誰そ彼 公演情報 浮世企画「誰そ彼」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    鑑賞日2019/09/19 (木) 19:30

    「人は見たいものしか見ない」と言うが「見ようとすれば見える」ということを教えてくれる作品。
    ユルいファンタジーかと思いきや、意外にずしんと来るのは
    あるある感満載の設定とトコトンリアルな台詞の応酬。
    特に兄と弟のそれはハラハラするほど緊迫感がある。
    弟がこの先背負っていくものを思うと、その重さに押しつぶされそうになる。
    そう思わせるラストを含め、ストーリー展開が秀逸。
    キャスティングがうまくハマった役者陣も素晴らしい。

    ネタバレBOX

    客入れの間、ドリフの“ババンババンバンバン♪”など
    昭和の流行歌っぽい曲が流れている。
    舞台を大きな白い幕が覆っていて、そこに導入部分のあらすじが書かれている。

    久しく実家に寄り付かなかった長男(松本亮)が取り壊しの決まっている実家へ入ると、
    そこには5人の妖怪・怨霊(?)たちが肩を寄せ合って暮らしていた・・・。
    他に居場所のない妖怪たちは、長男に取り壊しを思いとどまるよう懇願する。
    だが、長男が遠ざかっている間に、実家の父はボケて交通事故を起こし入院、
    全ての後始末をこなした弟(田中博士)は自分のやり方に異を唱える兄に
    「全部押し付けておいて今さら口出しするな」と激しく非難する・・・。

    世間的に出来の悪い長男と、優秀で要領の良い次男の対比が鮮やか。
    会社を興して一応成功しているらしい次男の、超上から目線が兄を圧倒し続ける。
    その次男にくっついてるヨメが似た者夫婦なら良くある話だが
    ここではそのヨメが、次第に妖怪たちが見えるようになっていくところが面白い。

    この橋渡しがよく効いていて、少しずつ弟の心情が明らかになる。
    「見たい父親でなくなったことを認めたくない」切なさ。
    妖怪たちが見えない弟はヨメからも非難され、孤立していくが
    最後にこの弟を庇って消えていくのはやはり兄だったのだ・・・。

    妖怪たちのキャラも魅力的で楽しい。
    じいやん(本井博之)のダンディぶりはとても素敵だし、
    この家の歴史をすべて見て来た時計の付喪神(成瀬志帆)も凛々しい。
    ぎたろー演じる妖怪オーギソヨソヨ(って何なのよ?と思って調べましたよ)が圧巻。
    この飛び道具的な妖怪が全てをひっくり返して去っていく。

    この、私には想定外のラストが余韻を残して素晴らしい。
    自分と妻以外の、他の人からは兄の存在が消去されてしまったという衝撃。
    弟はこの先兄をどう記憶にとどめていくのか、父親とどう向き合っていくのか、
    妻とどう生きていくのか。
    「オヤジの見舞いに行かなくちゃ」という台詞に明るさを予感させる。

    あー、でもなー、兄の心情は報われなかった気がするし、
    そりゃ弟の記憶の中に生きてはいるけど
    オーギソヨソヨってアンタ、何てことしてくれたのよー!
    と心が乱れたまま劇場を後にしたのだった。
    面白かった。



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    2019/09/20 02:32

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