『F』 公演情報 青年団リンク 二騎の会「 『F』」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    「F」というトリガーから広がる世界
    近未来の話として観ていたはずなのに・・・。

    とても、近しく切ない感覚に浸潤されました。

    ネタバレBOX

    舞台が始まって少しの間は
    近未来の話をのほほんと観るような感覚でした。

    冒頭のお花見の感覚、
    男性がアンドロイドであることから
    それが近未来の話であることがわかる。
    執事ロボット杓子定規な言葉づかいから
    急に砕けた言葉に代わって、
    少しずつ互いの理解が生まれていきます。
    ちょっとヴィヴィドで楽しげな雰囲気さえある。

    でも、二人の会話から
    女性の背景が明らかになるにつれて
    彼女の口調とは裏腹の、
    舞台上の心を締めつけるような世界観が明らかになっていきます。

    明日がこない、
    永遠に今日が続くような貧困から
    命と引き換えに抜け出した彼女。
    彼女の利益を守るという前提の中で
    次第に彼女の感覚を理解していく・・・、
    でも彼女の愛を受け取るすべを知らないアンドロイド。

    彼女が通過する四季、
    季節のシンボルと交わる、
    切ないほどにいびつな感覚が
    観る側の心を繊細に強く締めつけます。
    浴衣の着付けをするふたりの滑稽さ。
    自らが夏にいることを確認するようにはしゃぐ女性が
    火のつかない線香花火をもって花火と確認する姿から、
    彼女のうちに刻まれたどこかうすっぺらな時間への
    切実さとはかなさを感じて。

    彼女が命と引き換えに得た富で得られるもの。
    命が満たすものの重さ。
    正しい意見はいらないと女は言います。
    楽しくないからと・・・。
    その感覚がとても自然でナチュラルなものに感じて、
    近未来の感覚がふっと消えて
    その世界の今で彼女を観ていることに気がつく。

    秋の味覚、
    一緒にできない食事。
    彼女が求める時間とアンドロイドが差し出す満足の乖離。
    ただ、食事をしただけで、
    それを秋と自分を言い含める彼女の姿に
    涙があふれてしまいました。
    「小さい秋みつけた」に編み込まれた
    うつろうような秋の気配が
    劇場内を満たすひととき。
    彼女の唇から発せられるその秋が
    数口の味覚に置き換えられてしまうことが
    あまりにも切ない。
    あまりにも切ないのですが、
    でも、その数口がまるでモルヒネのように
    彼女のひと時の痛みを和らげていることが
    観る側に諦観を与えていく。

    冬、クリスマスツリー、
    彼女に漂う終末の雰囲気。
    七夕の偽物で
    クリスマスツリーに祈る。
    その祈りに、彼女の想いが溢れる・・・。。
    彼女のうちに膨らんだ愛する気持ちが
    静かにまっすぐその部屋に広がっていく。
    その言葉の行き場のなさを覆い隠すように
    彼女に言われたアンドロイドが
    かりそめのクリスマスを祝う。
    その死は,物語のなかではしごく当然にやってくることで・・・。
    だから、アンドロイドのチアと裏腹の
    彼女の最期自体は淡々と観ることができました。
    でも、抱きあげられた彼女の姿を観て
    彼女が刻んだ思い出の行く末が
    どこにもないことに気がついて。
    アンドロイドの言葉に再び目頭が熱くなった。

    帰りの電車の中で、本当にいろんなことが頭をめぐりました。
    貧困が奪うもの、命の重さ、人の平等という建前と現実。
    思い出ってなんだろう。彼女は不幸だったのだろうか。
    すこし醒めた見方をすれば、
    よしんばリアルな世界であっても
    愛されたいと思う気持ちや人を思う気持ちの虚実って、
    実は彼女とアンドロイドの関係にも似ているかもしれないとか思ったり。

    さらには、アンケートにもありましたが、「F」ってなんの象徴だろうか・・・。
    Fake,Future、Feel, Feed, Fortune, Free, Forget, Fear、Fare。
    さまざまな[F]がこの物語に溶け込んでいることに気づく。
    「F]のトリガーから浮かび上がる物語の奥深さに
    再び息を呑んだことでした。

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    2010/01/31 10:39

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  • みさ様

    コメントありがとうございます。

    私にとってもとても印象に深い舞台でした。
    観終わったあと、
    いろんなことを考えてしまいました。

    水曜日に別バージョンのリーディングがあるそうなので
    そちらにも行ってみたいと思っています。

    2010/02/01 10:52

    はじめまして。観てきましたか、素晴らしい舞台でしたよね。観た直後より、今のほうが感慨深いのも不思議です。それほど、胸をうたれる舞台でした。二人芝居でこれほど心にズン!と来る芝居って今まであったかしら?と思うほど。

    りいちろさんの詞的な表現も素晴らしいです。
    こうして他の方の感想を読ませていただきますと、更にあの舞台の深さが蘇り、ああ、人間って素敵だなって思いました。と、同時にアンドロイドが欲しいな。とも思いました。
    そして、出来る事なら、もう一回観たい芝居でした。


    2010/01/31 16:39

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