ハッピーケーキ・イン・ザ・スカイ 公演情報 あまい洋々「ハッピーケーキ・イン・ザ・スカイ」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    「さまざまな『暴力性』を総括する群像劇」

    ネタバレBOX

     「今ね、秘密の部屋を作ってる/その部屋ではなんでもできるの、誰にも邪魔されない、誰にも脅かされない。私だけのとっておきの場所なの」

     父親から虐待を受け児童養護施設に入っている七原千波(結城真央)は、近い境遇にあった同級生の新田仁子(チカナガチサト)にこう打ち明けていた。このあと千波は行方不明となり、8年後に彼女の白骨死体が見つかる。虐待を受けた女子高生はなぜ死ななければならなかったのか。千波を取り巻く人々の邂逅が、誰しも持ち得る「暴力性」の是非を我々観客に突きつける。

     千波の事件を追うルポライターの高務(櫻井竜)は、現在は荻窪のキャバクラ「パライソ」のキャストとして働く仁子や黒服の音弥(平林和樹)らに接触し、インターネット上にセンセーショナルな記事を投稿している。他方で千波の元同級生のひとりで駆け出しの映像作家の乙倉(松村ひらり)は、事件を題材に映画を作ろうとして元同級生たちに連絡を取り始めていた。千波と友人関係にあり現在は児童養護施設で働く綾瀬敦(松﨑義邦)は、乙倉から取材を申し込まれ戸惑いを隠せない。元同級生たちの間に広がった波紋は少しずつ重なり、やがて千波が好きだったアイドル「レモンキャンディ(前田晴香)」に結びつくことになる。

     事件の真相を追い世に出す高務と、千波を弔うために事件を映画化しようともがく乙倉を見ていると、マスメディアの公共性や表現が持つ暴力的な側面を考え直さざるを得ない。自身の体験をもとに創作活動をしている作者本人が己を総括しようとするこの真摯な主題に、私はまず心を打たれた。寝た子を起こす行動が他者の古傷をえぐることになりかねないことはもとより、千波の元同級生たちのなかには、思いやりのつもりでかけた言葉が千波を傷つけることに繋がったのではないかと悩む者たちがいた。ジャーナリスティックな視点な視点に加えコミュニケーションなど社会心理学的な視座を感じさせる意欲的な作劇である。高務のライターとしての苦悩や、職員の視点から感じた児童養護施設の生活を敦に語らせるなど、主要人物の心のうちを独白させることで多面性を出そうとしていたことにも好感を持った。ただし作者の主張が明確すぎるため、考え方の異なる登場人物による対話のズレよりも合致地点へ収束していく過程が見えすいてしまい、図式的になってしまった感があったことは指摘しておきたい。

     作者自身が手掛けたケーキを模した台の舞台美術をうまく使い、家、キャバクラ、ライブ会場、児童養護施設などテンポよく転換する鮮やかな手つきも本作の魅力である。前田晴香による実物のアイドルさながらのパフォーマンスや、唯一の部外者であるパライソのキャストのタルト(百音)による夜の店の悪ノリなどが、ややもすれば観続けることがしんどくなりそうな場面で息を抜く役割を担っていた。

     当事者の取材や関連資料を相当に読み込んだうえで創作した形跡が伺える一方で、児童養護施設の仕組みや日本の福祉の問題点を台詞で説明してしまうなど、学んだことをそのまま出してしまっている箇所が散見していた点は残念である。そして登場人物が多くその一人ひとりが雄弁であるため、作者の明確な主張の方向へ進んだ結果やや説教臭くなってしまった感もあった。パライソに全員が集結し千波の事件について対話するくだりでも十分な重量があったが、そのあとに後日談がついたことで感興が削がれてしまった。作者が書きたいことを詰め込んだ結果だとは思うが、もう少し削ることもできたのではなかったか。
     
     些末な点ではあるが、高校時代の千波が児童養護施設の職員に作ってもらったと喜んで開けた弁当箱をひっくり返してもなんの反応もしなかったり、終盤のパライソの場面で音弥がシャンパンコールを切り出すくだりでフッと緊張が抜けるなど、役の性根とズレたアクシデントが目についた。いずれも初日ゆえのことだったと思いたい。

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    2025/03/22 18:54

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