満足度★★★★★
観劇は過去一度だけであるが十分にインパクト有り、舞踊というカテゴリーを文句を言わせない着想で拡張し続け、ついに舞踊でさえなくとも観客に飲ませてしまう山下残が今回何を見せるのか。なぜマレーシア選挙か。超気になって出掛けた。
素材は一年前政権交替を起こした選挙で、映像もドキュメント、出演者まで当人という特殊な出し物だ。ファーミ・ファジールの出で通訳に付くのが青年団の松田弘子でこれが「出来る」故のオファーなのか俳優としてのチョイスか判らない(恐らく出来るんだろうが「実は全然喋れなくて」とかヒネリも有りな雰囲気)。
ドキュメント素材をパフォーマンスとして見せる形態に演出家・実演家「山下残」の名前が光るが、マレーシアの国政選挙への着目にも(縁もあったにせよ)山下残の影が見える。選挙運動の紹介だけをやっておりその事で舞台は完結しているのだが、我らが無名候補ファジール(アーティストでもある)の選挙活動の帰芻に関心が高まるだけでなく批評性を帯びて身に迫ってくる。彼の当選と、マレーシアの建国以来初の政権交代の実現の中に何があったのか、読み取る材料はそのプロセス。観客はその経過に身をおいて歴史的事態へ突き進む高揚に浸り、迎えた結末に揺さぶられている。
我が国の選挙、即ち政治状況の体たらくが過るが、人が何かに気付き動き始めるきっかけというのは意外な場所に眠っていてその日を待っているのかも知れない。
斬新かつ確かな仕事。