ORGAN 【ご来場ありがとうございました。次回公演は9月中旬】 公演情報 elePHANTMoon「ORGAN 【ご来場ありがとうございました。次回公演は9月中旬】」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★

    シュールな現代ホラー
     臓器移植をテーマに、臓器提供者(ドナー:D編)と臓器受容者(レシピエント:R編)の当事者心理を描いた2本立て公演。作・演出はマキタカズオミさん。私は【R編】【D編】の順番で鑑賞しました。

     舞台は木の茶色とアルミ(素材は不明)の銀色が壁にうまく配置された、品のいい都会的な部屋。中央奥のコンクリート打ちっぱなしの壁から木々の緑が少し覗き、自然の温かみを感じさせます。装置上部をぐるりと囲み、二重らせんを思わせる木の枠がポイントでした。
     そんなさわやかな空間で静かに交わされる現代口語劇ですが、題材が臓器移植ですから内容は重厚。登場人物の感情の衝突は激しく、息が詰まるような緊張感があります。

     前作『ブロークン・セッション』でも感じたことですが、両バージョンともに「その先が見たい!」と思うところで終幕するのが残念でした。「CoRich舞台芸術アワード!2009」の第2位に選ばれた『成れの果て』では、タイトルどおり救いようのない人間の争いとその果てがしっかり描かれていたので、私が勝手な期待をしてしまったせいもあると思います。
     “現代日本を舞台にしたシュールなホラー短編”としては、見応えがあるかもしれません。でも私としては、周囲や自分自身との死にものぐるい格闘と、その末に獲得される何かが見たかったです。

     【R編】初日の上演時間は50分でした。【D編】が1時間15分なので、装置の転換が大変かもしれませんが、できれば途中休憩を挟んで両方一度に観たかったですね。
     【D編】の回はほぼ満席で、場内誘導のスタッフさんたちの客入れの手際の良さにうなりました!入り口が1箇所しかない小劇場で自由席だと、空席がないようにするのも難しいんですが、通路席も見事に埋まっていました。

    ネタバレBOX

    【D編】
     “死刑囚の臓器提供が合法化された近未来”という設定がとても面白いです。臓器を提供する死刑囚と提供を受ける家族だけでなく、その間に入る業者や刑務官の家族、もう1人の被害者遺族の現実を描く群像劇になっており、臓器移植についてより広く、深く考える仕掛けになっていたと思います。死刑囚の「自分の臓器で6人が助かるなら、2人分おつりが来る(殺したのが4人だから)」という発言は、不謹慎ですが興味深いです。

     ただ、繰り返しになりますが、私が見たかったのは自分の子供の仇である死刑囚の心臓を移植された妻・百合が、夫とともにこれからどうやって生き延びていくのかです。子供を殺され妻も死に、すっかり絶望してしまったもう1人の遺族・金城が、移植手術直後の百合の心臓をナイフで突き刺して殺し、自分も窓から飛び降りて自殺するという結末では、物足りなかったですね。

     目立った大道具は中央下手寄りに置かれた黒いテーブルとイス4脚のみ。そのまま刑務所の面会室、居酒屋、リビングなどに場面転換します。照明も音響も特に使わず、2つの異なる場面を重なった状態にする演出は、シンプルな会話劇が続く空間に動きを与え、いい刺激を生んでいました。
     例えば金城の部屋を、妊娠中でお腹の大きくなった刑務官の妻・麻子が横切る場面がとてもスリリング。また、同じテーブルに着いているのに、百合と麻子が別の空間にいるのも面白いです。

     木製のテーブルとイスの表面の処理(塗装の仕上げ方)や可動性などは改善の余地あり。緻密な演技の積み重ねから、静かで分厚い空気が作り上げられていたので、わざわざ持ち上げないとイスがスムーズに動かないのはもったいなかったです。

    【R編】
     交通事故で死んだ兄の臓器が3人のレシピエントに提供され、母と妹はその3人に、毎年1回、兄の命日(つまり臓器提供日)に自宅に来て一緒に食事をすることを約束させます。集まった人々は一見ほがらかに言葉を交わしますが、母と妹が「兄は今も彼らの体の中で生きている」と思っていることがわかり始めてから、狂気が加速していきいます。

     登場するのは8人ですが、1対1、2対1といった少人数の密度の濃い会話が多く、人物の出はけや通りがかるタイミングなどがよく計算されていたと思います。でももっと濃く残る後味が欲しかったです。50分の短編だと考えても物足りなかったですね。

     「もう来年は来られない」と告げるレシピエントたちに失望した母と妹は、事故の時に兄を乗せて車を運転していた男を使って、彼らを殺害。切り出してビニール袋に入れた3つの臓器をテーブルに並べ、母と妹がそれを眺めながら嬉しそうにパンを食べます。「年に一度お兄ちゃんと食事をする」という希望が叶ったことを表していたんですね。

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    2010/04/21 11:53

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