実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2025/04/05 (土) 13:00
座席1階
人気劇団だけあって、開場前から長い行列が階段へと伸びていた。ひきこもりの30代長男を抱えた家族の物語。重いテーマに真正面から取り組み、ひきこもりの実像もリアリティーにあふれていた。
舞台セットは、向かって左奥にベッド、その手前が台所とリビング、右手が会社のオフィスと設置され、うまく照明を使いこなすことで切れ間なく舞台転換する。最初に登場するのは病床の母だ。見舞いに来ているのは父だとしばらくして分かる。どうやら重病のようだ。ひきこもりの長男に姿を見せに来てもらえないかと、母は父に嘆願する。だが、長男を連れ出すのは容易ではない。
父は小さな会社を経営しており、次男、三男という家族らと共に、会社の番頭、女性社員もリビングに訪れ、母の病状を心配する。家族だけでない他者を重要な役割として配置したことが、物語を進める上でとても重要になっている。
演出の妙もあり、とにかく息をつかせぬ展開だ。長男の状況は、父が「レンタル彼女」を雇ってもなかなか変わらない。このレンタル彼女を演じた俳優さんはお見事だ。視線をまっすぐに長男を見つめ、「彼女ですから。私があなたを好きなんです」と真正面から対峙する。また、ひきこもりの長男を演じた俳優さんもすばらしかった。心の揺れ、自分自身への怒り、息苦しさ、他者へのねたみ、そして家族への思い。せりふがない場面でもこれらの胸の内を十分に表現して余りある見事さだった。
物語は少しずつ前に進んでいく。せりふなど一つ一つが丁寧に描かれ、後段では思いもかけぬ展開が待っている。
主宰の深井邦彦は「弱い立場の人によりそう」という姿勢でこれまでの舞台を作り込んできたという。劇作家の視線がよく感じられる、見事な舞台だった。満席になっている回もあるかもしれないが、ぜひこの物語を体感してほしい。