3つの時代が非時系列的に展開しても混乱させない
確かな構成力に加えなんらかの思想や押しつけがましい
メッセージ色の希薄さもあり、素直に各時代の息吹を
感じ取ることができる、ある女系ファミリーのいわば
紀伝スタイルの物語。
また、ローズの出自がらみの場面などによく表れているが、
1から10まで説明せず、観る側の想像力や洞察力に期待する
手法が特徴的な作品でもあり(現在シアターコクーンで上演中の、
蜷川張りの演出が際立つ『アジアの女』もミニマムのセリフで
展開させるあたりは近いものがある)、この点では、劇中で
丁寧に説明謎解きをしてくれる、現在世田谷で公演中の
『愛と哀しみのシャーロック・ホームズ』とは好対照
(いささかふがいないダメ男たちと食えないしたたかな女たち
との取り合わせというところは似ているが)。
もちろん、人物造形の巧さも含め作劇の妙で普通に鑑賞しても
味わいのある作りの作品になってはいるが、ただ、舞台がなじみの
薄いクロアチアということで、クロアチアを含め旧ユーゴスラヴィアの
地理や歴史的背景を(ネットでもあるいは例えば、柴宜弘さんの
『図説 バルカンの歴史』といった書籍でも目を通して)前もって
確認しておけば、作品のみえ方が格段に違ってくるはず。
歴史を知る上でノンフィクションも含め歴史小説や映画などを
参考にするのは好ましいとはいえないが、入り口としてなら今の場合、
坂口尚さんの、第二次世界大戦下のユーゴスラヴィアを舞台にした作品
『石の花』
もある(1980年にヨシップ・ブロズ・チトーがなくなり、
1989年の「ベルリンの壁」崩壊、1991年にユーゴスラヴィア内戦が
はじまる間の、1983年から1986年まで連載されたが、
この時代にすでに、多民族国家ユーゴスラヴィアに世界の縮図を
みてとり『石の花』を描いていた作者の慧眼には驚嘆)。
旧ユーゴ関連の演劇作品では、この4月に上演された、演劇ユニット
OVa9 第1回公演で、ユーゴスラヴィア崩壊後、1995年頃のボスニアの
難民キャンプを舞台に傷を負った女性たちを描いた、アメリカの
女性劇作家イヴ・エンスラーの
『Necessary Targets ~ボスニアに咲く花~』
が記憶に新しい。