アンナの銀河 公演情報 演劇集団nohup「アンナの銀河」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★


     板上はホリゾントに黒幕を設え、その手前センターに箱馬をキチンと8個行儀よく並べてあるほか、板中央に1個。
    客席側の縁に丸椅子3脚が等間隔で置かれている。いつでも小道具の移動だけで手軽に場転できるレイアウトだ。

    ネタバレBOX


     物語は宇宙人の地球侵攻により、地球の資源や彼らにとって有益な総ての物が統制下に置かれ収奪されるがままになった地球が、漸くヒトの世界統一組織を作り新たな為政者である宇宙人と交渉しヒトの延命を画策し始めた時点からの永い人類史を或るシェルターに隔離され延命を図った2つのファミリー史を描く形で描かれる。シェルターで暮らす登場人物は、木の川家の4人とゴライ家の3人及び教育を担当する教師1人。シェルターの窓からは広大無辺な銀河が見える。
     科学的には、現在の我々地球人が持つ物理学からみると荒唐無稽な部分も多いが、若い人が劇団メンバーの殆どを占め自由な発想で想像力を働かせて描いた作品として楽しめる。
     さて物語のあらましを説明しておこう。地球の実質的支配者となった宇宙人の持つ科学技術は人類のそれを遥かに凌駕する為、戦えばたちどころに滅ぼされることは明白。そこで交渉に持ち込むことでは人類も漸く国家という共同幻想を排し地球人としての纏まりを見せた。然し永遠に従属させられることは肯んじえない。そこで極めて長時間(何億年というレベル)での長期戦計画が地球人代表組織を中心に計画され秘密裏に実行された。今作で描かれるのはこの実験に組み込まれた家族たちの幾億年にも亘る生活史である。この長い年月の間に地球人は宇宙人の技術を多く学び取り入れつつ独自の進化を遂げた。(今作では移動スピードが光速を越えたり、人間は如何にサイボーグ化しても生身の生体部分は150年程度しか維持できないとの定説を無視し「永久」を生き得る存在と措定されている)
     ところで今作の白眉と称すべき部分は、シェルター内で発生した疫病によって殆どのメンバーに死が訪れ、たった独り残された主人公、アンナが発狂もせずに絶対孤独の央で自己認識を保ち(即ちアイデンティティーを保ち)続け、その先に希望を見出すことができるのか? という処迄描いていることである。通常絶対孤独の中でヒトは自己がヒトであることも、自己と自己に似た他者という存在が存するという事実も認識することは出来ない。何となれば比較することでしか己を認識することは不可能であるからだ。この点は深く考えれば納得のゆく所だろう。少なくとも自同律に縛られ虚無感に苛まれて発狂するか、発狂せずに虚無に耐え続けるか。そもそも己という概念が存在し得るのか? 或いは埴谷雄高が「死霊」で描いた境地に達するか(埴谷の場合は絶対孤独に近い状況ではあったがそうではない)しか思いつかない。
     何れにせよ、希望を抱くという行為は前段の問題に答えを見出す作業を為した後の問題であるからより実現性の度合いは低くなると考えるのが通常であろう。然し今作は、この実に困難な問題が為され、人類に希望が残っていることを示した点がグー。
     蛇足:上記を改善するには、脚本に伏線として教育係の老人が某図書館所蔵本の総てのデータを所蔵しており、その資料が発見されてアンナが読んでいたなどということを示唆するような部分を埋め込むことも有効だろう。

    0

    2025/01/23 19:07

    2

    3

このページのQRコードです。

拡大