express 公演情報 PLAT-formance「express」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    ハイセンスでハイグレードすぎる連作コント集。
    フライヤーに『これはコントの広告です。』なんて詠っているものだから、てっきりボケとツッコミに役割分担がなされていて、「ショートコント!」という前振りからネタがはじまるのを予想していたのだけれども見事に裏切られた。

    たとえば今日日のバラエティ番組で見受けられるような一発ギャグ的なウケ狙いをかましたり、あきらかに常軌を逸しているキャラクターに頼って笑いを取ろうとするお手軽さはまるで皆無で『オチ』に重点を置くというよりも、あるシチュエーションのそれぞれの会話の掛け合いから生まれる『ズレ』から『おもしろみ』をガシガシと広げていくような。
    で、そうしたなかにさり気なく、人生の思わぬアクシデントだったり、何とも腑に落ちない不条理さだったり、誰かの誰かに対する想いが織り込まれていたことが、すごくよかった。
    妙な共感を得ようとせずに、描きたいことをスマートにはめ込む辺りも都会的で、作家のキラリと光るセンスを感じた。
    そしてあれだけの広い空間をたったふたりの役者で表現したことにも驚かされる。また、フライヤーから抱いた浮遊感のある、不思議な世界というイメージを美術、照明、音楽、衣装が盛り上げていた。

    所々気になる点はある。けれどもそれを差し引いても圧倒的におもしろかったし、コント界の新しい夜明けを感じた。

    ネタバレBOX

    入口から対角線上に構築された名もなき場所のとある駅。
    線路はなく、プラットフォームだけが真ん中に浮かび上がるようなつくりになっていて、浮世離れしている感じ。天井には、重厚感のある鉄塔が組み込まれ、かなり本格的な舞台装置。

    物語は、終電に乗るためにホームに駆けこんでくるサラリーマン風の男性(安藤)と鉄道員(吉田)のやりとりからはじまる。
    ここでの会話は、この沿線は今日で今日で廃線である、というアクシデントによって、電車に乗り遅れるだけでなく、交通手段も失ったと嘆く悲劇的な男性に、本日限りで仕事を失う自分よりはマシではないか、と励ます鉄道員の悲喜が主。とりわけ斬新な話ではないけれど、冒頭で”もうすでにひとを乗せたからこの男性は乗れないのだ”という後々明らかになる意味深な伏線(キーワード)を張っている導入部としては悪くないとおもう。

    一度暗転になり、上手側の壁に取り付けられた電光掲示板に今回のタイトルと団体名、そして電車に乗り込む際の注意事項が表示される。
    私の座った席が空調が近く、音響があまり聞きとれなかったのだが、この時列車の通過する音はあったのだろうか。定かではないのだが、暗転時に列車の名前、列車の通過音、諸注意等を音響でアナウンスが入る方がこれから旅がはじまる予感が更に醸しだされるような気がした。

    いくつかの木箱を並べてボックスシートに見立て、先ほどまでプラットホームであった場所が、車内になると隣の席に綺麗な女性が座ることを想定してナンパの練習をする若者(吉田)が。
    どうやら客席に近い側が窓側という設定であるらしいので、観客に向かってナンパの練習をしているように見せかけるのが、なかなか滑稽である。そこへ頭にネクタイを巻いたよっぱらい(安藤)が現れて、若者の妄想は砕け散る。
    そしてさきほどの妄想をよっぱらいに見透かされ、若者は若干たじろく。
    それからふたりの話題はボックス席の間に位置するテーブルに置かれた不審な黒いバッグへ。
    中を開けてみると中には冷凍ミカンが入っていた。ふたりともこのミカンには覚えがない。爆弾が仕掛けられているのでは?と疑ったよっぱらいはミカンを剥いて調べて、窓の外へ放り投げてしまった。
    このミカンがこの作品のなかのふたつめのキーワードである。

    この後も『同じ列車』に乗り合わせた『人々』というシチュエーションから更にキーワードを投げかける。順番が前後するかもしれないが、その詳細は以下の通り。

    ・先ほどの同じ?若者(吉田)と時刻表が恋人の鉄ちゃん(安藤)。
    実はちょっとモグリの鉄っちゃんは山手線の駅名を全部ちゃんと言えなかったりする。日本一長い駅名もわからなかったりもする。それを若者に指摘される。みっつめのキーワードになるのが日本一長い駅名。

    ・浮浪者(吉田)と元車掌(安藤)の会話。
    戦争で命を落としたふたりは、この列車が戦時中に軍需鉄道として使われていたことを懐かしみ、「また来年会いましょう」と言って別れる。彼らは死者の国から年に一度だけ現世に帰ってくる守り人(霊)なのだ。
    冒頭で交された会話の廃線と敗戦を掛け合わせたようなエピソードであり、
    ふたりの会話のなかから”ひとり生きてる人間が乗ってしまったらしい”ということを示唆する。この列車は、死者の魂を乗せて走るものである、というのがよっつめのキーワード。

    ここまでに、冒頭で投げかけたもうすでにひとを乗せた列車は、死者の魂を乗せて走る列車であることがわかった。
    あとは、冷凍ミカンと日本一長い駅名がどう繋がるのか、である。

    とここで、挿話がひとつはいる。
    駅で暮らしている浮浪者(吉田)は仕事の出来が悪く会社をクビになり、妻からは離婚を突きつけられて、明日喰う種にも困っている宿なしの浮浪者なのだが、自分はまだまだ現役バリバリのサラリーマンだと信じている。
    がしかし、車掌(安藤)に連続痴漢犯として検挙されて夢から現実に突き落とされた彼は、絶望を抱く余裕もなく、ただ呆けていた。
    この話は特に本筋とは関係がないのだが、役者の技巧と脚本の完成度が非常に高く、純粋のひとつのショートショートの独立した作品として楽しめた。

    終盤、冷凍ミカンの謎が明らかになる。
    冒頭の若者(吉田)はクリス(安藤)とお笑いコンビを組んでいて、これから本気でプロを目指し、お笑いで食って行くために、クリスを連れて田舎へ帰る道中の『列車のなか』である。がしかしクリスはすでに他界していてこの世にはいない。

    クリスに会いたい一心からか、はたまた偶然からか、
    若者は死者の魂を乗せて走る列車に乗った。列車は走り、分岐点につく。それが日本一長い駅名の場所、人生の分かれ道である。クリスは過去と時間の入り乱れるサザンクロスに乗り、時空を超えて相方へ別れの挨拶をしにやってきたのだった。

    最後まで謎の残る冷凍ミカンは、これが『最後まで解けない未完(成)の物語』であるということをロジカルに掛け合わせているのだ。

    未完であるにせよ、クリスはいかにして死んでしまったのか。永遠にわからないというのは消化不良感が残る。

    しかしながらクリスが最後、満点の星空のひとつになり、expessの行きつく先が永遠の別れ、であるとするのなら、それはとても切ないことだ。
    そんなふたりは、まるで銀河鉄道の夜のジョバンニとカムパネルラみたいだった。

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    2010/08/14 01:47

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  • 遅ればせながら、ご来場&コメント誠にありがとうございました!
    こんなに細部にわたってしっかり観て頂けるお客様が居ると、
    こちらとしてもやりがいがあります!本当に嬉しいです。
    お話の解釈のされ方が、僕がオカヨウヘイの脚本から読み取ったものと異なる視点で
    組み立てられていて、「なるほど、そういう見方もあったか!」と目からウロコな気持ちです。
    こうやってお客様から色んな感想をお聞きすると、
    作品の世界がどんどん広がっていく様で楽しいですね。

    でも、テレビのお笑いとの差を感じ取って頂けたのが何より嬉しいです!
    やっぱり舞台で、お客様に足を運んで頂いて、生で向き合ってコントをするのに
    頬杖つきながらサラッと消化出来るものをお見せしても仕方ないなと思います。
    もちろん、複雑なら良いという訳でもありませんが…。
    今回はその辺のさじ加減の…もっと言うなら「演劇とコントの境界」の
    ギリギリを攻めようという挑戦だった様に思っています。
    次回公演[PUZZLE]は、もっと単純に笑えてワクワクする公演にしたいですね。
    色々課題はありますが、これからも心地良く刺激的な時間を作るべく頑張って参ります!
    今後ともPLAT-formanceをよろしくお願い致します!

    2010/08/24 14:54

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