満足度★★★★
鑑賞日2019/03/22 (金) 14:00
座席1階A列1番
最近は劇団チョコレートケーキへの新作よりも、他劇団への脚本提供が目立つ古川健氏。
どこの劇団も、あの古川健氏の新作!ということを前面に出すので、見落とすこともなく、いつも満員である。
それにしても、その提供サイクルは早く、自前のチョコレートケーキ公演は大丈夫か、と心配になってしまうが、何のことはない、過去公演のブラッシュアップで、再演でも高評価を得ているのだからたいしたものだ。
むしろ、劇団員の皆さん、特に西尾氏などは客演で腕を磨いているようだし、他の浅井、岡本両氏もまた腕を磨いて私たちの前に現れてくれることだろう。
さて、古川氏は自身の脚本については、演出家のアレンジに一身に身を任せるようで、同じ作者であるからしてテーマ性については近似的であっても、かなり劇団毎のカラーというか、雰囲気に取り込まれて、テイストに差が出るものだなあ、と感じることが多い。
この作品も、その激烈な題名からとは異なり、かなり俳優座独特の理想主義、人間至上主義、あるいは性善説的な風潮の作品に仕上げられている。日本への帰国時に祖母と父親がなくなり、幼子と離れ離れになったことが語られるが、それでも他の皆は無事帰国し、現在も元気に暮らしているとなれば、それ以上に何を求めようか。彼ら南部の開拓団も、他の開拓団のように自決を選ぼうとしていたのだし、それでなくとも死地においやられたのかもしれないのだから。
もし、チョコレートケーキが上演しようとすれば、もっと開拓団と中国人との深刻な対立や、暴力性が描かれていただろう。劇中繰り返される、良い人もいれば悪い人もいる、という何気ない道徳訓も、もっと構図的に示されていたと思う。
舞台冒頭と最後に登場する現在(日中国交正常化直後)の大陸でのチャンさんと息子との邂逅は、置いてきた幼子が大きく成長していることを示し、民族的な対立が恩讐のかなたになったことを示し、観客に安らぎを取り戻してくれる。
ただし、「血のように真っ赤な夕陽」と表現された、あの激烈な生の瞬間の軌跡は、薄められた感があるが。