実演鑑賞
満足度★★★
今作で描かれるのは日本で言うところの「薬害エイズ事件」。1980年代、厚生省と製薬企業5社は血友病患者に対し、ウイルスを加熱処理で不活性化していない非加熱製剤を流通させ、全血友病患者の4割をHIVに感染させた。製造元のミドリ十字は危険性が問題視されていたにも関わらず、在庫処理の為黙って捌き続けた。
1993年頃から1996年頃まで中国河南省(かなんしょう)政府が血液売買を奨励。同じ針を使い回し、血漿成分以外を体内に戻す際、複数人の血液を混ぜたものを使った。河南省の58郡において各平均2万人の農民が売血し、100万人近くがHIV感染。未だに住民の7割が感染して「エイズ村」と呼ばれる地域は数多い。そして残された100万人近くの「エイズ孤児」。
トンネルをイメージしたセット、三基の並べられた長机が道となっている。中央の長机は回転可動式。地獄へと続く地下鉄の線路内のイメージか。映画『エンゼル・ハート』では鉄の檻のような古めかしいエレベーターで地獄堕ちを表現していた。
目当ての清水直子さんはクライマックスで見せ場が待っている。地獄そのものの現実の中で、最後まで「なりたかった自分」になろうと藻掻く。地獄に光を照らす為に、自らを犠牲にする。「暗いと不平を言うよりも、すすんであかりをつけましょう」というカトリックの神父の言葉を思い出した。
滝佑里さんは久我美子を思わせる昭和美人。寅さんのマドンナなんか似合いそう。清楚で品格のある彼女が地獄に堕ちてゆく様が見所。
果たして幸せとは何なのか?カポジ肉腫の斑点が身体中を埋め尽くす。死を前に人は家族の幸福を願う。せめてお前だけでも幸せに生きてくれ。自分を犠牲にしてでも灯したい“希望”、それだけでも己の人生に何某かの意味があったのだと信じたかった人々の話。