『本棚より幾つか、』-短編演劇祭- 公演情報 楽園王「『本棚より幾つか、』-短編演劇祭-」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    【Bプログラム】観劇。
    この時期 仕事が忙しくなければ、Aプログラム・特別プログラムも観たかった と思えるほど面白かった。残念。

    日常にある ちょっと奇妙で不思議な、それが今の時季にピッタリと思える演目選択の巧さ。第一の狂言「赤い靴」 第二の狂言「アオイハル」そして第三の狂言「紙風船」(作:岸田國士)であるが、「赤い靴」と「アオイハル」は何となく関連しているような感覚。受付時に3作品の紹介というか解説を貰ったが、これが名刺サイズ、その裏に小さい字でビッシリ書かれている。会場内の薄暗い中で読む気もせず、帰りの電車内で読んだが、なんと「アオイハル」は「赤い靴」の前日譚とある。物語に直接的な繋がりがないとあるが、何となくそんな気にさせるところが妙。

    また「紙風船」は 何回も観ているが、今回は音響・音楽の効果によって、淡々とした日常に持ち込んだ虚実、それをメリハリの利いた物語に仕上げており実に巧い。3編とも二人芝居で、淡々とした会話が進むにつれ 滋味溢れるような心情が浮き彫りになる。しかし 物語を纏っているのは先にも記したが奇妙・不思議という世界観。この独特な味わい深さが 本公演の魅力だろう。3編に共通しているのは「赤」、そして舞台セットの小物に林檎を置くなどの拘りを見せる。

    ちなみに客席は変形配置で、どこが正面でどこに座るか迷うが、そこはしっかり誘導してくれるので心配ない。
    (上演時間1時間20分) 

    ネタバレBOX

    舞台美術は 中央斜めにベンチを配置し、その奥の壁際に机と椅子2脚。机の上にライト・花瓶そして林檎。
    共通の「赤」…「赤い靴」はタイトル通り、「アオイハル」も台詞に赤い靴、「紙風船」は赤い毛糸を編む。

    「赤い靴」は、ベンチに座りバスを待っている女(役名:バス停で待つ女)、そこへ赤い靴を履いた女(役名:後からやってきた女)が ゆっくり近づいてきて 「バス 来ませんね」と話しかける。それから他愛もない世間話から好かれる女性像へ話題は漂流していく。何処に辿り着くのかと思ったら、赤い靴の女はバスを待っている女の夫と浮気をしており、妻がどんな女なのか確かめに来たが…。実は不倫相手の男に殺され、霊(魂)となって現れた。「赤い靴」に因んで童話や童謡の話も。

    「アオイハル」は、女子高生の部屋に男子高生が勝手に上がり込んでいる。学校では ほとんど話したこともなく、なぜ此処にいるのか。男子高生は彼女から「好きではありませんでした」という手紙(ラブレター)を貰ったと告げる。それにしては過去形で文面も相応しくない。彼は学校に侵入した男が教師を襲い それを助けようとし、逆に殺された。此処にいるのは霊で、淡い恋心を抱いていた彼女が棺に入れた別れの手紙。

    「紙風船」は、何回も観ており 物語としては知っていた。日曜日の昼下がり、暇を持て余した新婚1年目の夫婦の とめどもない会話。何時しか二人は鎌倉へ空想の旅へ出る。その情景は 執筆当時のもので古い感じがするが、平々凡々とした暮らしに、ちょっとした刺激を求め楽しむ二人。鎌倉旅行はテンポよく展開し 軽快なクラシック音楽が流れる。そして音楽が変わり 日常の光景、隣家の子供と紙風船で遊ぼうと…。

    3編は独立した物語であるが、何となく繋がりが感じられる。勿論この時季の「霊」を扱った話で、それは怖いという存在ではなく、この世への未練をコミカルに描いた といった印象だ。けっして暗く後ろ向きではなく、むしろ前向きでカラッとしている。どこか吹っ切れた感じで、霊でありながら、生き生きとした人物像が立ち上がるから不思議だ。最後に「紙風船」、新婚の生者2人がこれからの人生を歩んでいく、そこに日常の暮らしという地歩が描かれ前の二編との対比が鮮明になる。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2024/08/06 06:18

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