クセナキスキス 公演情報 The end of company ジエン社「クセナキスキス」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    上手くセカイを泳げないひとたちへ。
    へぇーそうなんだーふーん。と一応納得してはみるものの、だから何?って疑問ものこる、うんざりするほどほんとうにつまらなくて誰のために世界は回っているのか。っていうことと同じくらい無意味な疑問や単語や呟きが、コミュニケーションの微妙な隙間を埋めるようにあっちこっちでひゅんひゅん飛び交う。飛び交いすぎてもう何言ってるか全然よくわかんない。
    同じツール(言語)使ってるはずなのに、何か自分今、すごい喋ってるはずなのに、何でこんなに伝わらないの。何かを普通に伝えたかっただけなのに、全然普通につたわらない。
    そんな、誰でも知ってるもどかしさ。とか言葉にすればするほど嘘に近づいていくような感覚とか、ていうかソレ言ったらもう何もかもおしまいじゃん。っていう関係性の究極とか、人がただそこに存在しているだけでどれだけ価値を見いだせるのか、ってことについて、悲しいくらいに切実過ぎる話だった。
    生きにくさを全力で受け止めきれなくなっているひとなんかはもう絶対行った方がいい。
    もうすぐ終わってしまうけど。駆けつけて行く価値は確実にある。

    ネタバレBOX

    決して越えられない国境のように大きく立ちはだかる川が客席と舞台の間には流れているようだ。あっち(舞台)は埼玉。こっち(客席)は東京。向こうもこっちも東海地震が起きて街は崩壊し、不自由な避難所生活をしている人たちもたくさんいる。そんな状況下にあるなかで、間もなく開業予定の日帰り老人ホームを舞台に、オープン準備に追われるスタッフや開業認可の審査をするために訪れた市の職員、そこをスタジオ代わりに使おうとするバンドメンバーに、ちょっとした訳ありな人などが入り乱れる。

    上演してから何分も経たないうちに、老人ホームの建っている丘が土砂災害に見舞われて陸の孤島と化し、その丘がいつ崩れ落ちるともしれない、まさに人生崖っぷち、身に危険が迫っている状況からはじまる。通常こういった場合には、慌てふためきおろおろする者や、取り乱してパニック状態に陥る者、怯えて震え出したりする者がいたりするものだが、ここにはそういった者は誰ひとりおらず、苦虫を噛み殺したような表情で憮然としており、殺伐とした奇妙な倦怠感が渦巻いている。

    一致団結して事態を乗り切ろうと率先する者はいたものの、自らの力量では無理だと悟りそそくさと放棄してしまった。震災が起きても自分に被害がなければそれでいい、と思っている者さえいる。その考えに口出しする者はいない。多くの者は閉鎖的で、会話という会話は長くは続かず、多くはひとりごとの延長線上のような呟きで、意志の疎通が根本的に上手くいかない。上手く伝えられないから、自己完結してしまう。
    そんなことが何度も繰り返されるものだから、こちらが思わず求めたくなるようなハラハラするようなサスペンスフルな展開や臨場感、友情や愛情などの素敵なドラマとは孤立無援だった。
    もしかしたらどんな話であったのか。というウエイトは、観客側へ委ねられていた、っていうことになるのかもしれない。それくらいこの作品は、何かを物語ることに対してよそよそしかったけれども、誰かを語る前に、まずは誰かの存在を認めようとしていた、ようにおもえた。だから、胸がつかえるような息苦しさでありながら、それは妙にしっくりくる質感だった。
    停滞した時間の渦のなかで時折共鳴しているように聞こえてくるそれぞれの会話は、孤独を嘆く旋律のようで悲しかった。

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    2010/06/06 08:41

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