実演鑑賞
満足度★★★★
これは傑作だと思う。
話のディテールがよく出来ているので「これオリジナルだったら脚本家は凄い才能だな」と思ったら世界的に評価されているベストセラーだそうだ。
定年まで小学校の図工の先生をやりつつ、児童文学を書き続けた岡田淳氏。代表作『こそあどの森の物語』シリーズの第一作「ふしぎな木の実の料理法」は1994年に発表された。
全十二巻の内の第一巻が今作。第六巻を劇団四季が『はじまりの樹の神話~こそあどの森の物語~』としてミュージカル化しているらしい。それも観てみたい。
こそあどの森で暮らす様々な住人達の織り成す人間模様。白い大きなカーテンを使って場面転換を工夫。ミニチュアを活用して不思議な雰囲気のある奇妙な形の家々をイメージさせるアイディア。
二人組の旅の笛吹き、ナルホドとマサカ(池上礼朗氏と早坂聡美さん)が奇妙な歌を歌いながらどこか遠くからやって来る。森に宅配便を運んで来たのは郵便配達員ドーモさん(深水裕子さん)。南の島にいる博物学者のバーバおばさん(声のみ・栗木純さん)からの荷物を、留守番中の少年スキッパー(齋藤千裕氏)に届けるのだ。気を付けて橋を渡っていたのだが、川に荷物を落として濡らしてしまう。ポットさん(佐藤響子さん)と一緒に謝りに。主人公スキッパーはコミュ障の引きこもり、空想癖のある対人恐怖症。家に籠もって読書や化石や貝を眺めるのが大好き。荷物を確認してみると、沢山の硬くて大きなポアポアの実が。だが肝心の同封されていた「木の実の料理法」が水に滲んで所々読めず、まるで虫食い問題に。ポアポアの実の料理法を求めて、スキッパーは家々を訪ねる羽目に。
主演の齋藤千裕氏が素晴らしい。何か魅力がある。細かい表情や仕草一つ一つに意味をもたせている。繊細。
深水裕子さんは松居直美っぽい。
トマトさん役、亀岡幸大(ゆきひろ)氏も強烈。「ねえ、キスして···。」
双子のアップル(福井夏紀さん)とレモン(佐藤凜さん)も『シャイニング』を思い起こさせるキャラ。
妄想癖のスキッパーは人と接している間、悪い方悪い方に考えが転がり、不安神経症患者のようにパニックになる。その不安と妄想が精神病棟の地獄巡りのようにも思えて妙に面白い。深い人間洞察は宮沢賢治にも通ずる。ずっと子供相手の仕事をやって来た作家なだけに人間というものの本質を見据えている。嘘っぽくないところが凄い。観に来ていた小学生達も食い入るように楽しんでいた。
是非観に行って頂きたい。