絶望という名のカナリア 公演情報 甲斐ファクトリー「絶望という名のカナリア」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    第10回記念公演。面白い、お薦め。
    人の生きる価値とは…。答え(解)があるような無いような漠然とした問い掛け、それを舞台という虚構性を通して浮き彫りにしていく。その独特の世界観が観客の関心と興味を刺激する。人間はモノではない、そこには喜怒哀楽といった感情がある。しかし物語ではモノ扱いのようで、世間の無関心であり哀れみといった光景が見えてくるようだ。

    少しネタバレするが、物語は3つの場面で構成され 必ずしも夫々が直接的に交わることはないが、それでも交錯した展開といった感じがする。タイトルから想像はつくが、人生に「絶望」した1人の男を巡る狂気にして驚喜(語弊があるかも)、そして喪失と再生のドラマ。

    現実にありそうなシチュエーション、そこに男の孤独・悲哀といった心情を描く。全体的に澱のような不快さ、そして滑稽でありながら どこか不気味な雰囲気を漂わす。公演の面白さは、脚本・演出は勿論、表現し難い情況をしっかり伝える役者の演技力であろう。見応え十分。
    (上演時間2時間 途中休憩なし) 

    ネタバレBOX

    舞台美術は 上手に幾つかの箱馬、中央には上部から照らし出した鳥籠。

    第1に、主人公 鈴木カズオが籠から鳥を放つところから始まる。文字通り自己を解放するといった比喩のよう。物語では、解放=自殺といった描きで その行為寸前で止める。突然の闖入者による中止、そしていつの間にか カルト宗教(団体)へ入信していく。
    第2に、アイドルグループを応援するため チケットや販促品の買取り等、金が要る。そのため出張風俗として稼ぐ。間違えて鈴木宅を訪れてしまうが…これが何度か続き少し親しくなる。風俗 闇バイトに潜む依存症のような不気味さ。
    第3に、鈴木と或る研究施設で一緒だった女性が資産投資家になり、世間の注目を集めている。ある数式を用い運用に掛かる損益分岐又は高利回りが解明出来るような画期的なもの。しかし数式に不具合が見つかり、高配当が困難な状況へ。

    物語は 3つの話を交錯させて展開していくが、必ずしも全てと繋げていない。現実にありそうな内容だが、それを都合よく纏め上げないところが巧い。逆に世間で注目を浴びるカルト的な宗教団体、若者が陥る闇バイト、ハイリスク・ハイリターンというマネーゲームという社会問題を切り口にして物語を紡いだ、という印象だ。そして中心に居るのが、鈴木という中年の男。数学に興味を持ち、それを生き甲斐と生活の糧(研究所勤務)にしてきた。その後を追い数学に没頭する女ー後の投資家 山崎ヒロ(東別府 夢サン)の憧れと嫉妬渦巻く心情が怖い。

    未解決の数学問題、その解を発見することが生き甲斐であったが、先を越されてしまった。その喪失感・虚無感が生きる気力を失わせる。それが冒頭のシーンのよう。鈴木は未知のものに惹かれるよう、そこに宗教という得体の知れない、不思議な感性に惹かれたのか。数学という純粋学問を経済という悪還流と結びつける奇知。

    ラスト、鈴木カズオは、飼っていたカナリヤに<ペレルマン>と名付け籠から放つが、それは嘗て挑んでいた数学問題を先に解いてしまった数学者の名。自縛していた気持を解放するといった比喩に思えるが。果たして このまま生き続けることが出来るのだろうか(鈴木は勿論、飼鳥が野生という現実も含め)。

    本来 迷える者を救う宗教とその一方で殉教で財源を賄うための生命保険、そして更なる投資で富を築く。そこに人の生き様を絡め 怪しく虚しい人生観を垣間見せた力作。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2024/04/24 17:07

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