なんかの味 公演情報 ムシラセ「なんかの味」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    細部の細部に魂が宿る。
    役者の力を信じ、不要な演出も説明台詞も削ぎ落としたシンプル・イズ・ベスト。
    コンテから作る映像と違ってこれができるのが演劇の味。良くできたドラマの醍醐味。
    観客一人一人が別々のポイントにフォーカスできるのは、まさに「何かの」味。
    その、細部ひとつひとつには、しっかり別々のうま味がある。

    ネタバレBOX

    いつの時代だろう。客入れの時からずっと気になっていた。
    棚にずらりとトリス瓶。小津の「秋刀魚の味」で笠智衆が通ったバーが「トリスバー」
    昭和かなと思いきや、マッチングアプリが存在する世界線の、最近のお話であった。
    小津にとってのリアルが、工場の煙突や、軍艦マーチや、サッポロラガーであったように、
    この時代のリアルはpinoやユーミンやおいしい牛乳。
    小津の時代の、娘を嫁に出す男の心象風景は普遍的でシンプルなリアル。
    今の時代はもう少し家族も複雑で、心象風景も一筋縄ではいかないが、
    あえて盛っていかずにミニマムに表現することで立ち上がってくる圧倒的なリアル。
    pinoは6個入りで4人で分けづらい。
    バールとスコップで「殴りに行こうか」ではなく翳りゆく部屋を歌いに行く方が復讐になる。
    おいしくない「おいしい牛乳」を使ったシチューが、やっぱりそうは言っても牛乳が入っているのでおいしい。
    そして何より、圧倒的な振り幅で表現される松永さんの「母の」演技。源氏名の名刺を渡す、が効いている。大阪のおばちゃんのあるあるエピソードの数々も良かったなあ。

    美味しいものを食べるとやっぱり幸せ。普遍的なリアル。色々な味を堪能した観劇の余韻と重なり、
    ラストシーンが長時間のストップモーションであったかのように美しい。

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    2025/04/09 20:08

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