満足度★★★★
切ない後味
あの世とこの世、相対する世界の人たち。「相対的浮世絵」。奇妙なタイトルで「浮世絵」が目をひいたが、作者の解説によれば、海外から帰国した直後だったので日本語にこだわりがあり、自分から見た世の中を活写する=浮世絵となったらしい。
出演者の一人である安田顕が公演プログラムの一文に、子供のころ、仲の良い友達にしてしまった心無い行為への悔いについて語り、人は誰でも心に蓋をして生きている部分がある、だからこそ、人の真摯な姿を見たとき、心が動くのだと書いている。これを読む直前に、新聞のエッセーで、ある作家が似たような子供のころの体験を書いていたのを読んだばかりなので、自分だけでなく、そういう思い出というのはあるものなんだなぁと共感した。決して悪気はないのに、なぜか親しい、しかも非のない人の心を傷つけるようなことをしてしまったら、いつまでも覚えているものなのだ。
まあ、この話は子供時代の小さな意地悪とは次元が違う話だが、「心に蓋」という共通点はある。
土田英生という作家の深さに心打たれた作品です。