七曲り異聞・隠れ処京香 公演情報 劇団芝居屋「七曲り異聞・隠れ処京香」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    タイトルから何となく想像できたが、第41回公演「七曲り喫茶紫苑」の続編(1年後)。その公演を観ていても いなくても楽しめる作品。同時に劇団芝居屋のしたたかさを感じる。コロナ禍で演劇界は大打撃を受け、たぶん今もその影響はあるのではないか。その原因となったコロナを題材として劇作する。その意味で失礼ながら転んでもただでは起きない、そんな強かさを感じるからである。しかし それは重要なことであろう。

    少しネタバレするが、上手に平台を積み重ねただけの ほぼ素舞台。その最小限のセット、そこにタイトルー隠れ処京香という妙味が生かされている。物語は ほんの数時間の出来事、そこに前作から引きずっていた蟠りを打ち明ける。過去(コロナ禍や駅前再開発など)と決別し未来に目を向ける といった逞しさ、まるで人生の応援劇といったところ。

    さて、観劇当日は断続的に雨が降るという不安定な天気、場内はけっこう蒸し暑かった。終演後 外へ出た観客は口々に涼しくて気持良いと。芝居でも冒頭 ビルオーナーの間寛子(堀江あや子サン)と七曲り「万年青」女将の影山典子(永井利枝サン)の会話シーンで、堀江さんの顔が汗で…。何気なく汗を拭きふき演じていたが、少し気の毒だった。
    (上演時間1時間35分)

    ネタバレBOX

    場所は、東京郊外にある私鉄沿線の北口飲食街…駅北口から少し奥まったところにある5階建(ハザマ)ビルの地下室。始めはスケルトン物件かと思って観ていたが、実はこのビルのオーナー夫妻の私的社交場。夫婦の趣味は社交ダンス、しかし他人に見せるほど上手ではない。そして最愛の夫はコロナで亡くなった。寛子は夫との良い思い出は胸に仕舞い、大切なこの地下室を貸すことに。

    一方 借りる伊崎京香(齋木亨子サン)は、以前七曲りで割烹料理屋を営んでいたが、突然 行方を晦ませた。実は この女将も夫をコロナで亡くしている。1年前 七曲りにあった飲食店のうち何軒かは移転することになり、その送別会というか激励会を開いた時、コロナに感染したと。そういえば 三密は避けるように言われていた時期。感染経路は定かではないが、そう思うことで気が滅入ること、どこにもぶつけることが出来ない憤りや悔しさを紛らわせてきた。七曲りの仲間に会った時、素直に喜べない複雑な心の内を打ち明ける。

    この2人の未亡人を通してコロナ禍における何とも言えない理不尽さを改めて考えさせられる。死に目にも会えず、病院から火葬場へ、そして遺骨になって対面する。その「骨壺が温かかった」という台詞に実感がこもり 嗚咽がもれる。
    この地下室に割烹料理屋を開店するにあたって 清めの儀式をする件は少し滑稽。取り急ぎインターネットで調べたやり方で執り行うが…。そこにも京香姐さんのために 何か手伝いたいといった温かい気持が透けて見える。

    先にも記したが、セットは無く 地下室という設定から 音響も時々聞こえるエレベーターの昇降音ぐらい。まさに役者陣の演技力で物語を紡いでいく。芝居屋は「覗かれる人生芝居」というコンセプトの下に役者中心の表現を模索していると。その真骨頂ー市井の人々の暮らし、その中での人情をしっかり観せてくれた。
    次回公演も楽しみにしております。

    0

    2024/10/25 17:36

    1

    0

このページのQRコードです。

拡大