悲円 -pi-yen- 公演情報 ぺぺぺの会「悲円 -pi-yen-」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    「心を通わせられない人々の末路」

     チェーホフの『ワーニャ伯父さん』を土台に新NISAについて描くという異色の作品である。

    ネタバレBOX

     田舎の葡萄農園で働く小池さん(石塚晴日)が農園をやめ役所で働く足立さん(佐藤鈴奈)とこの界隈の変遷について話していると、上の階から小池さんの息子の良夫ちゃん(岸本昌也)が不機嫌な様子で降りてくる。良夫ちゃんは、妹で今は亡きキョウちゃんと結婚した瀬戸先生(村田活彦)に対して不満を抱いているようだ。瀬戸先生は投資方面で著名なユーチューバーなのだが、周囲から褒めそやされてすっかり天狗になっている様や、恋人に女優のエリナ(熊野乃妃)を連れるなど俗人的に振る舞い、良夫ちゃんはかつての先生への尊敬を失ってしまったらしい。瀬戸先生とエリナはこの家と葡萄畑を売却してはと足立家の人々に提案し、良夫ちゃんの我慢は限界に達してしまいーー

     衰退する古き良き産業と経済の新潮流という対立軸のなか、心を通わせられない本作の登場人物たちは目を合わせて対話することを極端に避けているように見える。心の葛藤は身体にまで及び、棒読みのような台詞や鋭角的な体の動きばかりが目に入る。こうした肉体の造形に心理描写を重ねた俳優の身体性がまず本作の見どころである。少しずつ心の距離を縮めてようやく目と目を合わせて対話するかというところで幕切れとなる演出も、戯曲の要請と合致しているように思えた。対話の場面でボディービルダーや野球を模した動きも、心を開示できない登場人物たちの恥じらいの動作のように見えた。

     収穫した葡萄は長い年月をかけて熟成させることでワインにできる。他方で投資は短いスパンで儲けを得られるかもしれないが、その分気忙しい日常に心が休まらない。日夜配信に株価の値動のチェックにと気忙しい瀬戸先生が象徴している投資家へ冷めた視線や、投資大国アメリカを揶揄するかのように「MAGA」の被り物をした登場人物たちが一斉にDA PUMPの「U.S.A.」を見事な振り付けで踊り歌う場面など、本作の「投資」に対する視座はある程度汲み取ることができた。ただし『ワーニャ伯父さん』の骨格が強すぎるためか、テーマとして前面に押し出した割には、全体的にふんわりとした描き方にとどまっていたように思う。中盤で劇中劇として挟み込まれた、本作の稽古中に俳優が仮想通貨の値動きをネットで確認する描写は皮肉に映り印象深かったが、サラッと流す程度で淡泊である。本作のハイライトである良夫ちゃんと瀬戸先生の対決も、幾分淡々として肩透かしを食らってしまった。静謐ながら激情がトグロを巻いている台詞と独特の身体性は他に得難いだけに残念である。

    0

    2025/04/01 12:25

    1

    0

このページのQRコードです。

拡大