不滅 公演情報 鵺的(ぬえてき)「不滅」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    殺人の連鎖
    内容は決して希望の持てる舞台ではないが、秀逸な舞台だった。キャストらの演技力は素晴らしい。

    以下はネタばれBOXにて。。

    ネタバレBOX

    神戸の榊原事件を思わせるような殺意の連鎖の物語。
    美川の娘・京は生きてきた意味が解らない。京の双子の片割れは父親がパチンコに興じている時に、車内で熱中症で死んだ。美川はそれがきっかけになって会社はクビになり女房には逃げられた。そんな父を京は憎んでいる。こんな育ち方をしたからか、高校生の京は捻くれて屈折した精神を抱え、猫を殺した後にも殺人への欲望を募らせてゆく。

    興信所に勤める里見は他人を詮索するのが趣味でテラスに集る人たちの会話を盗聴する。

    一方で17年前に静岡バスジャック事件で6人を殺した犯人・当時17歳だった向井に女房を殺された仲西は向井にヒルのように執拗に取り付いて罵り、暴力を振るい蔑む。ついでに向井の恋人・美紀にも同様に罵倒する。仲西も人間としてクズだったのだ。そんな仲西が里見に説教をするセリフは、まるで自分の事をそっくりそのまま描写しているようなものだから、この部分は滑稽で可笑しくてシリアスコメディそのものだ。笑

    京は仲西と向井の話を盗み聞きしながら、6人も殺した向井を伝説のヒーローのように憧れてしまう。そうして、「命なんてモロイんだと思った。」などと殺人への予兆のようにのたまう。これに危機感を感じた向井は京の殺人を止めさせる為には京を殺して自分の伝説の一部となるべきだ。と死の同調を求めるも、里見が止めに入り、あっけなく阻止されてしまう。

    そして京は遂に仲西を殺したのをきっかけに、次々にムカツクという理由だけであまりにも残忍な殺人を繰り返していく。

    京を一流の殺人鬼にするべく、世界を震撼させる殺人鬼に作り出すことに精力を傾ける里見は京のマネージメントをしながらサポートしてゆく。云わば教団が教祖を奉るように、主犯・京を「我々の神」と呼ぶ里見は1年後、京の父親と向井の恋人の美紀に彼らの現状を報告するも、里見の破壊的精神に危惧し反抗した二人に里見は殺されてしまう。

    登場人物の全てに共感できない。誰もが誰かを罵りながら終に連鎖的に殺してゆく。陰鬱とした悪の魂のようなものを全員が持ち合わせており、全てが悪いほうへ、悪いほうへ・・、と転がってしまうのだ。

    人間として感情のない、つまり、怒りもない悲しみもない愛情も持ち合わせていない、ただただ、淡々と生きてるだけの向井が京の殺人をサポートしている側の人間を一人ずつ殺していくのは彼にとっての正義なのだろうか?

    暗黒にのさばる狂気と殺意が渦巻きながら、精神が破綻した人たちの物語だったが、ワタクシが一番興味があったのは京でも仲西でも里見でもない。向井の無限に閉じた無気力な何も求めない感情や、生きてる意味も死ぬ意味も解らず、何も世の中に期待していない精神に興味があった。それでも淡々と生きているのだ。

    決して楽しい舞台ではない。舞台ではないが、演劇という芸術の一端にもこんな芝居があってもいいと思う。そう思えるほどのめり込んだ。キャストらの演技は秀逸だと思う。アイドル的存在の板倉の演技もしっかりとしておりセリフの歯切れも良かった。評価は割れると思うが、あくまでもエンゲキとしての評価だ。

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    2010/06/24 18:58

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