息子 公演情報 劇団演奏舞台「息子」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

     名作戯曲上演シリーズと銘打った公演のうち、今回は小山内 薫作の「息子」を上演。演出は池田 純美さん。登場人物は火の番をしている老人に鈴木浩二さん、捕吏にシンセサイザーの演奏も手掛ける浅井星太郎さん、若い男・金次郎に森田隆義さんの3名。時は江戸、季節は冬。雪の降る寒い夜。華4つ☆

    ネタバレBOX


     板上やや下手には半畳程の畳が腰掛けの位置に据えられている。その畳の前に炭を埋けた火鉢。場面によって火の番と書かれた障子が火鉢の下手に置かれたり、上手に置かれたりする。上演開始前及び終演後舞台の上には降り注ぐ雪模様が映像及び雪籠を同時に用いて表現され背景に生演奏が入るので情感たっぷりだ。
     ところで今作上演は可成り難易度が高い。というのも時代背景や幕府の無宿者対策は可成り酷いものであったから、その事情を知らずに観ても金次郎の運・不運に関する言い訳の意味する処を大方の観客は理解することができないであろうからである。まあ、本質を見抜く目を持っている者であればこの傾向は現在でも変わることが無かったようであることが明々白々ではあり、所謂お上は下々を支配するのが大好きと見え訳も分からぬエリート意識をかさに着て庶民に対して実に冷淡な態度を取り続けている事実を観れば自ずと知れる処ではあるが。
     例えば渡世人の一宿一飯の恩義という言葉も戦国時代が終わり太平の世が来て尚人口の大部分を占めた農民の土地所有は長子相続に限られ他は渡世人になるか、職人になるかの選択が殆ど総てであった。而も無宿人に対する取り締まりは苛酷を極めたから季節や地方によっては一宿一飯はそれこそ大袈裟で無く命の存続に直接関わる大事で在り得たという状況が想像できる訳だ。今作の歴史的背景は一切語られていないから、小山内 薫が、私の想像する通りに状況を設定していたか否かは不明であるが、また金次郎は商人を目指して西へ行ったのであるから事情は異なるのかも知れないが、浪速商人と堺商人の質的差なども今作の背景に大きく関わっているかも知れない。何れにせよ、当時の世相、社会構造や制度を良く調べなければ、まともに今作を上演する為の準備すら難しい作品だとは感じる。而も良い役者というのは、先ず己をきちんと生きている者をいう。即ち自らを弁えている者であるということだ。これが中々難しいことなのだ。ソクラテス流に言えば汝自身を知る、という酷く難しい哲理である。これができて初めて役を演じても自然に見え、最も芝居で難しい間の取り方もまさしく自然な間として採ることができる。今回、火の番をしている老人と岡っ引き役のベテランお二人は流石にこれが出来ているが金次郎役はご本人の実年齢は兎も角、役の上では19の歳に江戸を発ち9年後に戻っている訳だから現在の満年齢で謂えば27歳。この年齢で己を知ることは至難の業である。この点間の取り方がやや不自然であったように思う。無論、沢山の嘘を吐いてもいる訳だから心理的な揺れも微妙に出さねばならず難しい役ではあるが、この点を克服できたなら更に良い作品になったと思われる。
     以上自分の感じたことを述べたが、この劇団の凄さはこんなに難しい作品に果敢にチャレンジし僅かな瑕疵は在るにせよ作品の奥深さや小山内 薫が描きたかったことは、キチンと観客に伝えるだけの作品にしている点にある。

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    2024/08/04 05:56

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