実演鑑賞
満足度★★★★
オフィス再生の「正義の人びと」でも作家役で登場していた長堀氏がタイプライターの前で語り始め、そう言えば・・と。題名だけは大昔から(カミュ作でお馴染みの文庫版もあったし)耳馴染みのある「カリギュラ」の内容は全く知らなかった。女優が扮したカリギュラの独白が、権力者の孤独、人間の真実、哲学的難問の領域に踏み込んだ事を台詞の端に滲ませる。「カラマーゾフの兄弟」(未読だが)で問われる「全てが許されるとしたら、人間は・・」という仮想の問いを実地検証できる絶対権力者は、何を選択するのか・・この問題設定をストーリーから汲み取るまでにやや時間を要した。大量の書物が置かれたサブテレニアンの黒い空間、紗幕の使用等、演出が勝ったステージであったが、この劇場の客席の最上段(一列目、二列目、三列目まで急峻な傾斜がある)に座ると、俯瞰の目線となり、趣向が「見えてしまう」ので少々戸惑った。
今少し低い目線で役者や物たちを水平に眺める想定で、演出が施されたのでは、と推量した。立体的な視覚情報が、役者の台詞への集中を幾度も途切れさせたような。(単純に自分の身体条件によるのかもだが..)
その点が見終えて惜しく思った部分だが、最後には高揚をもたらしていた。そして(例によって)原作を読みたくなった。