わらないふつうの人がいることを実感することができました。
ラストの犠牲になられた方が大家の周りに集まり、静かに迎えに来るシーンがとても美しかったです。名前のない国民の方々の演出も本当に素晴らしく、あっという間の1時間50分でした。次の公演も期待しています。
失敗の研究―ノモンハン1939
秋田雨雀・土方与志記念 青年劇場
紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)
2024/09/13 (金) ~ 2024/09/23 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2024/09/18 (水) 14:00
座席1階
結構ハードな会話劇である。歴史や戦争に関する劇作では名高い古川健らしい緻密な物語だった。テーマは「なぜ、戦争を止めることはできないのか」。歴史上、最も困難であると思われるこの命題に若き女性編集者が挑んでいく。その材料となるのが、太平洋戦争開始直前の1939年にあったノモンハン事件だ。
劇中でも出てくるが、ロシア軍と衝突した現場の国境地帯は湿地と草原が広がるエリアで、軍事的な要衝ではない。「どうしてこんな場所を巡って」と後付けでは感じるが、それだけにこの戦闘で失われた両軍の何万もの命は「何のために」というむなしさが残る。日本軍にとってはもちろん「失敗」であったが、当然、ロシア軍にとっても「失敗」であっただろう。
戦争の教訓を学ぶ、特に先の戦争での「失敗」を学ぶことは平和な未来を築くには不可欠だ。特に日本では、失敗を学ぶという取り組みに欠けている。劇中でも当時の作戦参謀の生き残りが語るが、辻政信というエリート参謀が暴走した、誰も彼を止められなかったのが失敗だったと一定の結論が出されている。
だが、なぜ辻を誰も止められなかったのか。それは、勇ましい作戦を「無駄だ」と反対する、戦わない選択をしようという主張を周囲ができなかった「空気」なのではないか。戦わないとの決断はひきょう者の考えであり、日本男子としては、天皇の軍隊としてはあり得ないという空気だ。辻を止めようとして自らの出世を棒に振る恐怖もあったであろう。でも、戦争を止められない本当の理由は、周囲の空気を読んで行動する同調圧力ではないのか。
この舞台では、失敗の教訓は同調圧力だと匂わせる場面もあるが、はっきり言っていない。関東軍の暴走、陸軍の東京の司令部が何もしなかったこと、勇ましい進軍のニュースを垂れ流したメディア。それを推した国民。いろいろな要因がせりふの中で指摘される。だが、そうした要因ももちろん「失敗」なのだが、失敗を失敗だと言い出せない同調圧力が関東軍にあり、陸軍にあり、国民にあったからだ。だから、その直後、外交的な失敗とされる日独伊三国同盟につながり、国を破滅させる「失敗」となる太平洋戦争につながっていく。ノモンハンを止められる空気がすこしでもあれば歴史は変わったかもしれない。いや、もっともっと前、明治維新から列強に追いつこうと富国強兵を重ねてきた日本が、欧米列強に伍するとしてアジアの国々を次々に侵略していくのを当然だという「空気」を変えられていたなら、というところにまで行き着く。
古川らしい脚本であったが、で少し物足りなさも感じた。もう一つ、演出に招かれた鵜山仁は客席の目の前とか舞台のあちこちに戦車や軍艦の模型を配置して、「何が起きるのだろう」と期待を抱かせたが、結局これらの模型は装飾のような感じで終わってしまったのは残念だった。
都合
こわっぱちゃん家
アトリエファンファーレ東池袋(東京都)
2024/09/12 (木) ~ 2024/09/15 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
こわっぱちゃん家のお芝居は身近に起こり得る問題を、ある意味えぐるように掘り下げながら人に寄り添う愛で描き、明日に立ち向かう勇気をもらえるお芝居です。緻密に書かれた本はつっこみどころもなく、また、分かりやすく書かれてもいます。今回の観劇で5作目かな。オススメですよ!
魚雷モグラ’24
ウラダイコク
みらい館大明ブックカフェ特設ステージ(東京都)
2024/08/02 (金) ~ 2024/08/04 (日)公演終了
映像鑑賞
満足度★★★★★
昨年に引き続き、配信で拝見(カステラチーム)
劇場ではなく、決して広いとはいえないスペースで描かれるのは、終戦が目前に迫っていた長崎の町。
当然、そこで発生する悲劇など、まだ知る由もない女学生たちが、薄暗い地下の穴倉で魚雷を作っている。
そしてこんな状況の時であっても女の子たちはおしゃべりに夢中になり、淡い恋心もあれば友達との諍いもあって、普通に青春を過ごしている。
そんな女学生たちを演じる若い役者さんたちが、これまた懸命に演じている姿が、登場人物たちの懸命さとリンクして、思わず感情移入してしまう。
その懸命さに嘘がないのが心地よく、また可愛らしい。
こういう物語はどうしても説明をしないといけないことが多くて、説明台詞が多くなるのだけれど、それを全員のムービングや台詞(声)を使って無理なく見せる演出が、毎年の積み重ねを感じさせる。
たまに他の公演で、小道具だけをマイムにしているところがあるが、これははっきりって手抜きだと思う。
やはりマイムでやるのならこの作品のように、パワーマイムとして成立させないと見る側の想像力が広がらない。
そして、それら状況説明の台詞がとても詩的で美しい。
美しい言葉と、救いようのない事実との、どうしようもないアンバランス。
この作品に込めた作者の思いを受け止めた観客は、そこで切なくてたまらなくなる。
石を洗う
文学座
文学座アトリエ(東京都)
2024/09/07 (土) ~ 2024/09/19 (木)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
いわゆる「朗読劇」を文学座らしく、演劇的にやってみると、こうなるという企画である。悪態をつけば、手間暇かけず、手軽に稼げて、役者は台本は覚えなくてもいい,朗読会はコロナは以後はかなり流行ったが、世間が落着くと減っていった。しかし、朗読的な演出で、さらに演劇的リアルをもと深めることが出来るのではないか、という考えにも一理ある。ことに文芸の作家は、舞台的な感情表現は安っぽいと思い、地の文に拘泥する作家も少なくはない。舞台化、朗読上演を、映画化、テレビ化と同様に捉えられているが、そこは違う。
朗読をあまり深く考えにずに俳優の簡便な顔見せとして興行した劇団も少ないが、さすが文革座、この公演はかなり考えた上で舞台に乗せている。
主な登場人物はそれぞれ配役する。
俳優は、配役された役をシーンで演じるだけでなく、本人の動きも、客観的記述の地の文も読む。演じると読むという二つの役割を果たす。
シーンを設定する舞台は,それぞれ簡単な大小の道具で抽象的に示される。例えば、満員電車に乗っている登場人物はつり革だけを手に揺れるし、周囲の人物は半透明の白いビニールのレインコートをかぶって、中の一人は地の文を読む、というような趣向である。驚くような仕掛けはなく、物語も人物たちもベタ日常的で平凡である。
戯曲は地方作家の新作による過疎部落人間模様で、前半の1時間半は,その村から都会に出て定年寸前になっている男の都会生活。ほぼ同じ長さの後半は、ムラが主舞台で、ムラ出身になりすました青年が現われたり、人が逝き、過疎が進むムラの日々。どこかで聞いたような話ばかりだが、実際に俳優が役を演じ、地の文の解説も行届き、邪魔ないならないどころが、良い感じで語られると,こういう舞台にはすれっからしのアトリエの客も3分の1くらいはウルウルしている。
都会の路地裏に登場する白い野良犬はスチールの映像でスクリーンに出る。この辺は幻灯劇のような使い方である。舞台は不器用を装って、非常に上手く企まれているのである。まぁ、死せる王女のパヴァーヌが出てきたりするところが唯一、文学座の衒学的なところが鎧の下からのぞいたというところか。
この朗読のスタイル、もう確立している朗読劇業者の声優作品とは別の演劇的可能性も残されているように思う。文学座は言葉の技術が出来ているから、どこの劇団でもやれるわけではないが。
演出。五戸真理恵。
『ミネムラさん』
劇壇ガルバ
新宿シアタートップス(東京都)
2024/09/13 (金) ~ 2024/09/23 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2024/09/16 (月) 14:00
3つの物語が交錯するシュールな展開で面白い。110分。
『フメイの家』(作・細川洋平),『世界一周サークル・ゲーム』(作・笠木泉),『ねむい』(作・山崎元晴)の3つの話を交錯させて上演する複雑な構成。役者陣も含めたワークショップを通して作ったそうだが、実はワケが分からない。だが、分からないけど面白い、ということがある、その典型だと思う。峯村リエはタイトルに自分の名前を使われるのが大変だと思うけど、しっかり受け止めているし、芸達者な役者陣の作る芝居の重みが楽しい。
『ミネムラさん』
劇壇ガルバ
新宿シアタートップス(東京都)
2024/09/13 (金) ~ 2024/09/23 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
企画に惹かれ旗揚げ以来久々にガルバを拝見。パンフによれば今回のユニークな企画の実現に至る経緯は過去公演にあり、ガルバ的試みの必然的結実であったらしい。
三名による書下ろしとの事で、(書下ろし依頼は冒険でありしかも「×3」であるので)大きな期待せず、ただ役者の立ち姿を拝むのを楽しみに、といった構えで観劇に臨んだのだが、三つの話が明確に展開するわけではなく、三つの要素を包摂した一つの作品として仕上がっていた。(その苦労の跡が見え、最終的な構成を誰が行なったのか、とパンフを見るも不明。先程読んだ朝日新聞のレビューによれば、西本由香演出の下ワークショップにより練られて行ったプロセスがあり、集団創作の成果であるらしい。)
この些か混沌とした作りは「ミネムラさん」というカタカナ表記の一人の人物を巡る舞台の世界観に相応しかった。一人を描く事で人間を描き出そうとしている。人は多様な側面を持つ、という事でもあり、人間の存在の他者を欲する性質とその表裏の関係にある孤独、その一人の生に、捜索(といっても別役作品ばりに無責任な人物たちによる)する者たちの眼差しが注がれる、という構図。人と人を取り巻く世界をふと俯瞰させる。
作者の一人・笠木女史の大声が序盤で気になり、実は少々幻滅気味な気分がもたげたのだが、次第に気にならなくなった。(後で見ると当初の安藤千草降板によりだ代役を受けた由。)
BURNS FAMILY 東京公演
無名劇団
萬劇場(東京都)
2024/09/13 (金) ~ 2024/09/16 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2024/09/14 (土) 13:00
開演前からBGMと演者さん自ら案内する場面もあり、舞台の世界観が感じられてワクワクしました!
衣装や小物の細部まで無名劇団さんらしさが溢れていて、特に今回はファンタジーな部分もあったので振り切れてて良かったです。
人間とヴァンパイア、異なる時間軸で生きていく種族の普遍的なテーマの中で、ただ切なく苦しいだけではない家族愛と、笑いが散りばめられていて、笑い泣き両方楽しめました!
もっとテンポ良くコンパクトに出来そうな気もしますが、100分休憩なし、十分楽しめました。またぜひ、東京公演して欲しいです!
風を打つ
トム・プロジェクト
カメリアホール(東京都)
2024/07/17 (水) ~ 2024/07/19 (金)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
得体の知れない病気に対して疑心暗鬼になってしまう世間の空気というのはコロナ禍で体感しているので、本作で描かれる理不尽さはリアルに突き刺さりました
水俣病の被害者である家族、親近感ある風景の中に侵入してくる誹謗中傷
水俣病が遺した問題と併せて、自慢の長男が返ってくる高揚感や村祭り間近特有のざわつき感などが加わって家族ドラマとしての魅力度も非常に高い公演でした
今当たり前のように享受しているあらゆる事に感謝、ぜひ今後も再演を重ねていって欲しい作品
タコパ!
ペテカン
上野ストアハウス(東京都)
2024/08/30 (金) ~ 2024/09/01 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2024/08/30 (金) 14:00
濱田さんの作・演出だが「ペテカンど真ん中」と言おうか「ペテカンnow」と言おうかまさしくペテカン作品。そしてペテカンとしての「ある想い」がダダ漏れどころか溢れまくっていてファンとしてとても嬉しい。
そして登場して間もなく「そういう業界の人」とワカるが途中で豹変する長峰さん、ノリノリの四條さんを筆頭にメンバーそれぞれ見せ場/見せどころがあるのもイイ。いやぁ、シアワセなひと時だったなぁ♪
アダルト≒チルドレン
表現集団 式日
麻布区民センターホール(東京都)
2024/09/13 (金) ~ 2024/09/15 (日)公演終了
球体の球体
梅田芸術劇場
シアタートラム(東京都)
2024/09/14 (土) ~ 2024/09/29 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2024/09/17 (火) 14:30
座席1階
岸田國士賞を受けた池田亮が作・演出に加え美術まで担当した舞台。開幕前に、舞台中央に鎮座する「ガチャガチャ」ボール(球体)がたくさん詰まった塔を間近で見学できる。
舞台は日本近海の火山爆発でできた島でレアメタル発見され、世界中から多くの資産家が移住し、その利権を独占した日本人が独裁国家を作った、という設定。その国家の現代美術館のロビーにガチャガチャの塔「sphere of sphere(球体の球体)」が展示されている。なぜ、作家がこのようなオブジェを制作したのか、なぜ、ガチャガチャなのかというところも物語が進行すると明らかになってくる。
日本近海の日本人による独裁国家という設定がおもしろいが、この会話劇は結構難解である。作者の頭の中の妄想がかなり高度なのだろう。ついていくのにやっとという感じだ。人によっては「分かりにくい」と感じたかもしれない。
大統領やキュレーターをホログラムとして描き、指先の動作で早送りや巻き戻しをする場面が続くところがある。巻き戻しや早送りに対応して動く役者が、ストップモーションも含めて非常にそれらしい動作を披露して笑いを取っているのはさすがだと思った。冒頭とラストシーンのダンスもよかったと思う。
数十年後の未来を描いているが、このような世の中が来るのかどうかは分からない。物語の中身に文句を付けるわけではないが、生命の誕生を手玉に取るような世の中にはなってほしくない。
戦争とは…『被爆樹巡礼』『犬やねこが消えた』
劇団俳優座
俳優座スタジオ(東京都)
2024/07/15 (月) ~ 2024/07/21 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
①「犬やねこが消えた」
犬役の髙宮千尋さんに妙な既視感を感じていたが、元AKB田野優花似が理由だったことにやっと気付く。方南ぐみの『青空』も同じ話だった。昭和19年、「犬原皮増産確保並狂犬病根絶対策要綱」が全国に通達され、軍需用皮革製品の為に飼い犬や飼い猫を供出させられることとなる。家族のように可愛がっていた犬や猫が“御国の為に”屠殺されなければならない。その時の張り裂けた心は一生ついて回り、何十年経って老いた今日も自らを苦しめ続ける。悔恨、無力感、理不尽への怒り。国を責め己を責める。何故あんなか弱き者達が殺されなければならなかったのか?あの時の怯えた目、助けを求める声、最期のあの鳴き声が耳にこびり付いて離れない。自分は人間よりも犬猫の方に感情移入するタイプなので彼等の気持ちは他人事ではない。危急時この世の常として弱い立場のものに皺寄せが来る。そんな世界は滅ぼしてしまえ。昨日今日生まれた子猫の為にこそ世界は存在する。その為だけの世界だ。
オープニング、中村たつさん(96歳!)によって茨木のり子の「わたしが一番きれいだったとき」が朗読される。理不尽な人生への復讐の為、自殺ではなく長生きすることを選んだ詩。兎に角生きてやる。生きて生きて生き続けてやる。生き続けることこそが復讐だ。皮肉の効いた「倚りかからず」も。
岩崎加根子さん(91歳!)と阿部百合子さん(91歳!)、遠藤剛氏も健在だ。
ピアノを伴奏しエンヤのようにハミングで歌う石塚まみさんが素晴らしい。作曲も兼ねている。
作家の井上こみち(椎名慧都さん)が犬の散歩をしている松本潤子さんから戦時中の話を聞き、気になって調べ出す。ラジオ番組のディレクター、小泉将臣氏が情報を提供。二人は全国を飛び回り日本の隠蔽された黒歴史を暴いていく。
小泉将臣氏は大谷翔平と江口洋介を足したようなカッコ良さ。
②『被爆樹巡礼』
原爆投下によって被爆地周辺は「75年間は草木も生えぬ」と言われた。だが一面焼け野原、放射能の地獄の中から芽吹く樹木があった。研究者、作家の杉原梨江子(髙宮千尋さん)はカメラを持ち被爆樹木を訪ねて回る。絶望の底にいた被爆者達に生命の神秘が希望の灯となる。生命がそんなに不思議なものならば自分にだって奇跡は起こるのだと。
Wonder Moon(ワンダームーン)
ミライ座
武蔵野芸能劇場 小劇場(東京都)
2024/08/30 (金) ~ 2024/09/01 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
ストーリーがぶっ飛んでてサイコー
設定をあらかじめこさえておくことをお勧めすます。
出演者が多くて覚えるのが大変だけど、豪華です。
こんなに役者さんがいるのに、二役の人もいる。
すごい!
寿歌二曲
理性的な変人たち
北千住BUoY(東京都)
2024/09/12 (木) ~ 2024/09/17 (火)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
核戦争後の荒野を、世界の事情はお構いなしに、ふざけた名前の三人の旅芸人が馬鹿げた会話を交わしながら旅していく。このとりとめもないシチュエーション・ドラマには、不幸にも「不条理劇」と訳されてしまったabusurdな劇と言う言葉が、ぴったりと似合う。
「寿歌」は誰もが認める20世紀後半の日本演劇を代表する不条理劇の傑作である。北村想は、「ゴドーを待ちながら」を社会劇にもして見せた。以来、四十年余「寿歌」はさまざまな演劇人によってそれぞれのスタイルで広く演じられてきた。
現代の「変人たち」はどう演じるだろうか? 次代を担う期待の演出家の一人・生田みゆきの率いる「理性的な変人たち」の上演は「寿歌・二曲」と題して四作ある北村想の「寿歌シリーズ」から二作をカップリング。舞台は北千住から線路沿いのゴミゴミした住宅街を抜けた先にある雑居ビルの地下。今は放置されて廃墟さながらのかつては公衆浴場だった場所での上演である。
「寿唄二曲」は、核戦争前を舞台にした「寿歌Ⅱ」が第1幕(80分)、最初に書かれた核戦争後の「寿歌」が第2幕(65分)。休憩が15分。天井の低い地下に、建築業者が使う現場用のパイプを椅子を五列に並べて約百席。専門家に芝居亡者が帝都の北の外れに集まって満席である。
まぁ、好き嫌い(原作を含め)は別としても、今までに見たことのない「寿唄」であった。
いずれ、いろいろな場で、この上演は論じられると思うので駄弁を重ねるのは止めるが、感心したところを二つ。残念なところを一つ。
「寿歌」は基本的には台詞劇で書かれている。台詞は、理性的だからどうしても事態を限定的に表現してしまう。今回は原作を随分改変しているが、台詞を重要なところは外さず(そこは、ホントに感心した)歌舞演芸化した。今までもこの線を試みた舞台もあったように記憶しているが、これほど徹底的にやったことはないだろう。それで、やや古めかしくなっていた「冷戦構造期」のドラマが現代社会に蘇った。ポルノ劇までやってみせることはないだろう、と言う意見もあるだろうが,あの手、この手、が尽きない。次、このグループの芸大出の人たちが作り、演じると言う基本の座組が生きている。彼らは我々観客にとっては、別に普通の人たちになって貰わなくてもいい人たちである。勝手放題、好き放題にやって、我々を楽しませてくれればいい人たちである。そう言えるのは、個人的な体験で、芸大に学び、出ると言うことは、そんじょそこらの東大とか慶応とは全く次元が違う青春期の経験を送った人たちであることを知っているからである。彼らが破滅するならそれも勝手である。その振り幅の強さがこの舞台にもよく出ていた。舞台は手不足らしく,演出の生田みゆきが演出助手や場内案内までやっていた。芝居は。こうでなければ!!
残念なところ。演出者は作品発想はイスラエル紛争にあると言い、ジェンダー問題が論じられている折、ドラマの軸を担うゲサクの役を女性にした(滝沢花野は熱演で役割は十分果たしているが)というが、そういうことはひとまず置いておいて、これでいいとやってしまえば良い。ヘンな理屈があると(理性ある?)足を取られてヘンな風に曲がっていく。それで失敗して挫折した人の例もすくなくない。しばらくは、文学座の古老たちからは何やってんの!勝手にしやがれ!なんていわれながら、やってみるのが役どころである。
商店街グランドリオン
劇団バルスキッチン
シアターグリーン BIG TREE THEATER(東京都)
2024/09/11 (水) ~ 2024/09/16 (月)公演終了
アダルト≒チルドレン
表現集団 式日
麻布区民センターホール(東京都)
2024/09/13 (金) ~ 2024/09/15 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
少しわかりづらかった部分もありましたが、大人とは何か、心の傷を癒すのは大衆の物語だけではなく、個人とどう向き合うか、そんなことを考えながら拝見していました。私なりの解釈で面白かったですよ。国選脚本っていうのも面白いですね。鋼の…かと思いました。確か旗揚げも拝見していて、コンセプトは変わらない感じがしましたが、もう少し簡単な設定にしてもよかったかもですね。でも、若い皆さんの元気な演技良かったです。次回も期待ですね。