ええ愛とロマンス 公演情報 enji「ええ愛とロマンス」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    面白い。近未来という設定だが、現実的にも考えさせる内容。説明に南国の離島・尾神島にあるホスピス「神の御宿」が舞台とあるが、最近、離島からの医療搬送用ヘリが墜落した痛ましいニュースがあったことを思う。公演は、AIの進化、特に医療・介護分野で力を発揮したら、という問題提起のようだ。

    劇団enjiは「メッセージを伝えることよりも、観る側の心に染み込むような、誰もが持っている不変的な感情を『温度』を表現したい」とあるが、この公演はAIの知性がもたらす可能性と人の心の葛藤のような物語。同時に人の死、その時を迎えるまで どう生きるかといった生き様が優しく描かれている。映像の美しい風景、方言の台詞が自然と人の温かさを感じさせる。
    (上演時間2時間 休憩なし) 4.20追記

    ネタバレBOX

    舞台美術は、色違いの平板を組み合わせ箱馬を作り、それを積み重ね状況を連想させる。見た目はシンプルな寄木細工のようで、それを可動させ診療所や小料理屋といった場所。同じように後壁や側壁を作り状況に応じて動かす。その壁に風景や図表の映像を映し出し、空間的広がりや解り易い説明をする。今までの公演と違って、敢えて抽象的な造作にすることによって、観客に想像させる といった意図を感じる。

    島にある尾神村診療所の人間は、医師 長岡鉄雄と看護師 古屋照子だけで、他の職員はAIロボットで対応している。そして今 鉄雄は病のため本土の病院に入院している。島の人たちは人間味溢れる鉄雄を慕い、早く戻ってくることを願っている。しかし、その願いも空しく亡くなる。そして彼の心である脳をAIロボットへ。現実に医療・介護の現場ではAI導入による進歩が といったニュースを見聞きするが、そこに細やかな(人間的)感情を求めることは まだ早い。物語の中でもAIの有用性と人間的な感情のをユーモアを交えて描いている。

    AI開発に係るプロジェクトリーダー的存在の黒沼祐介は、照子と鉄雄にとって浅からぬ存在。その衝撃的な事実が さらにAI技術を印象付ける。鉄雄の体は無くなるが、その意識(例えば記憶や思い等)は有る、その時の<鉄雄>とは…。劇中ではセテウスの船を例に、代替の程度や心と体の関わりを問うていた。AIロボットという半永久的な存在は、人間にとって本当に必要なものか。一方 SF映画などで、AIロボットが人間的感情を持ったら という物語もある。死なない感情は幸せなのか?そんな考えさせる公演。

    現実の離島医療の脆弱さは、ヘリの墜落事故でさらに明らかになった。公演は近未来の政府の政策と 今の厳しい現実を突きつける、そんな虚実の視点が見事に融和している。それを大上段に振りかぶることなく、多少コミカルに描く。AIロボットのぎこちない動きや小料理屋での会話に人間味が…。そしてラストの精霊船や墓 社などのセットに人間臭さや営みを感じる。AIを通して人間劇を描く巧さ。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2025/04/19 11:19

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