デカローグ7~10 公演情報 新国立劇場「デカローグ7~10」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    E ⑩⑨ 演出:小川絵梨子

    ⑩「ある希望に関する物語」
    ⑧に出て来た切手コレクターの男が亡くなっている。彼の子供である兄(石母田史朗氏)とパンク・バンド(?)のヴォーカルをやっている弟(竪山隼太氏)が遺品を整理する。
    弟は何故かGuns N' Rosesの1991年発売『Use Your Illusion』Tシャツ。歌の内容はデス・メタルっぽい。彼の音楽性に疑問符。
    父親のコレクションの価値など全く判らなかったが、実は国内有数のマニアで世界的にも知られた存在。とんでもない莫大な資産であることを知って二人の目の色が変わる。

    MVPはドーベルマンのセシルちゃん(湘南動物プロダクション)。可愛い。動物と子供を出しておけば皆優しい気持ちになれる。
    凄くポップな話で観客受けが良い作品。

    ⑨「ある孤独に関する物語」
    性的不能の為、性行為はもう一生出来ないと診断された外科医(伊達暁氏)。それを妻(万里紗さん)に告げると「離婚はしない。SEXなしでも夫婦として暮らしていきましょう。」との温かい言葉。だがその裏で若い大学生(宮崎秋人〈しゅうと〉氏)と不倫を重ねていることを外科医は知ってしまう。

    伊達暁氏天性の喜劇調の明るさ。堺正章や柴田恭平に通ずるこのキャラがコメディーリリーフとして機能し、陰陰滅滅たる物語を軽やかに奏でてくれる。自転車のシーンが爽快。
    心臓の手術を受ける声楽家志望の少女(笠井日向さん)のエピソードが印象的。

    面白かった。
    是非観に行って頂きたい。

    ネタバレBOX

    亀田佳明氏演ずる“天使”は原作とは別な役回りを与えた方が良かったかも知れない。パンドラの匣から最後に出て来たエルピスのように。自分がこの人間世界で何を為すべきか模索しているような。

    ⑩全部コレクションを盗まれて途方に暮れる二人。互いを疑って仲違い。兄が腎臓と引き換えに手に入れた「赤のメルクリウス」の3枚セットだけ残る。だが二人は何故か切手蒐集の魅力に取り憑かれてしまったようだ。これから価値の出そうなシリーズ切手を郵便局で買う。久し振りに再会して見せ合うと兄弟とも買った物は同じ奴。二人で大笑い。
    ※仮眠室に誘った看護婦も実はグルだったようだ。

    希望はいつも空っぽの自分の胸の底に転がっている。自分を許し、他人を許せ。

    ⑨万里紗さんのキャラクターが謎。不能な夫と離婚はしたくないが若い男とのSEXは望む。全部バレても、ある種平然として自分を肯定している。養子を貰ってやり直そうと言う。この矛盾した人間像がリアル。ずっと他人を使って自分の心の中を探っているような生き方。
    伊達暁氏は妻を愛しているのか別れたいのかもう判らない。自殺を選ぶが結局は死に切れない。一本の電話線で遠く離れた二人の心がか細く繋がるラスト。

    人は皆孤独で誰もが生きる意味など見出せない。世間にはやってはならないこと(『十戒』)ばかりが掲げられて罪と罰とが溢れている。まるで我慢比べのような人生。誰が一番我慢強いのか競い合う耐久レース。勝者を誰が判定するのか?そこには誰もいないだろう。そして人間は“愛”を発明した。“愛”とは大事に思う気持ち。それがあれば他人と繋がれるかも知れない。他人に触れられるかも知れない。受話器越しに互いの存在を確認し合えるかも知れない。誰かを大事に思う気持ちがまだあればもう少し生きていける。

    SION『街は今日も雨さ』

    久し振りにお袋に電話を掛ける
    雨降る街の赤茶けた公衆電話から
    お袋は静かな声でたった一言
    「生きてなさい」そう言った

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    2024/07/05 11:05

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