僕らの声の届かない場所 公演情報 ろばの葉文庫「僕らの声の届かない場所」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    小説を読み終えたような気分に
    ギャラリーの一室を借りての公演。観終わって外に出ても、建物のエントランスの雰囲気がとてもよく、素敵な会場を選んだなーと感心しました。
    純文学に登場しそうな内容のお芝居で、本当に文庫本を1冊読み終えたような満足感がありました。「ろばの葉文庫」としては初めての公演だそうで、これからの企画も楽しみです。

    ネタバレBOX

    暗闇を描いたような黒い絵を描き続ける青年画家・名村(北川義彦)と視力を失っていく少女茜(ハマカワフミエ)が出会う。名村の絵は、心の奥底の叫びそのものでもあり、誰にも本当に理解できないと彼は思っている。絵と向き合えば向き合うほど、苦悩が増し、描けない。これは単に完璧主義者であるとか、思うような絵が描けないという表現者としての苦悩とは違うようだ。生きている限り、いつまでたっても絵が完成することはないというジレンマがあり、誰に対しても心を閉ざしている。展覧会で絶賛されても、「完成していない」と主張して絵を持ち去ってしまう。しかし、茜は彼の絵の中にいろいろなものが見えると言い、一見闇に包まれたような彼の絵の中に一条の光を見出すことができると言うのだ。心の光を失った青年の絵を真に理解できるのは光を失っていく少女という皮肉。この設定と構成が見事だ。名村の心象のなかに登場し、名村の分身とも言える夜虫(皆木正純)の存在など、巧い見せ方だと思う。現在、私自身が失明の危機に直面しているだけに、感慨深い内容だった。暗転のたびに目を閉じ、闇を感じてみたりした。
    会場に入ってすぐ、床に散りばめた落葉が目に入ったせいか、貸しアトリエのオーナーの名が朽葉というのがいかにもぴったりに感じた。朽葉役をフライングステージの関根信一が演じたのも、舞台が引き締まって良かった。こういう役は若い女優より、彼のような俳優が演じたほうが物語らしくなって良いと思う。ラトゥールやフェルメールを引き合いに出しながら、桜坂と児島が会話する場面が自然な感じで引き込まれた。児島を演じる佐藤幾優の「間」が良い。桜坂の三原一夫の軽快な芝居のトーンが物語の重苦しさを和らげていたように思う。モデルを務めるみどりの清水穂奈美も台詞が自分のものになっていて良かった。こういう狭い空間では、台詞のリズムが重要になる。みどりが児島に「私は色で言うと何色?」と聞いて、「山吹色」と答える。何の屈託もなく、具体的に色を言葉に出す児島と、「黒い」絵の具だが「黒」ではない色を塗り続けている名村の対比が出ている。みどりのデッサンの場面などは、児島と桜坂のカンバスに抽象的でもよいから線描らしきものや絵の具が塗られていても良いかと思った。自分の座った位置からはカンバスが見えるので、「エアな」芝居がちょっと気になった。
    少女、茜役のハマカワフミエの演技が、頑張っているのは伝わってくるのだが、学生演劇でよく見かける力演型に思え、ちょっと残念だった。いつも思うのだが、芝居の少女役というのは本当に難しい。青春コメディのような芝居なら、等身大でもよいが、内面的なことが要求されるこういう芝居における少女役はやはり作って見せないといけないので若さだけでは足らず、説得力が必要になってくるからだ。美術評論家を演じた佐々木なふみが魅力的だった。余談だが、 小説やドラマに登場する美術評論家というは、作家にとって思い入れやイメージあるのか、そのほうがはスパイスとして面白くなるためか、わりとひとくせありそうなタイプか俗物かどちらかで描く場合が多い。旧来の伝統画壇ではそういう人もいるのかもしれず、自分もそういうイメージで美術評論家を見ていたが、現代美術界の場合は、実際接してみると、意外にも普通の感じの人が多かった。特に女性の場合は才色兼備の人が多いのは事実だが、思わせぶりなことを言ったり、偉そうな態度の人はいなかった。そういう点で、しずかという評論家は独特な雰囲気でいかにも虚構の世界の人という感じがして面白かった。
    アフタートークは、よくある一般的な対談ではなく、ひとつの作品をつくるにあたって、作家と演出家が話し合ってきたことの一端を紹介するかたちに詩森ろばが持って行ってくれたのが嬉しかった。ほさかようが「稽古の過程で女優さんがみるみるうちにきれいになっていくのには驚いた」と語り、詩森ろばが「やりかたがあるんですよ。それは企業秘密」と笑っていたのが印象的だった。個人的に鑑賞する立場では、ギャラリー公演の場合はあと10~15分くらい短縮したほうがちょうどとよいかと思える。濃密な芝居を至近距離で1時間30分というのは少々疲れた。

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    2010/01/16 14:53

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