幽霊 公演情報 ハツビロコウ「幽霊」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    面白い。
    ハツビロコウらしい重厚にして骨太作品。しかし 今まで観てきた公演、例えば 同じイプセンの前作「ヘッダ・ガブラー」のような重苦しい緊張感はあまりない。逆に この公演の魅力は、テーマ性というか物語性が鮮明で分かり易いところ。当日パンフに代表の松本光生 氏が、イプセンの戯曲をもとに複数の翻訳本やグーグル翻訳を参考に上演台本を書いたとある。そしてタイトルにある「幽霊」、それは現代に生きる我々にとって何なのか、どのような影響を与えているのかを意識したとある。

    1881年、イプセンによって書かれた戯曲が 現代日本によみがえり 何を伝えようとしているのか。観客それぞれ思い抱くことは違うであろうが、少なくとも因習や慣習に囚われた閉塞感、不自由さはしっかり描かれていた と思う。また人間が抱いている思い、その願望が封じ込められた時、大きな反動が狂気を生む。それは 本人だけではなく、その家族をも巻き込んで…。

    旧弊的な道徳観・価値観は崩壊し、同時に正当な倫理観も失われつつある。それは自己中心的な思考と行動、そこには欺瞞や強欲が潜み それが社会に蔓延していく怖さ。公演では宗教(牧師)を以って倫理観を説き、その建前に人の希望や願望が抑制されるといった矛盾。舞台という虚構(俯瞰)の世界、しかし現実における世相・世情を見れば、今でも言われ続けていることに気づく。その意味では現代においても色褪せない、根本的な問題を孕んでいる。さらに 少しネタバレするが、近親相姦や安楽死などのセンセーショナルな出来事も描かれている。それが140年ほど前に書かれた戯曲ということに驚かされる。
    (上演時間1時間45分 休憩なし) 

    ネタバレBOX

    舞台美術は 中央にテーブルと椅子、上手にベンチのような椅子、下手奥に机のような置台と壁に大きな鏡。上演前から男が俯いている。そして波の音や船汽笛が聞こえる。全体的に昏く重厚感が漂っている。

    舞台は 峡湾に臨むアルヴィング夫人の屋敷。彼女は愛のない結婚生活を否定しつつも、因習的な固定観念に縛られて放縦な夫から離れらずにいた。夫が亡くなり10年、彼の名を冠した孤児院の開院式の前日から物語は始まる。夫の偽りの名誉を称える記念式典を前に一人息子オルヴァルがパリから帰ってくるが、因習の幽霊がふたたび夫人の前に現れる。勿論「幽霊」は比喩であり、公演では2つを示唆しているよう。

    1つは、この地での因習や慣習といった前例踏襲といった目に見えない仕来り。かつて夫の放縦に耐えかねて牧師 マンデルスの元へ逃げたが、夫に使えるのが妻の役目と突き放された。夫は召使の女を犯し、それを目撃したアルヴィング夫人は 悪影響を心配し 7歳の息子をパリへ。そして召使が産んだ子が、今 使用人として働いているレギーネ。つまりオルヴァルとレギーネは異母兄妹、何も知らず 悪病に侵された兄は妹に好意を抱き一緒に暮らそうとするが…。もう1つの「幽霊」は 遺伝ー父の放縦は息子に受け継がれ、パリで放蕩な生活を送った。それを共同生活で多くの交友関係といった事から におわせる。放縦な夫は亡くなったが、愛息が忌まわしい「幽霊」を受け継いでいたという皮肉。

    この劇は「過去」が起点になっており、それを明らかにするだけではなく物語の回転軸になっている。「幽霊」という目に見えない因習等から逃れようと足掻くアルヴィング夫人、しかし感情はその環境から抜け出せないといった奇妙さ。フランス古典劇の「三一致」の時空の中に回顧という「過去」の目に見えない「幽霊」を見事に立ち上げた。自由を奪われた閉塞感、そんな環境下では能力を発揮出来ない という悪循環に陥る。一方では因習、建前という鎧で身を固めた自己保身、それが宗教(牧師)の言葉となる。

    照明は状況を効果的に表す。例えば孤児院が火事になる朱色、時間の経過を表す諧調、そして最後 アルヴィング夫人が愛息オルヴァルを抱きかかえ、日が昇り その陽の中で2人はシルエットといった余韻付けは見事。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2025/03/26 00:18

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