駈込み訴え 公演情報 中瀬古健「駈込み訴え」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    面白い、お薦め。
    中瀬古 健 氏による一人芝居、熱演。
    「可愛さ余って憎さ百倍」という言葉があるが、物語(小説)は イスカリオテのユダのキリストへの狂おしい思い〈思慕と裏切〉を大胆に解釈し語られる。嫉妬、愛憎相反するような感情、その複雑な思いを繊細に演じる。それによって ユダの心情が抒情豊かに描かれる。
    (上演時間1時間15分)

    ネタバレBOX

    舞台美術は 中央に平板を組んだ立ち台、その後ろにシンク、上手に小姿見、下手に脚立が置かれている。舞台の前後を照らす天井の小さな照明が効果的。壁・柱や天井に小説の一節または文が書かれた貼紙。また劇中、講談風に語(喋)る場面では釈台のようなものを利用し観せ聞かせる。シンプルなセットの中を自由自在に動き回りユダの心情を切々と表現する。

    冒頭は 時代がかったような語りから始まり、自分が如何に主に尽くし奉仕してきたか。それでも報われない思い 仕打ちに憤る。自分が これほどまでに慕っているのに…。あろうことか、主は 貧しく教養もない百姓女に恋をしたと邪推し嫉妬する。自分の奉仕に対する見返り、その思慕が受け入れられないと悟った時に芽生えた裏切りの感情。心の変遷とその複雑な思いが順々と展開される。フードを被ったキリストは「おまえたちの中の一人が私を売る。その者に 1つまみのパンを与える」、一方 ユダは「私はしょせん商人。賤しめられている金銭であの方に復讐、銀三十」旨、その対の台詞に心魂が震える。

    何となく、暗鬱なユダという人物の感じが 作者・太宰治に似ているような気がして興味深く観た。ユダという人間の懺悔録(自己憐憫・自己憎悪等)から奥深く印象的な公演に仕上げている。何故、ユダがキリストを銀三十で売ったのか、謎に包まれた伝説に材を得た原作。小説を読むのと違って、生身の役者の血肉を通してユダの感情・人間性をリアルに立ち上げた。公演は彼の演技力で成り立ち、その迫力・緊迫感に圧倒される。

    暗転による場面転換が絶妙で、情景・状況の変化が分かり易い。またロウソクに火を点し 水を流すなど観せ方に工夫を凝らし飽きさせない。ラストはローリング・ストーンズの音楽で余韻を残す巧さ。
    少し気になったのは、下手の壁に寄り掛かるような演技の時、見切れになるような。台詞にある「堪忍ならないor堪えられない」(⇦遠くて不正確)と書かれた貼紙のある柱が出っ張っているため、後部客席からだと壁際の演技が観えにくい。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2024/07/07 16:48

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  • タッキー様
    ご来場いただきありがとうございました。
    限られた空間と道具の中で太宰治の作品をどう表現するか、試行錯誤した上の今作でした。少しでも楽しんでいただけていれば幸いです。
    今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

    2024/07/08 01:06

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