シャドーランズ 公演情報 加藤健一事務所「シャドーランズ」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    愛と痛み、そして神
    セットの色調もあるが、重厚でしっとりとした舞台だった。
    やはり舞台に引き込まれてしまった。

    途中の休憩で、ふーっと息をついた感じがある。
    休憩があってよかったと思った。
    それぐらいの深さの中に、私もいたような気がする。

    ロビーに主人公ジャックことC・S・ルイスの書いた物語のあらすじが貼り出してあるのだが、これを読んでおくと、舞台の内容がもう少しわかるところもあると思う。

    ネタバレBOX

    主人公ジャックの神への疑問で幕が開く。
    つまり、そのとき神は知っていたのに何もしてくれなかったということ。
    遠藤周作の『沈黙』などを挙げるまでもなく、神について語られるときに、当時に発せられることの多い疑問だ。

    ジャックは、さらに続けてこう言う。
    人が形成されていくには、「痛み」が必要だ。それは、まるで大きな岩にノミを当て、削り出していくことで人間が形作られていくように、ノミのひと削りひと削りの痛みが必要なのだと。
    そして、この世の中は影であるとも言う。

    神の愛とは何かということも。

    このときの彼の言葉は、まだ他人事であったのだが、後にジョイに知り合うことで、身をもって、まさに自分の身体と心で体験していく。

    大人の恋物語であるのだが、恋に年齢はない。
    いつだって、それは同じなのだ。

    ジャックは自分のそういう気持ちに気がつかず、この年齢まで1人でいた。
    そのことを気づかせてくれたのは、ジョイだった。
    他のイギリス人から見ると、ジョイは少々違和感のある女性だったようだが、ジャックにとっては、そうではなかった。まず、自分の理解者であるということがあり、恋に落ちてからは後のことは何も見えなかったのだろう。
    恋を知ることで、彼は変わっていった。

    しかし、重くて、つらい物語だった。
    ファンタジーへの扉が開くシーンも、黄金のリンゴのエピソードが絡み、つらい。

    人を失うことは、ある年齢に達しないと、リアルな感覚にはならないのかもしれない。
    ジャックが子どものときに母を失い「楽なほう」へ行ったように。

    観客の私にとっても、そういう年齢に達した今、この舞台での出来事はずっしりと重くやってきた。
    繰り返し述べられる、神のノミで石から削り出される人間のエピソードが、彼の心の支えになっていく。そして現実は影だということも。

    私にはたぶんそうはできないような気がする。
    宗教観の違いかもしれないし、求めるものの違いかもしれない。

    しかし、人は何らかの方法で、喪失感と向き合い、それを乗り越えていかなくてはならないのだ、ということを強く感じた。

    物語が物語だけにしょうがないのだが、もう少し明るさがあれば申し分なかったと思う。次回もまた死を扱い、重そうなので、観劇はちょっと考えてしまうなぁ。


    ジョイはまるで台風のように ジャックのもとを訪れ去って行った。
    残されたジャックは、その後どんな物語を描いたのかが気になった。つまり、前と後では創作上、何が変わったのかが知りたくなったのだ。

    0

    2010/01/17 04:16

    0

    0

このページのQRコードです。

拡大