或る、かぎり 公演情報 HIGHcolors「或る、かぎり」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    面白い、お薦め。
    どこか ありそうな家族、そして母親の死によって初めて親子喧嘩をする。少しネタバレするが、母親は胃潰瘍ということで入院したが、実は胃癌で余命三か月。そうとは知らされない子供(息子)たちは、あまり見舞いにも行かず自分の生活を優先(大事に)する。亡くなって味わう喪失感や後悔といった思い、それを夫々の役者陣がキャラクターを立ち上げ熱演する。観客によっては身に覚えがあるような、その没入感や感情移入等は物凄い。そして母親が心配し 会いたがった長男が引き籠りという設定が肝。

    舞台美術は4か所…上手から事務所、リビング、ダイニングキッチン そして病室であり引き籠り(長男の)部屋を扉枠で仕切る。神は細部に宿るというが、実にリアルな造作で この家族(柿沼家)の在り様を描き出している。そして場転換は、夫々の場所への照明の諧調によって場景を上手く転換する。物語は家族やその周りの人々を交え、一筋縄ではいかない長男への対応を巧みに紡ぐ。柿沼家は自営業を営んでおり、職場と家庭が一緒(職住接近どころか一体)になっており、家庭の問題=職場へも影響する。そして従業員も家族同然、同じような思いを抱くことになる といった妙。
    (上演時間2時間10分 休憩なし) 4.6追記

    ネタバレBOX

    舞台美術は、ほぼ横並びに3か所と下手奥に病室or長男の部屋。それぞれ配置されている小道具・小物が そのまま生活や仕事に使用出来る物。例えば事務机や椅子、打ち合わせ用のミニ応接セット、リビングはソファとテーブルそしてTVリモコン。下手のダイニングキッチンは冷蔵庫やシンク そして炊飯器やポット、テーブルや椅子。それぞれの場所には直接行かず、扉枠を通って移動する。その動線が異空間ということを感じさせる。

    柿沼家には3人の息子がいるが、長男 修一は30歳過ぎても働かず、引き籠っている。しかも家では我儘 言い放題 し放題。そんな長男に対し他の家族は呆れ半ば諦めている。母 聖子は入院し後々判るが胃癌で余命三か月。父 輝明は修一に見舞いに行くよう言うが…。社員の田中灯里の楽しみは「レンタル彼氏」と会うこと、それを聞いて修一にも「レンタル彼女」 塚本愛を紹介する。修一は、自分の言うことに反論せず寄り添う彼女に好意を抱くが、彼女にとっては 飽くまで仕事。契約終了時、愛は修一を反面教師として母の看病をする気持になったと告げる。

    母は亡くなり、その通夜はもちろん葬儀にも参列しようとしない修一。そして母が死んだと思わないことで、現実逃避を図る。父は修一に母が亡くなった事実、それを受け入れるよう諭す。ラストは父 輝明の奇矯というか自虐的な行為、その可笑しみと悲しの綯交ぜになったような感情表現が印象に残る。公演には実感ある台詞の数々。例えば亡くなった母の姿に 「まるで眠っているようだ」と。自分も 遺体に呼びかけ、周りから狂ったと思われた覚えがある。

    公演は、引き籠りという ありふれた設定に親の死という現実を突き付ける。劇中のTVニュースで親が亡くなったことを隠し年金を騙し取っていた音声が流れる。いずれ親も(経済的)援助できなくなるという伏線。それにしても30過ぎの息子を色々説得するための行為があれか?力ずくは、幼児ならば躾という名の虐待になるだろうが…。

    公演は、どこにでも居そうな登場人物が、その立場や性格をリアルに立ち上げ物語へ力強く引き込む。特に引き籠りの長男 修一を演じた根本大介さんの憎たらしいほどの悪態や我儘。そしてレンタル彼女 塚本愛の土本橙子のシニカルな演技、そして「言うのは知性、言わないのが品性」という台詞が印象的だ。生きることは辛く大変、それでも平凡な暮らしを手に入れるため日々戦っている、はこの劇のテーマのよう。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2025/04/05 06:23

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