wowの熱 公演情報 南極「 wowの熱」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    「虚構に取り憑かれる実演家たち」

     作・演出のこんにち博士が腕によりを振るった戯曲を、劇団員たちが絶妙のチームワークで立体化した力作である。

    ネタバレBOX

     開幕すると冒頭から数本の寸劇が続く。ハンマーでブラウン管を壊そうとする俳優とダメ出しする演出家とのやりとりがあり、つぎにその二人がお笑いコンビとなり、ビジネスマンからいかがわしいカバンを売りつけられそうになる。この場面を描いた絵画を飾った先史時代のゾウの一家が食卓を囲む様子になったかと思えば、そのゾウをイメージした毛皮をまとったモデルにデザイナーが文句をつける。前の場面を連想させるような奇妙な寸劇の連続がまず面白い。

     ようやく本編では中学生の主人公ワオ(端栞里)と仲間たちとの青春模様が描かれる。彼らは教員の海パン(井上耕輔)に水泳の補修を受けさせられたとき誤ってプールに落ちてしまうのだが、そのときプールが急に沸騰してしまう。ワオが45℃と高い平熱を持っていたからである。プールの温度はしばらく高いままだったのでみんなで「ワオ熱湯」なる銭湯を開こうとするのだった。

     このあたりになると戯作者で演出家のこんにち博士による指示出しが始まり、やがて一旦芝居が止まる。すべては虚構のなかの話であり、現実同様に劇団南極が『WOWの熱』という芝居の稽古を進めている最中の模様だったことがここで分かる。ワオを演じる端栞里は役に入れ込み過ぎてしまい、役の設定よろしく自身の平熱がグングンと上がってしまい、ついにはその場に倒れ病院に運ばれてしまうのだった。病院を抜け出したワオは、呪術に詳しい共演者の九條えり花の助けで映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』よろしく、同じく共演者のユガミノマールとともに車に乗り込み、こんにち博士の虚構の世界へと旅立つ。そこで起きた空間のねじれにより、冒頭の寸劇にも出てきた温室でしか生きられないホットハウスマン(瀬安勇志)ら虚構のキャラクターたちを現実へ招き入れてしまう。公演を打とうとしていたが端の降板により中止を余儀なくされた南極の劇団員たちの悪戦苦闘ぶりを描きつつ、現実と虚構が次第に混在して摩訶不思議な世界が展開していく。

     戯作者による創作と劇団員たちの奮闘を並行に描く本作は、虚構が入れ子構造で何重にも層を成している。ただ新作の芝居を作ったというよりも、その新作に取り組もうとしている劇団を、そして創作の過程で生まれた副産物としての虚構を描くという、ナマモノとしての舞台芸術の魅力と危険な魅惑に満ちた作品である。手の込んだギャグや先行作品のパロディなど、作者が腕を振るった台詞は客席を沸かせており、それに応えた劇団のチームワークと鮮やかな展開は特筆に値する。先史時代のゾウや体を乗っ取られたボクサーなどの虚構の副産物が劇場すぐそばの新宿浄水場に立ちはだかるなか、ワオがホットハウスマンと対峙する場面のいかがわしい禍々しさ、バカバカしくもキラキラとした輝きは忘れがたい。

     ただし本作の設定が満場の客席の理解を得るものだったのかは疑問が残る。冒頭に置かれた一連の寸劇は、戯作者が劇団員たちに、見ず知らずの他人のフリをして新作を作るためのワークショップの成果だということが中盤で明かされる。こうした手の込んだ設定によって劇団員たちが混乱した結果虚構と現実が乱れだしたという企図なのかもしれないが、少なくとも私はその設定に馴染むことはできなかった。混乱の元凶たるこんにち博士の戯作者としての葛藤や錯乱を描く場面もあったが、端とワオに入れ込みすぎた場面の思わず胸のつかえるような絶叫以外は狂言回しの役割が強かったため、自然作中での存在が薄まってしまった。そのため端の芝居も熱演であるがどこか一本調子で振れ幅が小さいように見えた。終盤でワオがこれまでの来し方を振り返りながら他の登場人物たちの過去のやり取りを絡ませつつ、最後にこんにち博士と同時にクラップするところなど鮮やかな展開だっただけに悔やまれる。手数は多くアイデアは豊富なだけに、他の登場人物を含めた心の動きをもっと感じたいと思った。

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    2025/04/01 12:24

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