サーフィンUSB 公演情報 ヨーロッパ企画「サーフィンUSB」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    描かれた世界が興味深かった
    今回はセットが大きかったので、芝居と劇場のフィット感は紀伊國屋ホールの「曲がれ!スプーン」のときほど悪く感じなかった。芝居の質そのものはあのときと変わらないのだけれど。
    今回、ありがたかったのは、私の観た回は前回のように「笑い屋」のような観客がいなかったことだ。役者が台詞を言う前に爆笑するファンに囲まれて観るのは興ざめだ。
    体感上演時間が短く感じられ、疲れない。反面、物足りなさも感じたが、これがヨーロッパ企画の特色なのだろうか。
    ただ、描かれた世界が個人的に非常に興味深かった。

    ネタバレBOX

    舞台美術が空想組曲の「遠ざかるネバーランド」のフライヤーに酷似していたので驚いた。さらにこの芝居の企画が公表されるずっと以前、20年以上前から東京が水没する夢をときどき見る。ビルの窓から外を覗くと、東京の街が水没しており、何台もの自動車が沈んでいくそばで、なぜか楽しそうに人々がサーフィンに興じている夢で、「こんなときにどうしてサーフィン?」とつぶやくと、同じように窓の外を見ていた人が「サーフィンするしかないでしょう」と答えるのだ。今回の芝居の内容をまったく知らずに出かけたので、自分の夢の内容にそっくりで、思わずゾッとした。
    発達した現代文明の象徴のような一種の電脳都市「アキハバレ」を臨む、隔絶され、水没した都市の廃墟になったビルの屋上に住み、サーフィンに興じる男たち。実際は悲惨な状況だと思うが、ノーテンキで緩いコントのような会話が続く。自殺しようと「アキハバレ」から来たOLも、彼らの仲間に入ってサーフィンを始める。新参者の彼女に、ハンバーガーやフライドポテトの食べ方を薀蓄を交えて教えるバカバカしい場面は、昔の軽演劇を思わせる。
    「アキハバレ」は工業排水をたれ流すなか人魚も生まれ、取り残された者たちの負け惜しみなのか、男たちは「アキハバレ」を軽蔑している。そんななか、「アキハバレ」から、OLが勤めていた企業の男たちがやってきて、個々のサーフィンが記憶できるUSB仕様の特製サーフィンボードを見せ、回線につなぐと、ネットを通じてサーフィンの記憶を不特定多数の人がダウンロードできる仕組みを説明する。協力のお礼として、「アキハバレ」にある焼肉店の優待割引券が贈呈されると聞いて、「その優待のサービスはどの範囲まで適用されるのか」と男たちが細かい質問をする場面もまた、庶民的なせちがらい現実を投影していて可笑しい。
    結局、男たちはこのサーフィン・ダウンロードに取り込まれ、自分のダウンロード数にこだわって競い、熱中していく。「好きだからサーフィンしてるんじゃないんですか」とOLが本末転倒を指摘しても、耳を貸さない。このあたり、虚構の中で競争心を生み出すネットの魔力のようなものがわかりやすく表現され、人間の「さが」がよく出ていると思った。また、この廃墟ビルのひときわ高い所に住み、水没し始めたときに果敢に波に挑んで最後まで残ったという伝説のサーファー「エディ」が、実はその人物ではないとわかり、プレッシャーから解放されたと喜ぶ場面も、「作られた虚像のアホらしさ」を象徴している。最後は、企業の男二人も水に入ることになって終わる。虚構が現実に飲み込まれていく皮肉を感じた。話としてはシンプルで、思わぬ方向にころがって気分がどんどん乗っていくコメディーではない。
    私が自分の夢との酷似以外に興味をひかれたのは、20世紀末に盛んに使われ始めた「電脳都市」の概念と対比するところの廃墟、そのイメージ構築にかつて自分が仕事で関わっていたが、この芝居はまさにその構図だからだ。その廃墟こそ未来の東京ウォーターフロントだと当時から指摘する識者もいた。
    事実、銀河劇場のある天王洲アイルなどは、のちに東京都が中止した世界都市建築博覧会を機に、一大電脳都市に進化する予定だった。バブルがはじけ、ウォーターフロントの開発構想は次々に中止され、周辺には廃墟化した建物もある。地震の際の液状化、地球温暖化など、いまだ都市における「水」の恐怖は去らない。この芝居の「アキハバレ」は電脳都市そのものだし、あながちSFの世界だと笑ってもいられない。
    芝居の表層部分を見ると、サーファーたちの会話の雰囲気は「曲がれ!スプーン」の超能力者たちとあまり変わらず、このメンバーだから面白いのであって、役の面白さとはまた違うような気がする。その点、好き嫌いが分かれるかもしれない。

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    2010/08/16 12:13

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  • KAEさま

    UPが遅れてすみません。KAEさんの劇団の分析を拝読し、すごくためになりました。私もヨーロッパ企画は好きですし、あの会話の流れや雰囲気も好みですが、その部分だけを見ると、いつも同じ感じで、飽きるかもしれない、という危惧もあります。「スプーン」にも諷刺はありましたが、今回よりキャラクターが書かれてて、今回は諷刺の部分がより迫ってきた感じです。

    >あの、焼肉やのサービス内容に拘る場面も、本当に、愉快でした。

    そう、ああいうことって、庶民としてはついつい気になって聞きたくなるものです(笑)。笑えたのは、「優待券遣って食事したとき、また、優待券もらえるんでしょうか?」という質問。そういうのって、店によって出すところもあるから(笑)。

    >「遠ざかるネバーランド」のフライヤーにそっくりで、驚いたことも、悪夢の内容も、似通っていて、

    あのフライヤー、KAEさんも書いておられますよね。秋葉原ということも、電線のたれさがったところもそっくりですものね。ギョッとしました。
    でも、自分の夢に出てきたサーフィンをやっていたとは!驚きでした。私なんか、サーフィンできないので、困るだろうなー。夢の中でも「私はできない」と思い続けてたんです(笑)。

    >やはり、きゃるさんとは、相当共通性があるようですね。(笑)

    私はKAEさんのように、演劇に対して純粋ではないですし、見方も浅く、お恥ずかしいですが。

    2010/08/16 17:37

    きゃる様

    あー、良かった!
    観にいらした筈なのに、なかなかレビューがアップされないので、お気に召さなかったのかなと思っていました。

    この劇団は、ずいぶん以前から、名前は知っていましたが、たまたま、劇場中継で、チラッと観た限りでは、あまり面白くなさそうと、思い込み、ずいぶん出会いが遅くなってしまいました。

    ゴジゲンのアフタートークで、上田さんの人間性に触れ、あーこの方なら、ただの薄っぺらな芝居は書かない筈と、直感し、それで、これで、3回目のまだ新参ファンですが、きゃるさんの御感想が、何から何まで、自分とそっくりで、とても嬉しくなりました。

    あの、焼肉やのサービス内容に拘る場面も、本当に、愉快でした。
    「遠ざかるネバーランド」のフライヤーにそっくりで、驚いたことも、悪夢の内容も、似通っていて、
    やはり、きゃるさんとは、相当共通性があるようですね。(笑)

    2010/08/16 14:59

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