ORGAN 【ご来場ありがとうございました。次回公演は9月中旬】 公演情報 elePHANTMoon「ORGAN 【ご来場ありがとうございました。次回公演は9月中旬】」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    しばし呆然
    初日、ドナー編。

    淡々とした空気がつながっていく中に、
    様々な想いの機微が重なって、
    終盤に一気に降りてくる。

    その感触に圧倒されて、
    観終わって客電がついても少しの間動けませんでした。
    そのあともしばし呆然としておりました。

    ネタバレBOX

    ネタバレボックスとはいえ、
    もし、この作品をご覧になる予定があるのなら、
    ここからの文章はお読みにならない方がよいかと思います。
    通常の舞台にも増して、
    作り手側が提示する以上の作品の姿を知ることなく
    舞台の空気に触れたほうがよいと思われる、
    そういうタイプの作品だったので・・・。


    物語はそれほど複雑なものではありません。

    とある連続殺人事件で死刑を待つ男、
    臓器提供のコーディネーターに
    自らの心臓を被害者の家族に提供したいと告げる。

    そこに端を発して、
    死刑囚、看守、自らの子どもを殺した男から心臓提供を申し出られた家族、
    その親戚や友人、さらには死刑囚の妹や他の被害者の、
    死刑執行の二日前からの
    いくつかも風景が連なっていきます。

    オーバーラップするシーンからやってくる質感。
    あるいは光の変化。
    クロスワードパズルの使い方などもうまいと思う。

    一つずつのシーンは、
    研ぎ澄まされていても
    どこか淡々とした空気に満たされていて。
    にもかかわらず、シームレスにつながったシーンから
    次第に登場人物たちの想いが積み上がっていく。

    死刑囚の想いや看守の気遣い。
    被害者の家族の犯人の心臓をもらうことへの嫌悪感と、
    妻に生きてほしいと願う夫の気持ち。
    その命をパーツにして受け渡す
    実務にたけたコーディネーターがむきあう
    臓器移植では修復できない母親の病の質感。
    さんざん迷惑をかけられた死刑囚の妹の次第に溢れるような愛憎・・・。
    さらには死刑囚のつぐないが他の被害者に与えられることを知った
    別の被害者の想いの揺らぎまで。

    登場人物から伝わってくる想いにはそれぞれに理があって、
    しかも不思議に均質な質感に閉じ込められていて。
    キャラクターたちの事情や思いが封じられた箱が
    シームレスに展開していく舞台上に
    一つずつ積み上げられていく感じ。

    そして箱が積み上がる感覚の先で
    死刑が執行されて・・・。
    一つの命の滅失して
    物語が収束しようとする刹那に、
    ひとつの箱が押し潰されて
    全ての中味が崩れ落ちてくる・・・。

    舞台上でしなやかに表現されていたキャラクター達の想い、
    淡々と舞台上にあったものが
    ラストシーンですべて観る側になだれ込み
    決してステレオタイプなものではない
    いくつもの質感や重さが
    観る側を愕然とさせるのです。

    キャラクターたちの真摯な想いに浸潤される一方で、
    コーディネーターの母親の姿や、
    妹に対する死刑囚の受け応え、
    さらにはレシピエントの妻に夫が渡す懸賞の商品などからやってくる
    事実や時間に対する不確かさのリアリティにもぞくっとくる。

    死刑囚が自らの時間を切り捨てるように昇華していく中で
    看守や観る側が感じる命の軽重と、
    移植された心臓にまで因果を染み付ける
    犯罪者の業。
    同じ命の果てから伝わってくる表裏の、
    つかみ所のない薄っぺらさも深く心に残って。

    結果、
    マキタワールドとでもいうべき
    行き場のない突き抜け感のようなものが
    終演後の観る側に醸成されていくのです。

    舞台美術や照明も秀逸。
    舞台全体を包み込むような格子上の造詣は、
    照明の変化とともに、
    時にその場に監獄の冷たさを醸成しながら、
    真逆の居酒屋や家庭の日常感をも生み出していきます。
    重ならない二つの曲線には
    観る側の内側に
    ひとつずつのシーンを閉じ込める力があって。
    また、一番奥に見える木々が
    その世界に観る側を繋ぐような
    実存感を与えていました。

    1H15mとそれほど長い作品ではなかったし、
    観ているときには何も感じなかったのですが、
    帰り道、良い意味でがっちり消耗していることに気づいて。

    この舞台の観る側を引き込む力の強さに改めて瞠目したことでした。
    ☆☆

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    2010/04/08 15:02

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