蟹 公演情報 劇団桟敷童子「」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    生きる、精一杯生きる
    「待ってました」と大向こうから声がかかりそうなほどの、桟敷童子らしい物語と展開。
    今回も(いい意味での)泥臭いセンチメンタリズムが溢れる。

    そして、何よりも、役者の面構えと気迫がビンビンと伝わる。
    それを観に来たと言ってもいいかもしれない。

    約2時間。倉庫の会場なので、かなり暑くなるかと思っていたら、そうでもなかった(夜の回)。

    ネタバレBOX

    終戦直後、元海底炭鉱のあった寂れた集落に文雄と恒幸の2人の復員兵が帰って来る。そこには彼らが知っている者、彼らを知っている者はいなかった。

    そこへ博多築港社に雇われたヤクザたちが現れ、自分たちのところの娼婦が襲われ、その犯人は、この集落に逃げてきたと言う。
    集落の者は誰も心当たりはないのだが、娼婦たちの首実検の結果、復員兵の1人、文雄が犯人であると断定し、彼はやっていないと主張するも、ヤクザたちに連れて行かれる。

    そんな中、集落に膳所婆が孤児を連れて戻ってきた。膳所婆は孤児を見つけると貧乏な集落に連れて帰って来るのだ。先の復員兵たちも実はこの膳所婆に連れられてきてここで育ったのだ。しかし、膳所婆は記憶がなくなっていて、2人ついても覚えていない。

    ヤクザに連れて行かれた文雄は、リンチを受け、やっていない犯罪を認めてしまう。

    その頃、集落には、被害者だったはずの標、千景、ミヒロの3人の娼婦が逃げて来る。彼女たちは、集落の人々に本当のことを話し始めるのだった・・・。

    そんなストーリー。

    今回も丸太を多様して組み上げられた舞台が、凄い存在感を見せてくれた。
    一見、ごっつい作りなのだが、実は隅々まで気を遣い、よく出来ていると感心する。落とし穴やトロッコなど、大道具の力量もうかがえる。こんなセットを組み、水を大量に使える、いい会場を手に入れたなぁと思う。まさにベニサンピットなき後、桟敷童子にふさわしい会場だと思う。

    その舞台の上では、役者たちが汗を流し、いい面構えと気迫を見せてくれる。
    「そう! これこれ!」という感じだ。

    特に、ボウボウを演じた板垣桃子さんと、標を演じた中井理恵さん、それに文雄を演じた池下重大さんは、本当にうまいなぁと思うのだ。膳所婆を演じたも鈴木めぐみさんは腰が大変だっただろうなぁと思ったり。
    今回は、男2人が中心にあり、文雄と恒幸(松田賢二さん)のやり取りが熱いし、強い。いままでは、ひと目で弱者とわかる登場人物が、物語の中心に据えられていたような気がするのだが、今回は、見た目の弱者ということではなかった。
    もっとも、ここには結局「強者」は出てこないのだか。

    役者たちが、常に気を張っていて、立ち位置は当然のことながら、その姿勢までもきちんと制御され、「画」として成立させる細かい演出もいい。

    全編博多弁(たぶん)で繰り広げられる物語は、(いい意味での)泥臭いセンチメンタリズムが溢れ、(いつもの)ウェットな感じが醸し出されていた。

    文雄と恒幸は、故郷とも言える集落に帰ってきたものの、会いたかった膳所婆は、記憶を失っていた。しかし、彼ら2人は、「不味い」と言いながらも膳所婆の作ってくれたすいとんと芋の煮っ転がしを楽しみにしていた。カレーライスを「うまかった」と言う文雄の言葉などの、そんなエピソードが染みるし、だからこそ膳所婆のラストの台詞には泣けるのだ。
    孤児役の外山博美さんの澄んだ歌声が荒んだ集落に響くのもいい(外山さんは、少年役からおばちゃん役まで、どんな役でもぴたっとくるのがいつも不思議だ・笑)。

    今回は、ボウボウにより、笑いの要素がいろいろとあった。ベタすぎる笑いもありつつも、そのボウボウが単なる道化の役割でないあたりが、脚本がうまいと思う。

    印象的なオープニング、そして歌、物語の展開とセンチメンタリズム、さらにスペクタクル的なラストという方程式は、ある意味、ワンパターンなのかもしれない。つまり、ストーリーの展開はわからなくても、行き着く先はなんとなく見えている。また、そういう状況の中で誰が死ぬのかが、「おきまり」的な感じと要素でもあり、その展開にやや強引すぎることもあるのだが、それに違和感はない。

    なんとなくのパターンが見えてくるのだが、それでも「また観たい」と思ってしまうのはなぜなんだろうと思う。
    もちろん、物語としての語り口のうまさは当然あるのだか、その理由の1番には、「人」の要素が挙げられるだろう。ドラマを越えた、「人の存在感」のようなものが、いつも桟敷童子の舞台にはあると思う。
    それは、単純に「役者の姿と佇まい」と言ってもいいかもしれないし、物語の根底に流れる「人が生きること」と言ってもいいかもしれない。

    今回、何度が語られる、「海の底の町に行くには、精一杯生きなくてはならない」という台詞が効いているのだ。

    泥にまみれても、這いずり回っても、「生きていく」という強い意志が舞台から感じられる。それがいつも舞台の根底にある限り、私は「桟敷童子をまた観たい」と思い続けるだろう。

    今回の『蟹』というタイトルから、ラストは大量の蟹が出てくるのかと思っていたら、そうではなく、そこだけはちょっと残念(笑)。
    海底炭鉱の爆発により、人骨とともに海から蟹が現れたら(トロッコに少しだけ付いて出てきたが)、さらに意味が付加されて面白かったと思うのだ。

    大量に降り注ぐ水や、プールになって張ってある水に、ずぶ濡れになって演じている様は、演じるほうも陶酔感があるのではないかと思ったりして。

    細かいことだが、復員兵に米軍の軍服らしいものを着させている配慮もうまいなぁと思ってしまう。

    直接の舞台の内容とは関係ないが、毎回のことだが、ここの客入れと客出しはとてもいい。
    開演のギリギリまで、役者さんたちが総出で、客入れをしている。その声のかけ方も「いらっしゃいませ」だけでなく、気持ちを込めて迎えてくれているという意識が伝わるような言葉をかけてくれたりする。それだけで、本当にうれしくなるし、観劇の気持ちもさらに高まるのだ。
    客出しも同じで、気持ち良く送ってくれる。こちらも「ありがとうございました」と頭を下げてしまうほどだ。
    そんな気持ちにさせてくれる劇団だから、やっぱり、また観たくなるのかもしれない。

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    2010/07/19 04:58

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  • johnnyさん

    コメントありがとうございます。

    それと、うれしい書き込み感謝いたします。
    私の拙い感想を読んで観劇していただき(tetorapackさんの感想は参考になったでしょうが・笑)、さらに、楽しんでいただけたということで、喜びも倍増です!


    >観客に、自分たちの芝居を心の底から楽しんでほしいと心底願うピュアなハートが、びんびん伝わってきました。きっと桟敷童子の芝居に誇りを持っているのだと思います。素晴らしいことです。

    まさにおっしゃる通りだと思います。客入れ、客出しはもちろんのこと、演じている姿にも、私は打たれました。
    その姿は、劇中の一生懸命に生きる様と見事にリンクしているので、より感動するのではないかと思います。

    とにかくうれしいです。ありがとうございました。

    2010/07/28 06:54

    アキラさん、こんにちは。

    桟敷童子はこれまで観たことがなかったんですが、あなたとtetorapack さんの絶賛コメントを見て、行ってみようと思いました。

    いや~、素晴らしい公演でした。
    芝居が素敵なのはもちろん、アキラさんも書かれているとおり、お客様をおもてなしする劇団員の心意気が、他にはないものを感じられました。来場する全ての観客に、自分たちの芝居を心の底から楽しんでほしいと心底願うピュアなハートが、びんびん伝わってきました。きっと桟敷童子の芝居に誇りを持っているのだと思います。素晴らしいことです。心が洗われるようでした。

    2010/07/27 00:42

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