あたらしい朝 公演情報 うさぎストライプ「あたらしい朝」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    鑑賞日2023/05/10 (水) 19:00

    平田オリザの演劇ワークショップで使われるもっとも有名な台詞に、見知らぬ人に「旅行ですか?」と話しかける、っていうのがあって、私も実際に見たことはないんだけど書籍や講演で死ぬほど語られてるし周囲も分かりやすい例でよく引用するからもう漫談というか伝統芸能というか、知ってたらちょっとしたギャグにすらなりうるやつ、なんだけど、行きつ戻りつのオープニングを経て妻(清水緑)が言ったこれは、まさにその "本歌取り" で、これから演劇が始まるんだ!と思ってすごく嬉しくなった。2020年の初演を、春風舎に観にいったことはたしかに覚えているけれど3年のあいだに世界はあまりに変わりすぎた。ここからどこへ「戻って」いくのか、それとも「変わって」しまったままなのか。初演の枠組みは残したまま、登場人物やレイヤーがあらたに加わったリライト上演。私たちがしばらくできなかった「旅」というモチーフに向き合わせてもらって、あたらしい時間を過ごした。小瀧さんが登場して、最初のあれが始まったとき、ああこれがうさぎストライプというカンパニーだなあ、意味の見えづらいこの突拍子もなさ、味わうたびに意味になっていくんだよなあ、と噛みしめた。葬式帰りの男と女を演じた亀山浩史さん、菊池佳南さんを見ると、うさぎストライプの歴史と足跡、彼らが舞台に立っていてくれる安心を感じます。これも観劇の年月を重ねる醍醐味ですね。制作者でありながら流しの歌うたいでもある変幻自在の金澤氏は、前説から客出しまでもっとも長い時間観客に寄り添ってくれる存在。一人旅に出る女(北川莉那)はどの年齢にも見える、少女と女と母のどの面も持つような人でしたし、清水と夫婦役を演じた木村巴秋は人懐こさのあまり、劇中では酒飲まないキャラだったけどこれで酒癖悪いキャラだったらマジで人間の憎めないけどちょっと手が掛かるからそれでモテまくるひとあるある全部盛になってうっかり私も好きになってしまうところだった、あぶなかった。

    見立て、生死や自他の境界を瞬時に曖昧にする台詞や演出、比喩やほのめかしの散りばめ方が緻密にして濃密で、まるでデッサンから色付けまで、熟練した技術の重ねられた絵画のよう。タイトルや戯曲における大池さんの言葉選びはとてもドライなものを感じるけれど、乾燥したものって極限まで乾燥させると発火するから、そういう燃え広がる瞬間、みたいなものが見えるのが私はすごく好きなのかもしれない。

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    2023/05/11 11:36

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