満足度★★★★
シャークスピアの初見の演目。こんな話があったのかと新鮮に楽しんだ。ある王国(中世なので州とか藩のイメージ)の領主、ヴィンセンシオ公爵がある画策をする。これが話の始まり。公爵は信頼する臣下エスカラス(配役表には老貴族とある)に曰く、自分は長旅に出るので領主代理としてアンジェロを任ずる、そなたにはその補佐を務めてほしい。その真意をチラと覗かせるには、わが国には冷厳な法が存在するが今やその法は眠ったも同然、私が罪を厳しく裁くことを怠ってきたためだ、と。これは観客向けの台詞で、アンジェロに何か課題を与えたわけではない。宮仕えの堅物アンジェロの資質を見込んで、公爵は人選をしたようである。公爵は神父に変装をして領土内をお忍びで視察することに。
ある案件が持ち上がり、アンジェロは裁きを加える。即ちある若いカップルが婚前交渉をし子を孕ませた。二人は愛し合っており、いずれは許しを乞うて結婚の約束。だが法を破ったとして男が処刑されることとなる。公爵時代は法は文言通りには執行されずいわば大岡裁判的にやっていた模様だが、アンジェロは成文法を根拠に領土に君臨するしか方法を知らない。さて処刑される事となった青年クローディオには今しも修道女となろうとする妹イザベラがおり、そこへクローディオの友ルーシオが話を伝え、高潔なあなたが説得すれば領主代理も心を動かすだろうとプッシュする。イザベラは交渉に臨むがアンジェロはイザベラに心動かされ、自分と肉体的に結ばれるなら、あなたの兄の肉の罪も赦免されよう、と交換条件を持ち出す。
これ以後、公爵扮する神父は、アンジェロの元恋人で相手の財産が亡くなった事で婚約を反故にした相手、マリアナが今もアンジェロを思い続けている事から一計を案じ、イザベラ、刑務所長に事を言い含めて、暗闇の中でアンジェロとマリアナを結ばせる。アンジェロは交渉成立しイザベラを物にしたと信じているが、クローディオを釈放した後恨みを買う事を恐れて早朝に処刑してしまう。とは表向きの事、刑務所でのやり取りで重罪人の一人が病死し、しかもクローディオに似ていた事で斬首刑をしたと見せかけた。だが領主代理アンジェラは、約束を反故にした事が却って不安の種となり、後悔に苦悶する。そこへ公爵の帰国が伝えられる。そして、裁判。イザベラが兄を処刑された事の不当を訴え出たのである。この裁判では公爵の立ち回りが見せ場を作り、自分が神父を演じていた事も最後には明かして収まるべき所に収まる。
さて収まっていないのがイザベラと公爵、修道院に入りそこね独身女性として残ったイザベラ、そしてこちらも実は独り身であった公爵。
公爵は女性が演じ、女郎屋の召使、修道士も女性、女郎屋の女将が男性。ことに公爵は恰幅の良い?女優が頑張っていたが、大岡裁きの後、最後にイザベラへの求婚と読める台詞を最後に残して去るのだが、「大団円」は難しかったからか、演出はイザベラの思いの表出を封じ、フリーズした後ろ姿をスポット照明の中に一人残して暗転。観客に想像させる処理をしていた。
明快なキャラを持つ人物らが事柄に触れて行動し、その行動が他者に作用して行動の動機を与えていく連鎖の道筋がシェイクスピアの喜劇(今回はさほど「喜劇」仕立てでなかったが)。明快なキャラを与えられたアンジェロは、今言う所の「法の奴隷」。法が何のために定められたか、どう適用するのが相応しいかを考えずただ文言に従うことが自分の拠り所である(他に拠り所がない)人物が、奇しくも登場。だが彼にも法で割り切れない人間性がある事が露呈し(イザベラへの欲望)、それを梃に彼は自分の行き方を変える事を余儀なくされる。
音楽には現代のリズミカルな音楽が使われて違和感なく、美術は宮廷の屋内の柱(稼働式)が並びを変える場面転換で見た目も美しく、劇世界を支えていた。